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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第10話:魔物の大群なんて聞いてない

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【Ⅳ】魔女現る

「わーん、わーん!!」



 ユウは半泣きになりながら、連続で魔法を発動させる。


 最上級雷魔法が何発も戦場に落ちて魔物を黒焦げにし、最上級炎魔法が何発も戦場に放たれ魔物を爆殺し、最上級水魔法が何発も戦場へ降り注いで魔物を溺死させた。

 どれもこれも最上級魔法を発動させるものだから、魔物は次々と黒い粒子に変換されていく。さすがの魔物も簡単に攻め込めずにいた。


 他の冒険者は完全に置いてけぼりである。

 武器を構え、いざ魔物に立ち向かおうとするが、ユウが半泣きで発動させた最上級魔法が魔物の群れを蹴散らしてしまうので、出る幕がないのだ。



「わーん!! どっかいってえ!!」



 ユウは長杖ロッドの先端で地面を叩くと、



「《きょじんさーん》!!」



 発動させたのは、神々しか使うことの許されない極大土魔法である。


 モコモコと隆起した土から巨人が形成され、岩で出来た双眸でぐるりと戦場を見渡し、巨人はぷちぷちと丁寧に魔物を踏み潰していく。

 悲鳴も断末魔も許されない討伐のされ方に、冒険者はついに魔物側へ同情の念を抱くこととなった。だって本当に可哀想だから。


 ユウは「ふえええッ」とボロボロ泣きながら、



「ぜの、ぜのぉ。怖いよぉ!! 帰りたいよぉ!!」

「はいはい、我慢我慢」



 ゼノは最上級魔法を連続でぶっ放すユウのすぐ側で、銀色の長弓ロングボウに矢をつがえていた。


 矢を放った先は、ユウの最上級魔法の範囲外に逃れた魔物に突き刺さる。

 見事に眉間を矢が貫通し、魔物は例外に漏れず黒い粒子に変換されてしまった。「友よォ!!」と悲鳴が上がるが、すかさず第二射、第三射が魔物を射抜く。



「魔物の大群を引き連れてくる原因の魔王四天王を倒すまで我慢だぞ、ユウ坊。頑張ればケーキが待ってるぞ」

「だって死んじゃう!! 死んじゃうよ!! こんなにたくさんのまものさんいると、ぼくたち死んじゃうよぉ!!」

「大丈夫だって、逆に魔物が次々と死んでるから」



 それはもう可哀想になるぐらいである。


 ユウが理不尽な最上級魔法を連続でぶっ放すものだから、魔物が一瞬で黒い粒子に変換されてしまう。

 さらに追い討ちをかけるようにゼノが弓矢を撃ち込んでくるものだから、抗いようがない。そもそもユウの魔法のせいで近づけないので、もはや死ににいくようなものだ。


 他の冒険者が呆然と立ち尽くす中、反則的な強さを持つ魔法使いとダークエルフの独壇場となる戦場に、それはやってきた。



「ちょっとちょっとぉ、なぁによこれ。もはや災害じゃないのよぉ」



 ボロボロと涙を流しながら最上級魔法をぶっ放していたユウは、ピタリと長杖を振り回すことを止めた。


 同じくゼノも、唐突に聞こえた声に反応して弓矢を構える。

 即座に狙いを定めて矢を放てるようにし、炯々と輝く赤い瞳で声の主を探した。


 すると、他の冒険者がにわかに騒ぎ始める。

 どこか一点に注目すると、彼らは「あ、あれ……」「マジかよ……」などと絶望に満ちた声で聞き覚えのない名前を叫んだ。



「魔王四天王の、大魔女サラサだ!!」

「まずい、警戒しろ!!」



 魔王四天王を『脅威』ときちんと認識している冒険者は、こぞって自分の武器を構えて最大の警戒心を見せる。


 しかし、今まで戦場を蹂躙していた最強だけど一般常識が欠落しているユウとゼノは、



「さらさら?」

「『ら』が多すぎだな。サラサだ」

「さら?」

「今度は少なくなったな」



 それから二人揃って、視線を空へ向ける。


 空に浮かんでいたのは、派手な紫色のドレスを身につけた妖艶な女性だった。

 鍔広のとんがり帽子を被り、毒々しい色合いの赤い蓬髪ほうはつを風になびかせる。地上を見下ろす瞳の色は妖しく輝く紫色で、唇は真っ黒に塗り潰されていた。何かの病気ではないだろうか、と疑いたくなる。


 豊かな胸元に埋まるようにして、数々の金銀宝石で飾られた首飾りが下がり、太陽の光を受けてチカチカと明滅する。中心となっているのは、鮮血のように真っ赤な宝石だった。


 まさに御伽話おとぎばなしで敵役として出てきそうな魔女である。


 ユウとゼノは彼女を見上げ、それから大きな声で問いかけた。



「おねーさん、だあれ?」

「おーい、降りてこいよ。地上から話しかけるのも面倒だからよ」



 魔女はジロリとユウとゼノを一瞥すると、クスクスと小さく笑いを漏らした。



「アンタたち、随分と強いのねぇ。――特にそこの坊や」

「ぼく?」

「ええ」



 指を差されたユウは、はてと首を傾げる。

 無我夢中で魔法を使っていたので分からないが、とりあえず褒められているのだろうか。



「ありがとうございます」

「褒めてないわよ、殺してやりたいわ」

「にゅやッ!?」



 恐ろしい台詞が魔女の口から飛び出し、ユウは慌ててゼノの背後へ引っ込んだ。



「イグリアス大陸で最も強い魔法使いはこの私――大魔女サラサよ。最上級魔法や極大魔法を見せつけてくるなんて、いい度胸をしてるじゃない」



 自らをサラサと名乗った魔女は、ふわりと地上へ舞い降りる。


 数多の魔物を背にし、彼女は妖しく笑った。



「ねえ、坊や。私と勝負をしましょう?」

「……しょーぶ?」

「ええ。どっちの魔法が強いか、勝負をしましょう?」



 サラサは緩やかに右腕を伸ばし、五本の指を軽く折り曲げる。

 何かを掴むような仕草をする彼女の手のひらに、黒い球体が浮かび上がった。ごうごうと黒い球体から音が鳴り、とんでもない魔法であることが嫌でも分かる。


 ゼノの背中から顔を覗かせたユウは、



「……ゼノ、あのおねーさんを倒せばお家に帰れる?」

「おう、帰れるぞ」

「分かった」



 ユウはコクリと頷くと、長杖を両手で握りしめた。



「ぼく、おねーさんと戦うよ」

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