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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第9話:魔王四天王? 誰それ?

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【Ⅴ】首なし騎士ダーウィン見参

 ガタガタと墓石が震えると共に、その後ろから緑色の肌をした人間がのっそりと姿を現す。


 硝子ガラス玉のように濁った瞳をユウとゼノに向け、骨が突き出た腕を伸ばし、呻き声を上げてヨタヨタと歩み寄ってくる。

 その度にユウは「ぴーッ!!」と悲鳴を上げ、ゼノがぶん殴って討伐していく。


 おそらくだが、彼らが屍人系魔物で間違いないだろう。

 墓石を退けて土の中から蘇ってきた、緑色の肌をした女性が現れた時はユウが半泣きで「《ごろごろどん》!!」と魔法を発動させて消し炭と化した。


 広大な墓地を半分ほど進んだユウは、前を歩くゼノに泣きつく。



「もうやだぁ、お化け怖いぃ」

「我慢しろって。オマエが選んだ仕事だろ」

「お化けぇ」



 子供のようにびーびーと情けなく泣きながら、ユウはゼノに置いて行かれないように彼女の背中へ追いすがる。


 歩くたびに墓石から緑色の肌をした人間が蘇ってきて、そのたびにゼノの拳が人間の顔面に突き刺さる。順調に屍人系魔物を討伐しているが、そろそろキリがなくなってくる。

 広大な墓地の全てから緑色の肌をした人間が出てくるとなると、それだけで体力を消耗しそうだ。


 ゼノは飛びかかってきた緑色の肌をした男をぶん殴って退治しつつ、



「ユウ坊、光魔法で墓石を全部消し飛ばせねェか?」

「他の人のお墓を荒らしたらダメだよ、ゼノ」



 暴力的な思考回路を持つダークエルフの美女に、ユウは首を横に振って否定の意を示した。


 さすがに他人の家のお墓を消し炭にするのは、なんか罰当たりな気がする。墓石を破壊しようとすることがダメなことは、常識知らずなユウでも分かった。


 もちろん、やろうと思えば出来る。

 いつもの「《ごろごろどん》」ではなく、幽霊や屍人系魔物に通用する光魔法を使ってやれば広い墓地など更地へ変貌を遂げるだろう。



「あ、ゼノ。何か建物があるよ」

「ん? ――ああ、そうだな。何だろうな、あの建物」



 墓地の真ん中に、三角屋根が特徴の建物がひっそりと佇んでいる。


 全体的に建物は細長く、三角屋根の頂点に掲げられた錆びついた十字架が不気味な空気を醸し出している。

 窓も埃を被っていて、ややひび割れているように見受けられる。相当にボロい建物だ。


 ユウとゼノは互いの顔を見合わせると、



「行ってみるか」

「ゼノ、怖いよ……」

「手ェ握っててやるから、今は頑張れ」



 ゼノに手を引かれて、ユウは半ベソを掻きながら建物を目指す。


 もう本当にお墓の仕事は受けない、と心に決めながら。



 ☆



 建物はどうやら教会のようだった。


 すでに廃墟となった教会であり、扉は蝶番から外れかけて、窓は埃で汚れてしまっている。窓から建物内の様子を伺うのは難しそうだ。

 屋根の裏側には蜘蛛の巣が張ってあり、カサカサとやたら大きな蜘蛛がユウとゼノを高みから見下ろしながら移動する。実に気味の悪い教会だ。


 ユウはゼノの背後に隠れて、



「ゼノ、首なし騎士さん倒して帰ろう……? もうやだよ……」

「分かった分かった。家に帰ったら夕飯は好きなの作ってやるから、もう少しだけ頑張れ」

「ほんと!?」



 ユウと瞳がキラリと輝く。


 明らかに元気を取り戻したユウは、早速とばかりに強請る。



「じゃあね、じゃあね、玉子とチーズを包んだあれがいいの!!」

「ああ、島を飛び出して最初に食べたあれか? 材料を買って帰らなきゃなァ」



 ゼノが「分かった、それでいいな」と了承したのを確認して、ユウは気合を入れ直す。


 こんな怖いところなど早く退散しよう。

 そして、ゼノの美味しいご飯を食べるのだ。


 長杖ロッドを握りしめ、ユウは「たのもーう!!」と教会の中へ足を踏み入れる。


 ひっくり返った長椅子が隅に追いやられ、教会の奥には祭壇が設置されている。天井近くに掲げられた石像は、両手を組んで祈りを捧げる聖女の様相を取っていた。


 ボロっちい外見とは打って変わって、内部は神聖な気配が漂っている。幽霊さえも裸足で逃げ出しそうな空気だ。

 そんな教会の中に、それはいた。



「誰だ、貴様」



 祭壇に腰かけた、甲冑を纏った首のない騎士である。

 甲冑はそこかしこが凹んだり傷がついていたりとボロボロな様子で、兜らしきものを小脇に抱えている。首がないのに会話が可能なことに、驚きと怖さがある。


 椅子代わりにしている祭壇から立ち上がり、首のない騎士は教会の中へやってきたユウとゼノを睨みつける。



「この首なし騎士ダーウィンの領域へ勝手に足を踏み入れるとは、命知らずな連中め。私がこの手で引導を渡してくれよう」



 首なし騎士が何やら勇ましく言うが、ポカンと敵を見据えていたユウとゼノはコソコソと会話する。



「ゼノ、ゼノ、あの人首がないのに喋れてるよ」

「首なし騎士だから喋れるんじゃねェの? 知らねェけど」

「あの甲冑の中身が気になるね。どうなってるのかなぁ?」

「バラしてみるか?」

「うん。バラバラにしちゃおう」

「おい、おい待て。首なし騎士を相手にそんな態度が取れる冒険者などいないぞ。――おい待て待て待て、本気でバラバラにするつもりか!?」



 そう言えば、首なし騎士は魔王の四天王と呼ばれていたか。


 しかし、ユウとゼノはすっかりそのことを忘れて、首なし騎士の中身がどうなっているのか調べる為にジリジリと近づいていくのだった。


 魔王四天王を相手にこんな反応が出来るのは、後にも先にも彼らだけである。

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