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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第12話:突撃、最強の魔王のお膝元!

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【Ⅱ】珍道中の始まり

 静かな森の中にある家まで転移魔法で帰ると、隷従魔法で従えた吸血鬼メイド――ローザがご機嫌な様子でユウとゼノを出迎えた。



「お帰りなのじゃ。今日は仕事を受けてこなかったのか?」

「んーん、受けてきたよ」



 ユウは羊皮紙をローザに見せつけながら、



「魔王城に行くの!!」

「んがッ」



 ローザの口から変な声が漏れた。


 彼女の持っていた羽箒が、カタンと音を立てて床に落ちる。

 赤い瞳を見開き、小さな牙が覗く可愛らしい口をあんぐりと開け、まるで石像よろしくその動きを止めてしまう。


 変な反応をしたまま止まってしまったローザに、ユウは「おーい?」と手を振って状態を確かめる。



「ゼノ、ゼノ」

「おう」

「ローザちゃん、石になっちゃった」

「見りゃ分かる」



 ゼノはローザの綺麗な金髪をクイクイと引っ張ってみるが、やはり石像になってしまったかのように動かない。


 こんな状態になってしまった彼女に、挨拶もクソもないだろう。

 強制的にぶん殴って覚醒させることもゼノの作戦にはあったが、そんなことをしようものならユウが確実に悲しむ。


 固まるローザの目の前をチョロチョロと移動しながら、懸命に「ローザちゃーん?」と呼びかけるユウにゼノが言う。



「行こうぜ、ユウ坊。早く出発しねェと日が暮れるぞ」

「うん、そうだね。ローザちゃんは仕方ないかぁ」

「待て待て待てぇーい!! お主ら正気かぁ!?」



 正気を取り戻したローザが、ユウとゼノに飛びついてきた。



「魔王城!? 死にに行くようなものじゃ!! うっかり魔王に出会ってしまったらどうするつもりじゃ!?」

「あ、ローザちゃん治ったね」

「チッ、そのまま石像になってりゃよかったのに」

「妾は病気でも何でもないのじゃ!! あと性悪ダークエルフは態度を改めよ!! 妾はお主の為にも言うておるのじゃ!!」



 きゃんきゃんと甲高い声で叫ぶローザは、



「魔王城はレベルの高い魔物の巣窟になっているのじゃ!! そんなところに行くなんて、死にに行くようなものじゃぞ!?」

「ええー、でも次のお仕事は魔王城じゃないといけないし……」

「今すぐ断ってくるのじゃ!!」



 ローザは家の外を指差すと、そう叫んだ。


 しかし、ユウとゼノにも生活がある。

 いくら魔王四天王を倒して多額の報酬を得たとしても、有限ではない。ちゃんと働いて安定した収入を得なければ心配なのだ。


 ユウとゼノは顔を見合わせると、二人揃って首を横に振った。



「やだ」

「却下」

「何故じゃ!!」

「働かないと、ご飯が美味しくないもん」



 ユウは長杖ロッドを両手で握りしめると、



「大丈夫だよ、ローザちゃん。ぼくたち絶対に帰ってくるから」

「場所が場所だから留守番してもらうことになるけど、まあ明日には帰ってくるから」

「明日ゥ!? なら妾も連れてけ!! 台所が大惨事になってもいいのか!?」



 ついにローザは自分の家事の出来なさを利用して、台所の無事を人質にし始めた。


 これに動揺したのは、ゼノである。

 家事をする彼女にとって、台所は聖域だ。荒らしてほしくないことは分かる。


 ユウは「んー? 何でぇ?」と首を傾げるが、ゼノが渋々と言ったように応じる。



「仕方ねェ……さっさと荷物をまとめてついてこい」

「よっし!!」



 ローザは拳を天井に突き上げると、いそいそと身支度をし始めた。寝床の棺に着替えを入れて背負うと、蝙蝠こうもりで作った日傘を差してご機嫌な様子で戻ってくる。


 ユウは苦虫を噛み潰したかのような顔のゼノを見上げ、



「ゼノ、どうしたの?」

「……あの野郎にせっかくの新居の台所を荒らされるのは嫌だ」



 低い声で唸るように言うゼノに、ユウは「ゼノにも嫌なものがあるんだねぇ」などと応じた。



 ☆



「ねえねえ、ローザちゃん」

「何じゃい」

「もしもね、魔王を倒しちゃったらどうなるのかな?」

「そりゃあもちろん、世界が平和になるじゃろ」



 森の中をのんびりと歩きながら、ユウとローザは呑気に言葉を交わす。


 ユウは「ふーん、そっかぁ」と頷くと、



「魔王って魔物を作った人?」

「そうじゃな。闇魔法を極めると、魔物を作り出すことが出来るのじゃ」

「ローザちゃんは消えちゃう?」

「吸血鬼は独立した種族じゃ。魔王に与した訳ではないのじゃ」



 ローザは心外なとばかりに眉根を寄せて、ユウの脇腹に軽く手刀を突き刺した。



「それに、妾はご主人の隷従魔法で奴隷にされている状態じゃ。生存の為の魔力供給はご主人から行われておる」

「ええー、ぼくそんなことしてたかなぁ?」

「隷従魔法を介しているから実感は湧かんがの。ま、妾は魔王など気にはしておらんが」



 ツーン、とそっぽを向くローザは、



「妾はお主らが死ななければ、それでいいのじゃ」

「ローザちゃん……」

「お主らが死んでしまったら、美味い飯にありつけなくなるのじゃ」



 じゅるりと涎を垂らして言うローザに、ユウは笑いながら言う。



「ローザちゃん、ゼノのご飯好きなの? 美味しいもんね」

「そうなのじゃ。性悪ダークエルフは性格こそ問題ありきじゃが、飯の美味さは折り紙付きなのじゃ」

「おい、聞こえてるぞドジっ子吸血鬼メイド。簀巻きにして日向に放置してやろうか」



 地図を見ながら歩くゼノが、ユウとローザへ振り返って二人を睨みつける。


 魔王城までの珍道中は始まったばかりだ。

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