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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第12話:突撃、最強の魔王のお膝元!

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【Ⅵ】カザンドラ到着!

 宿屋の部屋は三人では手狭だが、それでも身内で宿泊するには十分な広さがある。


 ローザの棺をベッドの下に設置して、ユウは一人用のベッドの上をゴロゴロと転がる。それから思い出したように「あ」と起き上がると、紙の束と羽ペンを取り出した。

 次の街へ転移する為の座標の計算をしなければ、明日は徒歩移動になってしまう。



「ユウ坊は計算すんのか?」

「うん」



 ベッドの近くに置かれた棚を机の代わりにして、ユウは紙面に羽ペンを走らせる。


 ゼノはそんな働き者のユウを撫でてやると、



「じゃあ、アタシは夕飯の調達してくるな。メイドと一緒に留守番しててくれよ」

「うん」



 計算式を書き込みながら、ユウはゼノに応じる。


 ゼノは計算に没頭するユウを一瞥してから、部屋を出た。


 棺を設置して手持ち無沙汰になったローザは、計算式を書き込んでいくユウの横に腰掛けて「ご主人」と呼びかける。



「魔王の存在が怖くないのか?」

「怖くないよ」



 ユウは計算式を書き込みながら、ローザの質問に答える。



「だって、ぼくは会ったことないもん。怖いおじいちゃんだったら、多分ぼくも怖いと思うもん」



 会ったこともない人を怖がることなんて出来ず、ユウは素直にそう述べる。


 ローザはやっぱりかとばかりに肩を竦めると、



「ご主人はそういう性格じゃからのぅ。本当、見た目とはそぐわなんだ」

「人は見かけで判断しちゃいけないってゼノに教わったもん」



 ユウは「出来たぁ」と計算式が書き込まれた紙を広げ、今度は魔法陣を描き出す。

 綺麗に円形を描くと、その内側に幾何学模様を書き込み出す。数分もしないで魔法陣が完成し、ユウは羽ペンを棚の上に放り出した。


 背筋を反らして関節を鳴らすと、ユウは「ううー、目が痛い……」と青い瞳を擦る。



「ねむ……ううー……」

「珍しく複雑な魔法を連続で使った影響じゃな。少し仮眠を取るといいのじゃ」



 ローザの小さな手がユウの頭に伸ばされて、そっと彼女の膝の上に倒される。


 ポンポンと頭を撫でる彼女の手のひらの優しさが心地よく、ユウは小さな欠伸をすると同時に目を閉じた。





「ユウ坊、飯が出来た――おっと、メニューの変更をしてこなきゃいけねェか?」



 夕飯を作って戻ってきたゼノは、膝で眠るユウの頭を撫でながら慈愛に満ちた目で主人を見つめるローザを目撃することとなる。


 彼女は、戻ってきたゼノに対して勝ち誇ったような笑みを見せると、



「残念じゃったのぅ、性悪ダークエルフ。今日は妾の勝ちじゃ」

「あ? いつから勝ち負けが決まったんだ腐れメイド。オマエは棺の中で眠るから、どうせ一緒に寝ることもねェだろ」

「う、うぐぐ……吸血鬼に対する嫌味かッ……!!」

「嫌味もクソもなく、ユウ坊に触れようとするオマエが悪い」



 ユウが眠っている間、ゼノとローザはしょーもない喧嘩をしていた。


 夕飯の匂いに釣られてユウが起きたのは、その五分後のことである。



 ☆



「おはよーございます!! 旅立ちです!!」



 次の日、ユウは受付の女性に元気よく旅立つことを告げ、部屋の鍵を返却した。


 治癒魔法のおかげで骨折が見事に完治した女性は、にこやかにユウから返却された鍵を受け取る。



「おはようございます。よく眠れましたか?」

「うん!! 快適でした!!」

「それはよかったです」



 ユウが満足げに頷く後ろで、ゼノが「行くぞ、ユウ坊」と彼に呼びかける。


 両手で長杖ロッドを握りしめて、女性にペコリと頭を下げてから、ユウはゼノとローザを追いかけて宿屋を飛び出した。


 天気は快晴、気温も良好。

 コルガ村は今日も平和な様子で、魔物に侵略されている気配はない。


 ユウは昨日のうちに書き上げた魔法陣を広げて、



「今度の転移魔法でね、カザンドラ行けるよ」

「お、もうそんなに行けるのか?」

「うん!! 昨日ね、時間がたくさんあったから頑張って座標計算したんだよ」



 ユウは「えへん」と胸を張り、ゼノに頭を撫でられる。



「じゃあ、行こう」

「おう。頼むぞ、ユウ坊」

「うー、朝日がぁ、朝日がぁ……」

「ドジっ子メイドは朝に弱いな、おい。さっさと起きろ」



 ゼノはローザの首根っこを掴み、ユウの肩を掴む。


 昨日のうちに書き上げた魔法陣を広げて、ユウは長杖を掲げる。魔力を流して、魔法陣を起動。


 ――少しな浮遊感のあとに、景色が長閑な村の光景から変貌する。


 ガヤガヤと賑やかな喧騒。

 豊かな街並みと人の流れの多さ。商品の流通もあり、エレノラよりもコルガ村よりも栄えた最前線の街。


 役目を終えた魔法陣をビリビリに破きながら、ユウは青い瞳をキラキラと輝かせた。



「わあ、すごーい!!」



 ここが最前線の街、カザンドラ。


 連なる街並みの向こう側に、物々しい雰囲気を漂わせる石造りの巨大な城がドドンと鎮座していた。

 その部分だけ不気味な黒い雲に覆われて、ゴロゴロと雷が鳴っている。それだけで、事情を知らないユウやゼノでも王城の正体が分かった。



「あれが魔王城?」

「そうだな、立派だなァ」

「お主ら、この世の支配者の城を前に観光客みたいな反応をするんじゃな……」



 恐ろしい城を前に瞳を輝かせるユウとゼノに、ローザはげんなりとした視線を送るのだった。

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