【Ⅳ】休憩には美味しいパイを
少しの浮遊感のあと、景色が切り替わる。
転移魔法によってまずは『エレノラ』の近辺までやってきたユウ、ゼノ、ローザの三人は、転移魔法の成功を喜んだ。
「やったー!!」
「やったな、ユウ坊」
「凄いのじゃ、ご主人よ!!」
ユウは長杖を天空に突き上げて喜びを露わにし、ゼノは喜ぶ彼の頭をぐりぐりと撫でてやり、ローザはユウの腰に抱きついた。
草原のど真ん中で喜んでいる三人に、通行人が変なものでも見るかのような視線を投げかけている。
通行人の視線など無視してキャッキャと喜ぶ彼らは、
「じゃあ、休憩してから次の街に飛ぶか。ユウ坊、出来るか?」
「計算するよ!! でもお腹減った!!」
「じゃあ、軽く何か食うか。そこそこ大きな街だし、食堂の一つぐらいあるだろ」
ユウは「うん」と頷くと、両手で長杖を握りしめて先を歩くゼノの背中を追いかける。
エレノラの街並みは、フラウディア王国と比べると幾分か劣るが、それでもそこそこの大きさがあると分かる。
建ち並ぶ店舗は客人で活気付き、店主がにこやかに客人を店へと案内する。母親に手を引かれて歩く子供が「疲れたぁ」と駄々を捏ね、老夫婦が日光浴をしながら長椅子に座って駄弁っている。
とても平和な街だ。魔王に脅かされているとは、到底考えられないほどに。
「ゼノ、ゼノ、何か食べられるものあるかな?」
「あるだろ。ほら、あそこ食堂があるぞ」
ゼノが示した先には、小さな食堂があった。
店先には『今日のお勧め』と書かれた黒板が設置され、可愛らしい丸文字で料理名が記載されている。ちょうど客も少ないのか、三人ぐらいなら余裕がありそうだ。
ユウは黒板をじっと見つめ、
「牛挽肉のパイ? おすすめ?」
「そうみたいだな」
「美味しいかな? ぼく食べてみたい!!」
「じゃあここにすっか。ドジっ子メイドも文句ねェだろ」
「だから、何故に妾の呼び方が『ドジっ子メイド』で統一されておるのじゃ。妾はドジっ子ではないのじゃ!!」
ローザが頬を膨らませてゼノに抗議するが、ゼノは「どうでもいいだろ」と呼び方を改めることはしないらしい。
扉を開ければ、小さな鐘がカランカランと音を立てて来客を告げる。
「いらっしゃいませ!! 三名様でよろしいでしょうか?」
愛想の良さそうな給仕の少女に「お席にご案内しますね!!」と、店内に通される。
給仕の少女は三人分のお冷を運んでくると、
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びくださーい」
「はーい!!」
ユウは給仕の少女の呼びかけに対して元気に返事をし、お品書きに目を落とす。どれもこれも美味しそうな料理ばかりだ。
きゅるきゅる、と空腹を訴え始めた腹を撫で、ユウは「やっぱりこれにする!!」と注文を決める。
「ぼく、お外に出てたパイにする」
「そうか? じゃあアタシも同じ奴にするかな」
「妾はこの果実の盛り合わせにするのじゃ。へるしぃにいくのじゃ」
「虫か?」
「この可愛さで『虫か?』はあり得んじゃろ!!」
ゼノとローザの一悶着を聞きながら、ユウは次の街へ飛ぶ為の計算を始めるのだった。
☆
牛挽肉のパイがめちゃくちゃ美味しかった。
一人分のパイの大きさが規格外であり、さらに中身の牛挽肉も濃い味付けでユウもゼノも大満足である。パイと言うから侮っていたが、まさか食事に足りるほどとは思わなかった。
新鮮な果物の盛り合わせを食べたことでローザも満足したようで、先程からご機嫌な様子である。
「ユウ坊、次に飛ぶ街の名前は分かるか?」
「地図見せてぇ」
ゼノから地図を受け取り、ユウは次の街の位置を確認する。
次に転移する街は、街とは呼べない規模だった。規模で言えば村と呼んでも差し支えないだろう。
村の名前は『コルガ村』であり、小さな宿屋があるようだ。時間帯からして、ここで休んだ方が賢明だろうか。
「ここでお泊り?」
「そうだな。オマエにあまり無理をさせるのもアレだし」
「ぼくはまだ頑張るよ?」
「休める時に休んどけ。カロンナイトってのを五〇体も倒さなけりゃならねェんだから」
ゼノはユウの銀色の頭を乱暴に撫で、ユウは「うにゅー」とゼノの手のひらの柔らかさを享受する。
話もまとまり、三人はお会計を済ませて店を出る。
太陽も西に沈みかけていて、道も帰路を急ぐ人が多くなった。やはり、今回の転移で終わりだろうか。
ユウは紙にガリガリと魔法陣を描き、それらに長杖の先端を突きつける。
「じゃあ、行こ」
「おう。頼むぞ、ユウ坊」
「うん」
ユウは頷くと、転移魔法を発動させる。
少しの浮遊感と共に、三人はエレノラの街から忽然と姿を消した。




