【Ⅱ】ここに決めた!
「ここぉ?」
「……ここのはずだな」
不動産屋のディランから紹介された物件は、何と森の中にあるらしい。
フラウディア王国の敷地内ギリギリにある森の入り口に立つユウとゼノは、受け取った羊皮紙に視線を落とす。
住所は『フラウディア王国南にある森の中』と大雑把なもので、何度読み返しても変わらない。詳細な番地すらない。
おそらく、この森の中に一軒しか家が建っていないのだろう。だから正確な番地で表現することもないのだ。
「ふむふむ、森の中にあるなど気が利く爺じゃの」
ユウとゼノの背後についてきていたローザは、蝙蝠から作り出した日傘をくるくると回しながら満足げに頷いた。
「ユウ坊、オマエは森の中にある家で大丈夫か?」
「ぼくも賛成!! この森、とっても静かだから好き!!」
うるさい声にうんざりしていたユウは、静かな王国南の森を大いに気に入っていた。
ゼノも「ここなら静かに過ごせそうだな」と頷き、
「じゃあ、行くぞ。家の様子を見なきゃな」
「うん!!」
ユウは弾んだ足取りで、静かな森の中へ足を踏み入れる。
鳥の囀りが聞こえてくるだけで、喧騒は遠い。人の存在はユウたち三人以外になく、それだけで新聞記者に取り囲まれる心配も、信者が宿屋に押しかけてくる心配もしなくていいだろう。
長杖をしゃらしゃらと振り回しながら、ユウは「静かだねッ」と嬉しそうに言う。
「ゼノ、ゼノ、これでたくさんの人に追いかけられずに済むかなぁ?」
「かもなァ」
「宿屋まで来ちゃったら怖いもんね」
「家まで来られたら、今度こそ殺してまで追い返すから安心しろ」
「ぼくも罠魔法使おうかなぁ」
「ユウ坊の罠魔法は威力が強そうだなァ、腕や足が吹き飛ぶだけで済めばいいけどな」
「ええー? 紐でぐるぐる巻きにする程度にしとくもん」
ユウが心外な、とばかりに頬を膨らませてゼノに言う。
そこまで乱暴な罠魔法など仕掛けない。
ユウの魔法の威力は自分でもよく分かっているし、本気でやってしまったら死人が出てしまうかもしれないのだ。そんな恐ろしいことなど、やりたくない。
森の中に伸びる道を進んでいくと、その先に丸太を組み合わせて建てられた一軒家が見えた。
近くに井戸もあり、綺麗な花畑も広がっている。その一軒家の周囲だけ燦々と陽光が降り注ぎ、日当たりも抜群だと言えようか。
ユウは「おおー」と密かに拍手し、ゼノも「こりゃいいな」と口笛を吹いて称賛した。
「ゼノ、ゼノ、ぼくたちのおうちみたい!!」
「そうだな」
「? お主らの家は基本的に宿屋じゃろうに」
はしゃぐユウの台詞に、ローザが首を傾げる。
彼女はユウとゼノが、あの海魔が犇めくグレイシャール蒼海よりの無人島からやってきたことを知らないのだ。
あの島で生きていたユウとゼノは、目の前にある家と同じような丸太を組んだ家に住んでいた。自然と懐かしさが湧き出てくる。
ユウがゼノの腕を引っ張ると、
「ねえねえ、早く入ろ?」
「分かった分かった」
ゼノはあらかじめ不動産屋から預かった鍵で、丸太を組んだ家の施錠を解く。
ガチャン、という音が聞こえると同時に、ユウが扉を開けて真っ先に中へと飛び込む。
「わー!!」
広々とした居間をぐるりと見渡して、ユウは青い瞳をキラキラと輝かせる。
ソファやテーブルなどの一通りの家具が揃っていて、窓からは温かな陽光が入り込む。内装もあの名もなき無人島にあった家と似通っていた。
ゼノも「凄えなァ」と陽光の差し込む明るい居間を見回して、
「本当に、あの家に帰ってきたみてェだなァ」
「うん、うん!!」
ユウはドタドタと居間を駆け回り、それから奥に伸びる廊下を突き進んでいく。
いくつか並んだ扉を次々と開けていき、部屋の内装を確認する。どれも同じように衣装箪笥と寝台のみが存在し、おそらく個人の寝室になるのだろう。
「ゼノ、一人用のお部屋しかないよ」
「客間じゃねェのか? 二階もあるぞ」
「ほんと?」
台所の設備を確認している最中のゼノは、居間に戻ってきたユウに言う。
ユウは二階へ伸びる階段を確認して、狭い階段を上がってみる。
トントン、と足音が落ちる。順調に階段を上がっていったユウは、三つの部屋の扉を見つけた。
「ここも客間ぁ」
ユウは扉を開けて部屋を一つ一つ確認していくと、最後の一部屋だけが妙に広かった。
二人は余裕で寝転がれる大きな寝台に、女性が身嗜みを整える際に使われる鏡台とたくさんの服を収納できる衣装箪笥。ここが寝室だろう。
「ゼノ、寝るとこ見つけたよ!!」
「おー、よかったなァ」
一階にいるゼノの声が、二階にいてもしっかり聞こえた。
ユウはドタバタと階段を駆け下りると、台所の設備を見ている最中のゼノの腰に抱きつく。
美しきダークエルフの温かな手のひらを享受し、
「ゼノ、ここにしよ!!」
「そうだな、ここに決めるか」
ゼノも賛成し、ユウは「わあい!!」とぴょんぴょんと飛び上がる。
懐かしの家に住むことが出来るなんて幸せである。




