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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第12話:突撃、最強の魔王のお膝元!

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【Ⅳ】休憩には美味しいパイを

 少しの浮遊感のあと、景色が切り替わる。


 転移魔法によってまずは『エレノラ』の近辺までやってきたユウ、ゼノ、ローザの三人は、転移魔法の成功を喜んだ。



「やったー!!」

「やったな、ユウ坊」

「凄いのじゃ、ご主人よ!!」



 ユウは長杖ロッドを天空に突き上げて喜びを露わにし、ゼノは喜ぶ彼の頭をぐりぐりと撫でてやり、ローザはユウの腰に抱きついた。


 草原のど真ん中で喜んでいる三人に、通行人が変なものでも見るかのような視線を投げかけている。

 通行人の視線など無視してキャッキャと喜ぶ彼らは、



「じゃあ、休憩してから次の街に飛ぶか。ユウ坊、出来るか?」

「計算するよ!! でもお腹減った!!」

「じゃあ、軽く何か食うか。そこそこ大きな街だし、食堂の一つぐらいあるだろ」



 ユウは「うん」と頷くと、両手で長杖を握りしめて先を歩くゼノの背中を追いかける。


 エレノラの街並みは、フラウディア王国と比べると幾分か劣るが、それでもそこそこの大きさがあると分かる。

 建ち並ぶ店舗は客人で活気付き、店主がにこやかに客人を店へと案内する。母親に手を引かれて歩く子供が「疲れたぁ」と駄々を捏ね、老夫婦が日光浴をしながら長椅子に座って駄弁っている。


 とても平和な街だ。魔王に脅かされているとは、到底考えられないほどに。



「ゼノ、ゼノ、何か食べられるものあるかな?」

「あるだろ。ほら、あそこ食堂があるぞ」



 ゼノが示した先には、小さな食堂があった。


 店先には『今日のお勧め』と書かれた黒板が設置され、可愛らしい丸文字で料理名が記載されている。ちょうど客も少ないのか、三人ぐらいなら余裕がありそうだ。


 ユウは黒板をじっと見つめ、



「牛挽肉のパイ? おすすめ?」

「そうみたいだな」

「美味しいかな? ぼく食べてみたい!!」

「じゃあここにすっか。ドジっ子メイドも文句ねェだろ」

「だから、何故に妾の呼び方が『ドジっ子メイド』で統一されておるのじゃ。妾はドジっ子ではないのじゃ!!」



 ローザが頬を膨らませてゼノに抗議するが、ゼノは「どうでもいいだろ」と呼び方を改めることはしないらしい。


 扉を開ければ、小さな鐘がカランカランと音を立てて来客を告げる。



「いらっしゃいませ!! 三名様でよろしいでしょうか?」



 愛想の良さそうな給仕の少女に「お席にご案内しますね!!」と、店内に通される。


 給仕の少女は三人分のお冷を運んでくると、



「ご注文がお決まりになりましたらお呼びくださーい」

「はーい!!」



 ユウは給仕の少女の呼びかけに対して元気に返事をし、お品書きに目を落とす。どれもこれも美味しそうな料理ばかりだ。


 きゅるきゅる、と空腹を訴え始めた腹を撫で、ユウは「やっぱりこれにする!!」と注文を決める。



「ぼく、お外に出てたパイにする」

「そうか? じゃあアタシも同じ奴にするかな」

「妾はこの果実の盛り合わせにするのじゃ。へるしぃにいくのじゃ」

「虫か?」

「この可愛さで『虫か?』はあり得んじゃろ!!」



 ゼノとローザの一悶着を聞きながら、ユウは次の街へ飛ぶ為の計算を始めるのだった。



 ☆



 牛挽肉のパイがめちゃくちゃ美味しかった。


 一人分のパイの大きさが規格外であり、さらに中身の牛挽肉も濃い味付けでユウもゼノも大満足である。パイと言うから侮っていたが、まさか食事に足りるほどとは思わなかった。


 新鮮な果物の盛り合わせを食べたことでローザも満足したようで、先程からご機嫌な様子である。



「ユウ坊、次に飛ぶ街の名前は分かるか?」

「地図見せてぇ」



 ゼノから地図を受け取り、ユウは次の街の位置を確認する。


 次に転移する街は、街とは呼べない規模だった。規模で言えば村と呼んでも差し支えないだろう。

 村の名前は『コルガ村』であり、小さな宿屋があるようだ。時間帯からして、ここで休んだ方が賢明だろうか。



「ここでお泊り?」

「そうだな。オマエにあまり無理をさせるのもアレだし」

「ぼくはまだ頑張るよ?」

「休める時に休んどけ。カロンナイトってのを五〇体も倒さなけりゃならねェんだから」



 ゼノはユウの銀色の頭を乱暴に撫で、ユウは「うにゅー」とゼノの手のひらの柔らかさを享受する。


 話もまとまり、三人はお会計を済ませて店を出る。

 太陽も西に沈みかけていて、道も帰路を急ぐ人が多くなった。やはり、今回の転移で終わりだろうか。


 ユウは紙にガリガリと魔法陣を描き、それらに長杖の先端を突きつける。



「じゃあ、行こ」

「おう。頼むぞ、ユウ坊」

「うん」



 ユウは頷くと、転移魔法を発動させる。


 少しの浮遊感と共に、三人はエレノラの街から忽然と姿を消した。

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