【Ⅴ】ぶっ飛ばせ、魔女様!
「それなら早速――」
サラサは手のひらに浮かぶ黒い球体を掲げると、
「――坊やを殺してあげる!!」
ぶん投げてくる。
全力で投球されてきたそれに長杖を突きつけ、ユウは「《ぽーい》」とあらぬ方向へ黒い球体を逸らした。
簡単な軌道魔法である。魔法の軌道を逸らしたり、砲弾の軌道を逸らしたりなどの『軌道』を操るのだ。一種の妨害魔法である。
明後日の方向へ飛んでいった黒い球体は、ちゅどーん!! と大量の魔物を巻き込んで爆発した。
盛大な爆発だった為か、地面は抉られてその部分だけ凹んでしまっている。土も黒ずんでしまって、粉塵がもうもうと舞う。
ユウは「ひえええ……」と顔を青褪めさせ、
「あ、危なーい!!」
「殺すつもりでやってるんだから当然でしょう?」
危険を訴えてくるユウを、サラサは鼻で笑い飛ばす。
黒い球体を生み出してはユウに投げつけるが、ユウはそのたびに軌道魔法で軌道を逸らして妨害する。
ちゅどん、ちゅどん、ちゅどーん!! と爆発がそこかしこで起こり、粉塵が立ち込める。ボコボコと地面が抉れることも厭わずに、魔女は爆弾をどんどん投げつけてきた。
軌道魔法で黒い球体の軌道を逸らし続けるユウは、むぅと頬を膨らませる。
「《ぴかぴか》!!」
軌道魔法を使用しながら、ユウは上級雷魔法を発動させる。
並列魔法発動は並大抵の魔法使いでも使える者はおらず、他の冒険者がユウの所業に目を剥いて驚く。
ぴしゃーんッ!! と雷がサラサの脳天めがけて落ちる。
しかし、
「無駄よ」
サラサの周囲を守るように透明な結界が張られ、空から落ちた雷を受け止めてしまう。雷は掻き消えてしまい、サラサは見事に無傷だった。
ユウは「むーッ!!」と苛立ちを露わにし、
「おねーさん、いぢわる!!」
「あーら、意地悪で当然でしょう? だって私の方が優れた魔法使いだもの!!」
サラサは豊満な肢体を抱きしめて、身を捩らせる。
恍惚とした表情で笑うサラサに、ユウは「むー!! むー!!」と地団駄を踏む。
こんなにおちょくられたのは初めてだ。
ユウは魔法の腕前に絶対の自信を持っているし、今まで魔法では誰にも負けたことがなかったのだ。
それがサラサが相手だと、まるで子供の遊びのようにあしらわれる。苛立ちが募っていくばかりだ。
「ゼノ!!」
「お?」
いつでも側にいてくれる美しきダークエルフ――ゼノへ振り返ったユウはサラサを指差して叫ぶ。
「あれ撃って!!」
「お、いいのか?」
ゼノは銀色の長弓に矢をつがえると、迷わずサラサへぶっ放した。
空気を引き裂いて飛んでいく矢。
それを見ながら、サラサは「無駄よぉ」と嘲る。どうせ自身を覆う結界が守ってくれると思っているようだが、
「いたッ」
結界を突き破って、矢がサラサの額に刺さる。
サラサは額から伸びる矢に触れて、絹を裂くような甲高い絶叫を轟かせた。
「きゃあああああああッ!? な、な、何これどういうことぉ!?」
「おお、面白いぐらいに刺さるな」
ゼノはケラケラと軽い調子で笑い飛ばし、
「なるほどなァ。首なし騎士の時はユウ坊の独壇場だったが、今度はアタシって訳か」
「ゼノ、ぼくたくさん強くしてあげるから!! あのおねーさん倒して!!」
「任せろ、ユウ坊」
ユウは支援魔法をゼノに重ね掛けし、ゼノは銀色の長弓に矢をつがえて放つ。
すでに能力値が限界を迎えている状態で、さらに支援魔法の効果で攻撃力が上昇しているのだ。
そんなゼノの攻撃を受ければ、タダで済むはずがない。
サラサは「こんなものッ!!」と風魔法で蹴散らそうとするが、
「なッ!?」
サラサは驚愕する。
風魔法で飛んでくる矢を振り払おうとするが、矢が逆に風魔法を蹴散らしてサラサめがけて飛んできたのだ。案の定、結界を突き破ってサラサの左眼球を的確に射抜く。
左眼球から矢を生やし、血の涙を流すサラサはゼノへ怒鳴る。
「この、どうして!? 結界によって守られてる私を、どうして傷つけられるの!?」
「ぼくが《なしなし》してるから効かないもんね!!」
ゼノの背後から、ユウは自慢げに言う。
ユウの言う《なしなし》とは、イグリアス大陸でも特に使い手のいない特殊な支援魔法だ。
その正式名称は魔法無効化魔法である。分かりやすく言うと、全ての魔法を無効化にする支援魔法である。
本来であればその本人にかけてべき支援魔法だが、ユウはゼノの放つ弓矢にこの魔法無効化魔法をかけているのだ。
ユウは「べー!!」とサラサに向けて舌を出し、
「ぼくの方が強いもん!!」
「く、このッ!! ――イッタ!?」
魔法を使おうと掲げた右腕を、矢が貫く。
サラサが気づいた時には左腕、右足、両肩にも同じような痛みが生じる。見れば、痛みを感じる全ての場所に矢が突き刺さっていた。
ゼノは淡々とサラサめがけて矢を放つ。ユウによって魔法を無効化させる支援魔法がかけられた矢を、何度も何度も放つ。
「ま、ま、待って、待ちなさい」
サラサは待ったをかけた。
全身に矢が突き刺さり、ドレスはボロボロになって血が染み込む。満身創痍の状態だった。
そんな状況で、自分の身を守る為の結界を維持できるとは思わない。すでにサラサの周りには結界がなかった。
ユウはその瞬間を見逃さなかった。
素早く長杖を握りしめると、
「《ごろごろどん》!!」
最上級雷魔法を叩き込む。
雷が脳天に落ち、サラサは「か、は……」と黒焦げの状態となって地面に落下しそうになる。
だが、落下しただけではサラサを完全に討伐できたとは言えない。それを分かっているのか、ゼノは最後の矢をつがえる。
「くたばれ、魔女!!」
彼女は矢を放つ。
真っ直ぐ飛んでいく矢は、サラサの胸元で輝く赤い宝石を的確に射抜いた。
パキン、と砕け散る宝石。
サラサはカッと紫色の瞳を見開き、掠れた声で悲鳴を上げた。
「な、何で……!! ま、魔王様、申し訳、ございま……ッ!!」
全ての言葉が終わるより先に、サラサは黒い粒子に変換されて消えてしまった。
魔物の大群が頭領を討伐されて唖然としている中、ユウは勝利宣言とばかりに叫んだ。
「ぼくとゼノの方が強くてゆーしゅーだもん!!」




