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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第9話:魔王四天王? 誰それ?

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【Ⅳ】墓地って怖い

 数え切れないぐらいの墓石が整然と並べられた広大な墓地は、人の気配が全くない。墓参りに訪れる人すらいなかった。


 錆び付いた門扉の前に並んで立つユウとゼノは、門扉の上部に掲げられた看板を見上げる。



「ヴェリック大墓地だね」

「ここに首なし騎士がいんのかァ?」



 銀色の長弓ロングボウを背負い直すゼノは、錆び付いた門扉に大股で歩み寄った。


 錆び付いた鉄の門は鎖で閉ざされていて、ガシャガシャと揺さぶってみても鎖が壊れる気配はない。この調子だと門扉の方が先に壊れそうだ。


 ゼノは指先についた錆を払い落とすと、



「ユウ坊、コイツを壊せるか?」

「壊してもいいの?」



 青い魔石が埋め込まれた長杖ロッドを両手で握りしめるユウは、コテンと首を傾げた。


 魔法を使えば、そんな門扉など跡形もなく壊せる。

 だけど、誰のものか分からないけれど、建物を壊すことにユウは不安を覚えた。もし壊したら、誰かに怒られるのではないかと心配になった。


 ゼノは「安心しろよ」と笑うと、



「誰もオマエがやったことを叱らねェさ。墓地に入るのに必要なことだしな」

「そうかなぁ」

「それに、いざとなったらアタシも同罪だ。一緒に怒られてやるよ」

「本当?」



 ユウがゼノの顔を見上げると、彼女は快活な笑みを見せて「本当だって」と言う。


 彼女が言うのであれば間違いない。

 ゼノ・シーフェというダークエルフに全幅の信頼を寄せるユウは、彼女の言葉を受けてコクリと頷いた。



「じゃあ、壊すね」

「おう」

「ゼノ、避けて。そこにいると当たっちゃう」

「分かった」



 ゼノは鎖で縛られた錆びた門扉から離れる。


 錆びた鉄の門に長杖を突きつけて、ユウはいつも使っている最上級雷魔法を使うことにした。



「《ごろごろどん》!!」



 その時、灰色の空から雷が落ちた。


 雷が落ちた先は錆び付いた鉄製の門を縛る鎖であり、ぷすぷすと黒煙を上げて鎖は千切れて地面に落ちる。

 鎖から解き放たれた門はゆっくりと開かれて、ギィィィと蝶番が軋む不気味な音が響く。門が開いた途端、何やら気味の悪い空気が流れ込んできたような気がした。


 いつもであれば怖がってゼノの後ろに隠れるユウだが、こういう幽霊や不気味な場所に関して耐性があるのか、長杖を握りしめてぴょんぴょんと飛ぶ。



「わーい、開いた開いた!!」

「相変わらず凄ェ魔法の腕前だな。尊敬する」

「ゼノも魔法覚える?」

「アタシはいい。魔法の適性がねェんだ、覚えたって無駄だ」



 ゼノは苦笑しながらユウの申し出を断ると、ヴェリック大墓地へと足を踏み入れた。


 迷いのない足取りで墓地の中へと入っていくゼノの背中を、ユウは「待って、ゼノ」と追いかけた。



 ☆



 ずらりと並んだ墓石にはそれぞれ名前と没年が刻まれていて、時々、枯れた花がお供えされている墓地もあった。


 ユウとゼノはそんな墓地を歩き回りながら、目当ての首なし騎士を探す。


 こんな墓地の真ん中で騎士の格好をすれば、すぐに見つかるはずだ。

 なのに、不思議なことに騎士の格好をした人物の姿は、これっぽっちも見えない。それどころか、お付きの屍人系魔物もいない様子だ。


 ヴェリック大墓地をうろうろと彷徨い歩きながら、ゼノは悪態を吐く。



「こんな墓地にいるのかよ、首なし騎士は。何かの間違いとかじゃなェのか?」

「冒険者ギルドのおねーさんから貰った紙には、そう書かれてるんだけどなぁ」



 ユウは冒険者ギルドの受付嬢から渡された羊皮紙に目を落とし、首なし騎士の出現場所をもう一度確認する。


 そこには確かにヴェリック大墓地の名前が記されていて、何度読み返しても場所が変わるような気配はない。受付嬢も、ユウとゼノを騙した様子はなかった。


 ならば、出現条件などがあるのだろうか。


 羊皮紙をしまいながら、ユウはゼノに言う。



「もう少し探してみよ」

「そうだな。探せば屍人系魔物も出てくるかもしれねェし」



 ゼノもユウの提案に頷いた途端、すぐ側にあった墓石がガタガタと揺れ始めた。


 ビックゥ!! とユウは驚きで飛び上がる。

 慌ててゼノに飛びつくと、彼女の背中に隠れた。


 墓石はガタガタと何故か震えている。

 ユウは墓石に触れてもいないし、もちろん魔法もかけていない。ゼノも揺れる墓石へ怪しむような視線を突き刺していた。



「ぜ、ぜ、ぜの、ゼノ」

「落ち着けユウ坊、まずは相手の様子を見るぞ。いざとなったら防御魔法で自分の身を守れよ」

「うん、うん、分かった」



 コクコクと何度も頷くユウは、ギュッと長杖を握りしめてガタガタと振動する墓石を睨みつける。


 ゼノが墓石に近づくと、墓石の後ろから肌が緑色の人間が飛び出してきた。

 眼球は白く濁っていて、髪は抜け落ちている。カサカサの唇から覗く歯は黄ばんでいて、前歯の数本しか生えていない。蝿も周りをぶんぶんと飛んでいて、明らかに生きていないことが窺える。


 たとえ生きていないとしても、その悍ましい姿にユウが怖がらないはずがなかった。



「うがああああああああああッ!!」

「ぴーッ!!」



 甲高い悲鳴を上げるユウをよそに、ゼノは襲いかかってきた肌が緑色の人間の横っ面を拳でぶん殴った。


 吹き飛ぶ人間、飛び散る黄ばんだ歯。

 あっという間に黒い粒子へと変換された緑色の人間を見送って、ゼノは手を振りながらユウの頭をポンポンと叩く。



「ほら、もう終わったから」

「うう……うー……」



 ユウは涙で濡れた青い瞳でゼノを見上げると、



「緑の人、怖い!!」

「そうだな。早く首なし騎士を倒そうぜ」

「うん!!」



 ゼノに促されて、ユウはさっさと首なし騎士の討伐に気合を入れるのだった。


 もうこんな墓地など二度とごめんだと思いながら。

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