【Ⅴ】再来! 悪魔のへんたいさん
「あ? 悪魔が現れたァ?」
「そうだよ!!」
ミザリーとシュラを見送って、入れ替わるようにゼノがローザを引き連れて帰ってきた。
どうやら無事に家の購入は完了したようで、今日購入してきた夕飯の材料を調理しながらゼノが眉根を寄せる。
「また魔王四天王の連中か? 最近多いなァ、節操ってモンがねェのかよ」
「女の人をたくさん引き連れて歩いてたよ。ぼく、へんたいさんかと思ったんだもん」
椅子をガタガタと揺らしながら、ユウは唇を尖らせる。
あの悪魔の変態さんを仕留め損ねたことが、よほど彼の中で燻っているようだ。次に出会った時は、ゼノの目に触れる前に極大魔法を使って倒してやる所存だ。
明らかに不機嫌な様子のユウに、ローザが「彼奴はそうじゃの」と頷く。
「魔法四天王の悪魔と言えば、大悪魔のアベルじゃろ。魅了の魔法が得意で女人を操ってはハーレムを築き、食料とするのじゃ」
「それは、アレか。頭からムシャムシャ食うのか?」
「阿呆、悪魔の連中がそんな汚い真似をすると思うてか」
ローザがフンと形のいい鼻を鳴らすと、
「悪魔の連中は人間の精気を吸って生きるのじゃ。アベルは美しい女人の精気を好み、魅了の魔法によって虜にしてしまうのじゃ」
吸血鬼の少女は赤い瞳をキラリと輝かせ、料理中のゼノを見やる。
「そこなダークエルフも気をつけるのじゃ。お主はあのヘラニアでも狙われた美人じゃからのぅ、アベルの奴に狙われるじゃろ」
「その前にぼくが倒すもん!!」
ユウがローザに対して叫んだ。
アベルだかバベルだか知らないが、絶対に次こそは許さない。
シュラからも「悪魔は光魔法が苦手」と弱点を聞いているので、光魔法や聖なる魔法で仕留めてやるのだ。
すると、扉がトントンと小さく叩かれた。
すでに外は真っ暗で、森の中は明かりすらない。こんな時間に客人がやってくるとは考え難い。
「誰だ、こんな時間に」
料理を中断したゼノは、何の警戒心も持たずに扉を開ける。
扉を開けると、
「夜分遅くに申し訳ございません」
艶やかな黒髪に垂れがちな紫色の瞳、顔立ちは端正なもので世の中の女性を虜にしそうだ。黒いシャツやズボンなどといった全体を黒色でまとめた服装で、武器の装備はしていないどころか外套すら着ていない。
男は非常に申し訳なさそうな表情で、
「道に迷ってしまいまして、今晩はここに泊めて」
「あばよ」
バタン、と。
ゼノは問答無用で扉を閉めた。
基本的にゼノはユウ以外の異性に興味を示さないので、相手がどれだけ端正な顔立ちであっても見惚れたりなどしない。
やれやれとため息を吐くゼノに、ユウは「誰なの?」と問いかけた。
「なんか、男だったな」
「そっかぁ」
「いや困ってそうじゃったぞ? お主、鬼畜か?」
ローザがジト目でゼノを睨みつけるが、彼女は素知らぬ顔で料理に戻った。
しかし、再びトントンと扉が叩かれる。
先程の男はゼノに手酷く扱われたにも関わらず、まだ外にいるのだろうか。
「ゼノ、ゼノ。またお客さん」
「無視しろ、無視」
「はぁい」
「お主、血も涙もないのか?」
来訪客を完全に無視するユウとゼノに、ローザが苦言を呈する。
外にいる客人(仮)もそろそろ扉を叩く作業に疲れてきたのか、扉の向こうから呼びかけてくる。
「すみません、すみませーん!! お願いします、今晩だけでいいのでどうか泊めていただけないでしょうか!? すみませーん!!」
「ゼノ……」
「…………」
ユウが「どうしよう……」とゼノと扉へ視線を彷徨わせると、彼女は包丁をまな板の上に置いた。
いや、置いたというより、まな板に包丁を突き刺した。そのおかげでまな板に包丁が垂直に刺さっている。
どすどす、という荒々しい足音を立てて扉に近寄ったゼノは、扉を勢いよく開いた。
やっと開けてくれたことに泣きそうな表情を一転させた男は、ゼノに「泊めてもらえないか」と交渉しようとするが、
「うるせえクソ野郎!!」
ゼノは容赦がなかった。
本当に容赦がなかった。
手加減もクソもなく、また相手が本当に一般人である可能性も排除し、問答無用で彼の整った顔面をぶん殴った。
鮮やかに突き刺さる拳、弾け飛ぶ歯。
ひん曲がった鼻の男が後ろに吹き飛ばされて、夜の闇に消えていく。
拳を振り抜いたゼノが扉を閉めようとすると、闇の向こうから綺麗な笛の音色が聞こえてくる。
ユウはこの笛の音に聞き覚えがあった。
昼間、ミザリーやシュラを操ったあの笛の音だ。
「へんたいさんだッ!!」
「あ、おいユウ坊!!」
ユウは壁に立てかけてある長杖を手に取ると、家を飛び出した。
煌々と輝く月を背に、横笛を吹き鳴らす悪魔が一人。
艶やかな黒い髪を夜風に靡かせ、ユウを見下ろす紫色の瞳は妖艶に輝く。黒い翼を背中から生やし、人として大切な部分を羽根で隠した変態なような格好の色男がそこにいた。
長杖の先端を悪魔に突きつけると、ユウは叫ぶ。
「今度こそ倒す!!」
「ははッ、やってみろ!!」
悪魔アベルは自信満々に笑って、ユウの敵意を受け入れた。




