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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第10話:魔物の大群なんて聞いてない

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【Ⅵ】ご褒美ケーキに舌鼓

 レイド戦はあっという間に決着がついた。



「ゼノ、ゼノ!! これでケーキ貰える? 貰える!?」

「そうだな。貰えるぞ」



 魔王四天王であるサラサが倒されたことで、魔物の大群は慌てた様子で引き返していった。


 自分たちの上位存在であるサラサがあっさりと倒されてしまったことで、命の危機を覚えたのだろう。蜘蛛の子を散らすように魔物の大群はバラバラに逃げていったのだ。


 という訳で。


 フラウディア王国に帰還を果たしたユウは、約束の人気店のケーキがいつ貰えるのかゼノに問い詰めていた。

 ある意味、ケーキの為にユウは恐怖心を押して戦場まで行ったのだ。ちゃんと報酬が貰えないと、頑張った意味がない。


 冒険者ギルドに戻った冒険者たちは、それぞれレイド戦での活躍を報告する。


 ユウとゼノも、他の冒険者に倣って受付嬢にレイド戦での活躍を報告した。



「おねーさん倒したの!!」

「お、おねーさん?」



 ユウの報告に対して、受付嬢は不思議そうに首を傾げる。


 それもそのはず、彼の報告にはあまりにも中身がない。

 確かにユウとゼノは『おねーさん』を倒した訳だが、その『おねーさん』の正体が全く分からない報告の内容なのだ。首を傾げられるのも当たり前である。


 ゼノはユウの頭を軽く撫でてやり、



「アタシとユウ坊でサラサって名前の魔女を倒したんだ」

「ええッ!?」



 受付嬢は声をひっくり返して、驚きを露わにする。



「ま、魔王四天王の……? あの大魔女サラサですか?」

「ああ、なんかそう言ってたな」

「……彼女は魔王軍の中でも、魔王に次いで魔法の天才とも呼ばれていたのですが」

「ユウ坊には敵わなかったようだな」



 ゼノが軽い調子で笑い飛ばし、受付嬢に「これで報酬のケーキは貰えるか?」と問いかける。


 受付嬢は壊れた人形よろしくガクガクと首を縦に振ると、どこかふらふらとした足取りでギルド内の奥へ引っ込んでしまった。体調不良だろうか。


 ユウはゼノの服の裾を摘むと、



「どんなケーキかな? 美味しいかな?」

「人気のケーキ屋だって言うぐらいだから、美味いんじゃねェの?」



 これで報告は終わったものとし、ユウとゼノは今日のところは冒険者ギルドから立ち去った。



 ☆



 後日、冒険者ギルドから呼び出しを受けたユウとゼノを出迎えたのは、何と冒険者ギルドの責任者であるクラウドだった。


 くすんだ金色の髪をガシガシと掻き、ソファに並んで腰掛けるユウとゼノに「あー……」と言いにくそうに口を開く。



「まずは、魔王四天王を討伐した報酬だ。約束だったしな」



 そう言って、クラウドが職員に持ってこさせたのは、一抱えほどもある白い箱だった。


 職員が「どうぞ」とユウに箱を差し出してきたので、彼は素直に受け取る。

 箱の中身を確認すると、苺や葡萄ぶどうなどのたくさんの果物が乗った美味しそうなケーキだった。果物も艶々と輝いていて、生クリームの甘い匂いが鼻孔をくすぐる。


 ユウはキラキラと青い瞳を輝かせ、ゼノへと見やる。


 美しきダークエルフは、今にも飛び上がりそうなほど嬉しそうにするユウの頭をぐりぐりと撫でてやり、



「よかったなァ、ユウ坊。帰ったら早速食べるか」

「うん!! 帰りにお紅茶買ってこ!!」

「そうだな。こんなに上等なケーキだもんな、美味い紅茶も飲みてェよな」



 ユウはケーキを落とさないように、きちんと「《ないない》」と唱えて異空間に片付けた。これなら落とす心配もないだろう。


 用事はこれで終わりかと思ったが、クラウドが申し訳なさそうに「まだ用事があるんだ」と続ける。



「実はな、ユウとゼノにパーティの招待状が届いててな」

「ぱーちー?」

「そうそう、ぱーちーな。ぱーちー」



 ユウは語感が気に入ったのか、楽しそうに「ぱーちー、ぱーちー」と繰り返す。


 一方のゼノは「パーティ?」と首を傾げる。

 パーティと言えば冒険者のチームと同じに聞こえるが、今回は違う招待状だと彼女も理解しているのだろう。はしゃぐユウに「大人しくしてろ」と言いつけ、



「舞踏会ってことか?」

「そう。しかも、国王が主催のな」



 クラウドはやれやれと肩を竦めると、



「お前らも慣れていないだろうから、無理に参加しろとは言えない。だけど参加しておいて損はないだろうな」



 これが招待状だ、とクラウドがゼノにパーティの招待状を差し出してくる。


 綺麗な封筒で、さらに深紅の封蝋が施されている。

 宛名はしっかりと『ユウ・フィーネ様、ゼノ・シーフェ様』と綺麗な文字で書かれている。封筒を破いて中身の招待状を取り出すと、その中身へ視線を走らせた。


 クラウドの言った通り、それはパーティの招待状だった。

 律儀にパーティの出席確認のカードまであり、欠席してもいいということだろう。何とも優しい主催者である。


 ゼノはユウに「どうする?」と問いかけると、



「参加しなきゃダメなの……?」

「参加したくねェのか?」

「ぼく、お洋服持ってないもん。――それに」



 ユウはポツリと小さな声で、



「人の多いところに行きたくない。怖い」

「よし欠席しよう。責任者、欠席で返事を出しといてくれ」



 ゼノは迷わずユウの答えを尊重し、クラウドに招待状を突き返す。


 クラウドが「考える余地もねえのか」と指摘するが、ゼノは聞かなかった。ユウの手を取ると、用事は済んだとばかりにギルドから出る。


 人通りの多くなった通り道を歩きながら、ゼノは「本当によかったのか?」とユウに確認する。



「うん。偉い人が色々と難しいことを言ってきそうな予感がしたから、ぼくやだ。美味しいご飯があっても行かないもん」



 ユウはしっかりとパーティに行かない理由を述べ、ゼノと一緒に宿屋へ戻る。


 美しきダークエルフと一緒に食べる豪華なケーキこそ、ユウにとっての最高のご褒美なのだ。

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