【Ⅲ】女だらけの大行列
「じゃあユウ坊、アタシらは不動産屋に行って契約してくるぞ。オマエはここで留守番してろよ」
懐かしの家に住むと決めてから、ゼノはフラウディア王国の不動産屋に戻って契約してくることを告げる。
ユウは備え付けのソファにだらだらと寝そべりながら、
「うん、いってらっしゃい。ぼくお留守番してるね」
「頼むぞ」
「――ゥオイ、待て待て待つのじゃ!!」
扉に向かおうとするゼノに、ローザが待ったをかけた。
ゼノが鬱陶しそうに振り返り、待つことを訴えてくるローザに応じる。
「ンだよ、文句があんのか?」
「あるのじゃ、大有りじゃ!!」
ローザはゼノを睨みつけると、
「妾の扱いが酷いのじゃ!! 妾は荷物ではないのじゃーッ!!」
何と、ローザはゼノに襟首を引っ掴まれて引きずられていた。まるでそれは彼女の言う通り、荷物のような扱いである。
ゼノは「不満があるのか?」と首を傾げ、
「オマエ、こういう扱いが好きだろ」
「どういう解釈をしたらそうなるのじゃ!! 普通に接しろ!!」
「めんど」
「本音が聞こえたぞ今ッ!!」
深々とため息を吐くゼノに訴えても無駄だと判断したのか、ローザは自分に隷従魔法をかけた張本人であるユウに助けを求めてくる。
「主人よ、妾を助けるのじゃ!! このような扱いをしないように、この猫被りダークエルフにも言うのじゃーッ!!」
「よほど命が惜しいようだな、吸血鬼。このまま日傘なしで外に放置してみるか?」
「ひいッ!! しゅ、しゅ、主人!! 助けれーッ!!」
ゼノの脅しを受けたローザは、ガクガクと震えながらユウに助けを求める。
ソファに寝そべっていたユウは「よいしょ」と起き上がると、床の上で放置していた長杖を手に取る。
しゃらしゃらと繊細な装飾品がついた長杖を揺らして、その先端をゼノとローザに向けた。
「《びりびり》」
「ぎゃばッ!?」
初歩的な雷の魔法が発動し、ローザを容赦なく痺れさせる。
ぷすぷすと頭頂部から黒い煙を立ち上らせるローザは、細々とした声で「な、何故、何故じゃ……」と訴えかけてくる。
ユウはソファから立ち上がると、やや焦げた状態のローザをゼノにしっかり持たせた上で、ゼノの頬をぺちんと優しく叩いた。
「ゼノ、ダメでしょ。ローザちゃんをあんまりいじめないであげて」
「はいはい、仰せの通りに」
「ローザちゃんの反応が楽しいからいぢわるしちゃうのも、ほどほどにね」
「へいへい」
ゼノは適当な返事をし、ローザを小脇に抱えて「じゃあ行ってくるぞ」と呼びかける。
ユウは手を振りながら、満面の笑みでゼノとローザを送り出した。
「いってらっしゃい、ゼノ。早く帰ってきてね!!」
☆
「むふーふー」
ゼノとローザを送り出したユウは、早速とばかりにソファを独占してお昼寝を堪能することにした。
このソファは日当たりが抜群で、ゴロゴロと寝転がっているだけでも十分に暖かい。やはりこの家は最高だ。
家の周辺も静かであり、フラウディア王国の中心で寝泊りしていた時よりも居心地がいい。
――そのはずなのだが。
何故だろう、家の外から「あははは」「うふふふふ」と人の笑い声が多く聞こえてくるのは。
ソファでゴロゴロと転がっていたユウは、
「むぅ、うるさい……」
不満げに唇を尖らせて起き上がり、窓からほんの少しだけ顔を覗かせて外の様子を観察する。
燦々と陽光を落とす明るい森の中を、何故か大量の人間が行進している。
服装は様々で、町娘から長衣を纏った魔法使いの少女、果ては女騎士まで揃っていた。一貫しているのは、行進しているのが全員女の人であることだ。
ユウは「んー?」と首を傾げると、
「何で女の人が森の中を歩いているの?」
疑問に思ったユウは、家の外に出ることにした。ゼノの言いつけはすでに頭の中から消え去っていた。
外に出た瞬間、何か音のようなものが聞こえてきた。
笛の音色のようである。透き通った音が、ユウの耳朶に触れる。
青い瞳を瞬かせたユウは、その列の先頭へ視線をやった。
歪な形をした横笛を吹く、奇抜な格好をした男が歩いていた。
その姿は道化師のようであり、絵本でよく見る悪魔のようでもあった。とにかく精神的に幼いユウにとって、恐ろしいものとして映っていた。
「ひえッ」
ユウは悲鳴を上げて木の影に隠れる。
滑らかな笛の音色は隊列をなす女性たちを離さず、彼女たちは空虚な笑い声を上げながら笛を吹く男の背中に続いている。
「ど、ど、どうしよ……」
長杖を両手に握りしめて判断を迷っていると、ユウの視界に見覚えのある少女たちの姿が映り込んだ。
「……せんせ? おねーさん?」
振り返った先には、やはり同じように空虚な笑い声を上げて男の背中を追いかけるミザリーとシュラの姿があった。
ユウは慌てたようにミザリーとシュラへ追い縋り、彼女たちの衣服の袖を掴む。
「せんせー、おねーさん。ダメだよ、その人について行ったら」
「あははは」
「うふふふ」
「せんせー! おねーさん!!」
ユウはミザリーとシュラの服の袖を掴んで叫ぶが、彼女たちはまるで聞いていない様子である。
どうやらこの笛の音が原因のようだ。
むぅ、と唇を尖らせたユウは長杖を振り上げて、
「《おめざめ》!!」
リィン、という音が鳴る。
その音が笛の音色を見事に掻き消し、そして、
「――――えッ」
ミザリーの琥珀色の瞳に光が戻る。
同じく、シュラも正気に戻ったようで「は!?」と声を上げた。
他にも、隊列をなしていた女性たちが軒並み笛の音から解放され、正気を取り戻す。
そして全員、何故森の中にいるのかと首を傾げていた。
「な、何で、私はここに……?」
「あ、あれ? どうして森に……」
「せんせ、おねーさん!! 大丈夫?」
ミザリーとシュラはユウへと振り返ると、二人揃ってその瞳を見開いた。
「ユウさん、どうしてここに?」
「おうちの外から見えたの。ぼくね、おうちを買おうと思って、ここにきたの」
あれ、とユウは森の中に建つ一軒家を示す。
ミザリーとシュラが「家を?」「買うの?」と首を傾げると同時に、どこか寒気のする男の声がした。
「おやおやぁ? どうしてボクのハーレムに、男がいるのかね?」
顔を上げれば、あの道化師のような格好の男が不思議そうな表情で立っていた。




