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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第11話:おにーさんはへんたいさん

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【Ⅳ】逃げられた!

「おやおやぁ? どうしてボクのハーレムに、男がいるのかね?」



 顔を上げれば、ユウの前にはあの道化師のような格好の男が不思議そうな表情で立っていた。


 ユウは道化師のような格好の男を睨みつけ、彼の鼻先に長杖ロッドの先端を突きつける。



「せんせーと、おねーさんと、えーとえーと、女の人たちを誘惑してどうするの?」

「もちろん、ボクのハーレムを築くんだよ」



 道化師の男は恍惚こうこつとした表情を見せると、



「女の子はいいよねぇ。美しくて、柔らかくて、いい匂いがする」

「…………おにーさんは、へんたいさんなんだね」



 ユウは、本当に珍しくその瞳に嫌悪感を滲ませる。


 ここにゼノやローザがいなくて本当によかった、と心の底から思う。

 もしこの場にゼノとローザがいれば、間違いなくこの男と接することになるからだ。ユウはこの気持ち悪い男に、少なくともゼノを触れさせるのは気に食わない。


 長杖を両手で握りしめたユウは、



「《びりびり》!!」

「おっと」



 初歩的な雷の魔法を発動させるが、男は容易く弾いてしまう。弾かれた雷の魔法が木にぶち当たり、バチンと爆ぜる。


 ミザリーやシュラ、他の女性たちが甲高い悲鳴を上げて、ユウと男から距離を取った。賢明な判断である。


 ユウは長杖を男に突き付けたまま、



「せんせー、おねーさん。他の女の人たちを連れて逃げて」

「え、で、でもユウさんは!?」

「ぼくはこのへんたいさんをたおす」



 長杖の先端を指先で突いていた男は、瞳を見開いてわざとらしく驚きを露わにする。



「ボクを倒すと? 出来ると思ってるのかね?」

「出来るもん。ぼく、してんの? たおしたもん」

「ああ、ダーウィンとサラサか。あいつらは弱いものねぇ」



 くすくすと男は小さく笑い飛ばすと、



「ボクは君に倒せないと思うよ。だって」

「《ないない》《むきむき》《ごろごろどん》!!」



 立て続けに魔法を発動させ、今度は容赦なく最上級雷魔法を叩き込む。


 さすがに魔法無効化キャンセル魔法を弾くことは不可能のようで、男の脳天に落雷が降り注いだ。「ぎゃあああああああッ」と男が悲鳴を上げる。


 ぷすぷすと全身を黒焦げにした男は、



「ま、待とう? 話し合おう?」

「お話なんて聞かないもん!!」



 ユウはさらに問答無用で魔法を発動させた。

 今度はいつも使っている雷魔法ではなく、最上級の炎魔法だ。



「《めらめらぼーん》!!」

「ぎゃあああああああッ!! ま、待って話をさせてくれえ!!」



 逃げ惑う男を追いかけて、ユウは連続で最上級炎魔法を発動させるのだった。



 ☆



「あ、あのー、ユウさん? ユウさん。皆さんお逃げになりましたが」

「せんせーとおねーさんも危ないよ?」



 ユウは長杖を構えながら、ミザリーとシュラへ避難するように言う。


 彼の視線は、へなへなと座り込むあの奇抜な男に固定されていた。

 動きの一挙手一投足を観察し、動き出した瞬間に最上級魔法でやっつけてやる所存である。


 男の着ている奇抜な衣装はところどころ焦げてしまい、彼の黄緑色の毛先も縮れてしまっている。ぜえはあと肩で息をする彼は、ユウを見上げている。



「ひ、酷くないか……? 最上級魔法を連続で撃ち込んでくるなんて……」

「酷くないもん。ぼく、へんたいさんをたおすんだもん」



 ユウは男を睨みつけたまま、



「どんな魔法がいいのか、ご希望だけは聞いてあげるんだよ」

「ボクも簡単に倒される訳にはいかないんだけどね……」



 仕方がない、と男はため息を吐いた。


 ゆっくりと立ち上がる男に最上級魔法を叩き込んでやろうとするが、その前に男の背中から何やら翼のようなものが生えた。


 ――そう、翼である。

 夜の闇に溶けるような、真っ黒な翼が。


 ユウが驚きで「うわッ」と声を上げると同時に、男が翼に包まれる。まるで卵のように閉じこもること数秒、翼がゆっくりと開かれた。



「初めまして、素晴らしい魔法使いさん」



 奇抜な格好をしていた男が、ガラリと一変する。


 黒い皮のような衣装は大切なところを隠すだけに留めた露出度の高いもので、艶やかな黒い髪は腰まで届くほど長い。

 ユウを見下ろす紫色の瞳は妖艶さを滲ませ、薄い唇から八重歯が覗く。頬には幾何学模様が刻印されていて、不気味な印象を与えた。


 男は恭しく一礼すると、



「ボクはアベル。悪魔のアベル。魔王四天王の一人だよ」

「じゃあたおすね!!」

「え、そんなあっさり?」



 アベルと名乗った悪魔へ、ユウは最上級雷魔法で応戦する。


 しかし、アベルは華麗に空を飛びながら最上級雷魔法を回避すると、



「ははははは、そんな攻撃ではボクは殺せないよ!!」

「むー!!」



 ユウは長杖を振り回して何とか最上級雷魔法を当てようとするも、アベルはケラケラと笑いながら魔法を回避してしまう。


 いくら無尽蔵の魔力を有しているとはいえ、普通に苛立ちも覚えるのだ。苛立ちを覚えれば、魔法の照準も狂うというもので。


 怒って最上級雷魔法を連発させるユウに、シュラが「何してんのよ!!」と叱責する。



「悪魔は光魔法に弱いのよ!! 雷魔法なんて通じないわよ!!」

「あ、お嬢ちゃん余計なことを!!」



 アベルが舌打ちするとは対照的に、ユウは「ありがと!!」とお礼を言う。


 長杖を握り直したユウは、



「あくまさんだから、教会とか弱いはず……!!」



 しゃらしゃらと長杖を振り回し、ユウはいつものように呪文を唱えた。



「《せーなるひかり》!!」



 ユウにしては長い呪文であるが、やはり短縮された魔法の呪文である。


 すると、ふわふわとアベルの頭上から白い羽根が雪のように降ってくる。

 彼の頭上だけに何故か陽の光が落ち、まるで何かに導かれるような――。



「ひ、ひぃッ!! これは天使の羽根、嫌だ嫌だ天使は嫌いだ!!」

「たおすのーッ!!」



 ユウはしゃらしゃらと長杖を振り回して、さらに「《せーなるひかり》」を唱える。


 アベルの頭上に降る羽根の枚数も増えて、魔王四天王に名前を連ねる悪魔はぎゃあぎゃあと悲鳴を上げながら逃げ回った。



「お、おぼ、覚えてろよッ!!」



 半泣きの状態でアベルはその場から脱兎の如く逃げ出し、あっという間に姿を消した。


 ユウは「たおせなかった!!」と悔しそうに地団駄を踏んだ。

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