【Ⅶ】ご褒美たくさん夢いっぱい
「はい、討伐完了したぞ」
ユウの転移魔法によって一瞬でフラウディア王国に戻ってきた二人は、その足で冒険者ギルドへ向かって『討伐完了』と刻印された羊皮紙を提出する。
受付嬢は「え、あ、はい」と羊皮紙を受け取って、その内容を確認してから悲鳴を上げた。
「えええええ!? く、く、首なし騎士を討伐ゥ!?」
「そこに記された通りだな」
あっけらかんとした様子でゼノが言う。
受付嬢の絶叫が冒険者ギルド中に轟いたのか、他の冒険者たちが俄かに騒ぎ始めた。
「本当かよ」
「あの魔王四天王の?」
「思ったよりも大したことはなかったか?」
「いやいや、あの首なし騎士に引き摺り込まれて死んだ冒険者が何人いると思ってんだ」
自然と注目を浴びることになってしまったが、ゼノは平然とした様子で受付嬢に問いかける。
「なあ、その報酬ってちゃんと貰えるのか?」
「え、ええ。さすがに大金ですので後日ということになりますが」
「そりゃよかった」
そう応じると、ゼノは背中にへばりついている銀髪の青年の頭を撫でてやった。
グリグリと乱暴に頭を撫でられて、ゼノの背中にへばりついていたユウはブスッと頬を膨らませて彼女の背中から顔だけを覗かせる。不機嫌であることは明らかだ。
苦笑する受付嬢は「ど、どうしたんですか?」とゼノに問う。
「首なし騎士に揶揄われてな。あっさりと昇天させちまったモンで、まだ仕返し足りねェんだろ」
「しょ、昇天って……一体どのような魔法をお使いに?」
「《じょーぶつじょーぶつ》だよ」
ぶー、と頬を膨らませて不貞腐れた様子のユウが、受付嬢の何気ない質問に答える。
俗に最上級光魔法と言うのだが、ユウはいつもこうである。
それはユウのパッシヴスキルの一覧に『高速詠唱』があるからであり、故にこんなふざけた呪文でも魔法が発動するのだ。非常に便利である。
受付嬢は意味が分からず首を傾げ、ゼノも魔法のことをよく分かっていないので「まあ、そんな感じの呪文だったな」などと頷く。
「ええと、その、討伐成功の報酬は後日に支払われますので、もう一度ギルドまでお越しいただけますか?」
「ほーしゅーってなぁに?」
「ええ、そこからですか……?」
受付嬢が困ったように言うと、ゼノが「ほら、あれだよ」とユウに言う。
「お小遣いだよ。ウィラニアの冒険者ギルドでも仕事を終わったあとに金を貰っただろ? 首なし騎士はたくさんお小遣いが貰える仕事だったんだよ」
「そうなの? じゃあ、頑張ってよかったなぁ」
いつのまにかご機嫌を回復させたユウは、ほわほわと笑いながら「よろしくお願いします」とペコリと頭を下げた。
今日のところは追加の仕事を受けずに冒険者ギルドを去ろうとしたその時、ユウとゼノの前に大勢の冒険者が押し寄せてくる。
「なあ、凄い魔法使いなんだろ? 一緒にパーティを組まないか?」
「こっちのパーティに来てくれれば、報酬の半分はアンタの取り分でいいぞ」
「そこのパーティはやめておけ、捨てられるぞ。――拙者と共に冒険をせぬか、少年よ」
「ダメよ、この子は私たちのパーティに来るの。ねえ? 来るわよねぇ?」
誰も彼もユウの実力を目的とした勧誘のようである。
急な勧誘にユウは「あうあう」と慌てふためき、そして急いでゼノの背後に隠れた。
「ゼノ、ゼノ!! 怖い!! もうやだ!! たくさんの人やだ!!」
「はい、そういう訳だから散れ散れ!! うちの魔法使い様は繊細なんだよ、扱いに気を付けやがれ!!」
押し寄せてきた冒険者たちを追い払い、ゼノはユウを引きずりながら冒険者ギルドを立ち去った。
優秀な人材がほしい気持ちはよく分かるが、何故あんなに大挙するのか。今日は人間が押し寄せてくるところを見たくない気分のユウである。
☆
後日、冒険者ギルドから用意された報酬は、
「……いち、じゅー、ひゃく……」
「ユウ坊、数えるな。数えたら負けだ」
冒険者ギルドに呼ばれてノコノコとやってきたユウとゼノに、受付嬢が「こちらです」と羊皮紙を渡してきたのである。
そこに記載された金額は、目を飛び出すような数が並んでいた。
ユウは並んだ0の数を指でなぞるが、桁数が多すぎてクラクラしてきた。
倒れそうになったユウを支えながら、ゼノは受付嬢に問いかける。
「これ本当だよな?」
「本当です。魔王四天王の一人を討伐なされたので、冒険者ギルドとフラウディア王国の双方からそれぞれ報酬が支給されます。それは合算された金額ですね」
「……現実かァ……」
ゼノは呟くと、ユウの頭を乱暴に撫でながら、
「ユウ坊」
「なあに?」
「家買おうぜ。故郷の小屋みたいな」
「うん、買おう。これなら買えるよ」
真剣な表情で頷くユウは、善は急げとばかりに受付嬢へ詰め寄った。
「おねーさん、お家買いたいです! お店どこにありますか!?」
「ふ、不動産屋ですか? いきなり決断しますね!?」
あまりの行動の早さに受付嬢も驚いていた。
しかし、ユウとゼノはこの多額の報酬の使い道はもう決めていた。
そうだ、家を買おうと。




