【Ⅶ】表彰するならケーキをくれ
次の日のことである。
「おはよーございまーす!!」
冒険者ギルドに、ユウの大きな声が隅々まで響き渡る。
他の冒険者が注目する中、ユウとゼノは受付まで近寄る。
笑顔で仕事を仲介する受付嬢に「おはよーございまーす!!」と礼儀正しく挨拶したユウは、
「お仕事ください!!」
「では、こちらの中からお選びください」
受付嬢はにこやかにいくつかの羊皮紙を取り出して、受付に並べる。
以前に見たドラゴンの討伐など明らかに難易度の高そうな仕事ばかりが並ぶが、ユウとゼノは羊皮紙に記載された仕事の内容を吟味していた。
まともな思考回路を有していれば、即座に断るべき内容の仕事の数々を前に、彼らは「これがいいかな?」「いや、これがいいんじゃねェか?」などと話し合っている。まるで買い物で商品を選んでいるかのような気軽さだ。
その中で、ユウが「あッ」と一枚の羊皮紙を拾い上げる。
「これ!!」
「こちらを受注なさいますか?」
「んーん」
ユウが差し出した羊皮紙を手にした受付嬢が朗らかな笑みと共に問うが、彼は首を横に振った。
「倒したの」
「た、倒した?」
「うん。昨日、おうちに来たから倒したの」
受付嬢の視線が、手元の羊皮紙に落とされる。
大悪魔アベルの討伐。
もちろん、難易度はSSS級だ。普通の感覚で言えば、即死級の仕事である。
しかし、ユウとゼノは昨夜、この大悪魔アベルを討伐してしまった。
魔王四天王に名前を連ね、魅了の魔法を得意とするこの大悪魔を無傷で。
受付嬢は羊皮紙を置くと、
「ユウ様、ゼノ様。お手数ですが、冒険者カードを拝見させていただいても?」
「どうしたの?」
「どうした?」
受付嬢の申し出に、ユウとゼノは首を傾げる。それから、素直に受付嬢へ冒険者カードを差し出した。
彼女は二人分の冒険者カードを受け取ると、ギルドの奥へ引っ込んだ。
それから数秒と置かずに、甲高い絶叫がギルド内を揺るがした。
「本当に討伐しているじゃないですかぁッ!!」
他の冒険者がざわめくが、ユウとゼノは二人揃って「討伐したもんね」「そうだな」と言い合っていた。
☆
そして毎度恒例、別室に呼ばれるオチである。
受付嬢によって別室待機を命じられ、ユウとゼノは「今度はご褒美貰えるかな?」「貰えるかねェ」とほわほわと会話する。
「……あー、またお前らか」
「あ、えらいおにーさん」
「責任者じゃねェか」
ユウとゼノが待つ別室にやってきたのは、ギルドの責任者であるクラウド・リノアだった。
くすんだ金髪をガシガシと掻きながら、クラウドはユウとゼノの向かいにどっかりと腰掛ける。そして持ってきた羊皮紙に視線を落とし、
「えー、大悪魔のアベルを討伐……マジかぁ」
「冒険者カードで分かんのか?」
「冒険者カードには、今までどんな魔物を討伐したのか記載されるんだよ。最新の討伐記録が大悪魔アベルだったって訳だ」
ユウとゼノへそれぞれ冒険者カードを返却し、クラウドは苦笑する。
「凄えな、お前ら。魔王四天王を三体も倒しちまうなんてなァ」
「本当にアイツらって魔王四天王なのかよ。四天王って割には、あっさりとユウ坊にやられるし」
「いや、四天王のはずなんだよ。誰も敵わなかったんだから」
クラウドは「あー」と唸ると、
「本格的にお前らは英雄として語られることを成し遂げちまった。よって、国王から直々に表彰されることになるんだが……」
「やだ」
ユウはきっぱりと否定の意を込めて言い放った。
クラウドはやれやれと肩を竦めると、
「我儘を言うなよ。こっちも新聞記者やら王宮の使いやら押さえつけるのに大変なんだから」
「知るかよ。ユウ坊が出たくねェって言ってんだから、何とか頑張れよ」
「そうは言ってもなァ……」
クラウドも困り果てている様子であるが、ユウとゼノからしても冗談ではないのだ。
ユウもゼノも、新聞記者や群がる信者の対応にはうんざりしているのだ。人混みを歩けば注目されることは間違いないので、それが嫌で森の中に家を買ったのだ。
宿屋まで押しかけられ、本当に参っていたのだ。これ以上注目されるようなら、本格的に田舎に引きこもらない勢いである。
ユウは頬を膨らませると、
「英雄とか知らない!! 本当にお祝いしてくれるなら、食べれないものよりも美味しいものがいいもん!!」
そう叫ぶと、ユウはゼノの腕を掴んで「《ぴょーん》!!」と唱えた。
短縮された呪文による転移魔法である。
森の中にある家の前まで転移してきたユウとゼノは、ちょうど掃除をしていたローザに驚きながらも出迎えられる。
「ご主人とイカれダークエルフではないか。仕事に行ったのではないのか?」
「今日は行かない!! 疲れた!!」
完全にヘソを曲げてしまったユウは、長杖を壁に立てかけるとソファにうつ伏せになって飛び込んだ。
ローザは「ええ……」と呟き、ゼノに説明を求めるような視線を投げる。
彼女は「事情があってな」と苦笑すると、
「国王からの表彰が嫌だから、食えねェものより美味いもの寄越せってさ」
「ああ、ご主人らしいのぅ……」
ソファで不貞寝するユウへ、ゼノとローザの生暖かい視線が突き刺さるのだった。
後日、冒険者ギルドを通じて一抱えほどもある白い箱が届いた。
送り主は国王であり、品名は、
「ケーキだ!!」
「しかも国で一番の料理長に作らせた、どこにも出てないケーキだってよ」
「国王万歳!!」
艶々の果物と最高級のチョコレートが使用されたホールケーキを前にユウのご機嫌も直り、国王陛下に対する印象も変わった。




