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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第10話:魔物の大群なんて聞いてない

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【Ⅲ】前衛に配置されちゃった

「それではレイド戦を開始します。皆様、お気をつけて」



 フラウディア王国の立派な城門が、ゆっくりと開いていく。


 ギルドに所属する選りすぐりの冒険者が、ギルドの受付嬢に見送られて城門から戦場に出ていく。

 その中にユウとゼノも混ざっていた。ユウは両手で長杖ロッドを握りしめ、ゼノは退屈そうに欠伸をしながら歩く。



「ユウ坊、アタシらは後衛担当みたいだぞ」

「そうなの?」

「全く話を聞いてなかったんだな」

「ご褒美のケーキがどんなものなのか考えていたら、お話が終わってたんだよ」



 フラウディア王国を旅立つ前に説明があったはずだが、ユウはご褒美のケーキのことを考えていたので全く話を聞いていなかった。


 どうやら今回のレイド戦は前衛と後衛に分かれていて、ユウとゼノは後衛の担当らしい。


 確かに、妥当な判断だ。

 いつもはユウの魔法とゼノの弓術で無双するが、本来であれば彼らは後衛職なのだ。


 ユウの魔法による支援と妨害、そして一発逆転の強大な魔法の力とゼノの卓抜した身体能力と弓の腕前があれば魔物の大群など簡単に蹴散らすことが出来る。

 ――しかし、この二人が素直に従うか別だが。



「ユウ坊。今回のレイド戦は結構人数がいるけど、支援できるか?」

「応援なら出来るよ。やろっか?」



 ユウは長杖を掲げて、しゃらしゃらと振り回す。装飾品がぶつかり合って綺麗な音を奏でた。



「《むきむき》《かちかち》《はやくなーる》」



 連続の支援魔法。

 攻撃力上昇、防御力上昇、素早さ上昇の支援魔法を一瞬でかけたので、移動中の他の冒険者が驚く。


 ユウはゼノを見上げて「他にかける魔法はある?」と問いかけ、



「魔法を反射する結界とか」

「《ばいーん》」

「体力増強」

「《もりもり》」

「他にやるべき支援魔法ってあるか……?」

「《おまもり》《みえみえ》」

「…………よし、ユウ坊。もういいぞ」



 ゼノは綺麗に微笑み、ユウの頭を優しく撫でてやった。



「オマエは本当に魔法の天才だな」

「えへへ。ゼノも強くしたから、たくさん魔物を倒してね」



 ユウも満面の笑みで答える。


 ゼノは「任せろ。オマエに近寄る魔物は全部残らず討伐してやる」と銀色の長弓ロングボウを掲げて言った。



「おい、そろそろだぞ!!」



 前方から声が聞こえてきた。


 ユウとゼノは足を止め、きょろきょろと周囲を見渡す。魔物の大群と説明を受けていたが、周囲は森ばかりだ。


 すると、冒険者の集団が二手に分かれ始める。

 どうやら全員、魔物の大群を確認できたようだ。それで前衛と後衛に分かれるらしい。


 ユウとゼノは互いに顔を見合わせると、



「こっちに行くか」

「そうだね。ぼくたち、まだ魔物さん見てないもんね」



 二手に分かれた集団のうち、片方についていく。


 ユウとゼノは最後尾を歩いていたので、他の冒険者は気づかなかったようだ。

 そしてまた、ユウとゼノも確認をしなかったので、ついて行っている集団が本来所属するべき集団であるか分かっていなかった。



「ご褒美のケーキってどんなものだろうね」

「果物とかたくさん載ってるかもな」

「ちょこでもいいなぁ」

「一番人気って言われてるぐらいだから、きっと豪華なものだろうな」



 集団の最後を歩いていたユウとゼノだったが、前方が騒がしくなってきて顔を上げた。


 森がパッと開けると、たくさんの魔物が押し寄せてきているのが分かった。


 たくさんの魔物を前にして、ユウは「ぴッ!?」と甲高い悲鳴を上げる。それから急いでゼノの背後に隠れた。



「ぜ、ぜ、ゼノ、ゼノ!! 魔物さんがいるよ!? こんな近くにいるよ!?」

「……? おかしいな、アタシらは前衛組じゃなかったはずなんだけど」



 ゼノは不思議そうに首を傾げると、すぐ側で槍を携える冒険者に問いかけた。



「なあ、おい。ここって後衛組じゃねえのか? ここから分かれるとか?」

「何言ってんだ、ここは前衛組だぞ」



 槍を担ぐ冒険者は、ゼノの問いかけに簡素な答えで返す。


 ユウはゼノの背後で「え……」と絶望したように呟く。ゼノは「あちゃー……」と額を押さえた。


 まさか、あの森の中で二手に分かれたのが決め手だったか。

 そしてユウとゼノは、本来所属するべき集団とは真逆の集団についてきてしまったのだ。


 ユウとゼノの装備を上から下まで確認した前衛担当の冒険者たちが、まさかとばかりに顔を強張らせる。「え、嘘だろ」「ここって前衛だろ?」とこそこそ言い合う。



「今からでも遅くないから、引き返して後衛組と合流した方がいい。俺たちが魔物を食い止めるから」

「いやーッ!!」



 ユウは唐突に悲鳴を上げた。


 別に後衛組が嫌だとか、前衛担当の冒険者が嫌だとかそういう理由ではない。

 彼らの後ろにいる魔物の存在が原因だった。


 高みからユウたちを睥睨へいげいするドラゴンと目が合った。大きく口を開くと、喉の奥に炎が灯る。ブレスをする合図だ。


 冒険者たちの顔が引きつる中、ユウが長杖をぐるんと振り回すと、



「《ながれぼし》!!」



 魔法が発動する。


 ドラゴンの頭に小型の隕石が落ち、ドラゴンはあっという間に黒い粒子へ変換されてしまった。


 唖然と立ち尽くす冒険者たちをよそに、ユウは半泣きでゼノの服の裾を引っ張りながら叫ぶ。



「もうやだ!! 帰りたい!!」

「ユウ坊、もう少し頑張れ」

「わーん!! 怖いよぉ!!」



 ユウの恐怖心など知らないとばかりに、戦場に蔓延る魔物たちは待ってくれなかった。

 こればっかりは仕方がない。

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