【Ⅰ】お仕事があった!
さっそくお仕事を受注しよう。
「おはようございます! お仕事ください!!」
「はい、こちらにご用意していますよ」
受付嬢はにこやかな笑みと共に、いくつかの羊皮紙を取り出した。
開口一番に仕事を大きな声で求めたはいいが、ウィラニアでは色良い返事が貰えなかった。それが通常だった。
ところが、フラウディア王国ではしっかりと用意されていたのだ。
仕事が用意されているという当たり前のことに、ユウとゼノは感動を覚えた。
「……お仕事、あるの……?」
「ありますよ?」
受付嬢は不思議そうに首を傾げる。
ユウとゼノの反応は、一般の冒険者からすれば異常だった。
仕事があるのは当たり前のことで、断られるということはまずあり得ないのだから。
ユウはゼノへと振り返り、キラキラと輝く瞳で美しきダークエルフを見上げる。
「ゼノ、ゼノ、どうしよう……お仕事あるって……」
「そうだな、驚きだな」
「……あの?」
不審に思った受付嬢がユウとゼノに呼びかけるが、彼らは受付嬢の反応などに気づかず手を取り合って盛大に喜んだ。
「わーい!! お仕事、お仕事だあ!!」
「やったなユウ坊、レベル0から脱却できる日も近いなァ!!」
「え、えー……?」
キャッキャと喜ぶユウとゼノに、受付嬢は反応に困っている様子だった。
「ねえねえ、おねーさん!! どんなお仕事? おつかい? それともごぶりん?」
「こちらからお好きなものをお選びください」
気を取り直したように笑みを浮かべる受付嬢が並べた羊皮紙には、様々な内容の仕事が記載されていた。
ザッと眺めてみたところ、討伐系の任務が多いようだ。
そして、何故か報酬金額が高い。目玉が飛び出るぐらいに貰えるものばかりだ。
ユウは討伐する魔物の名前を、わざわざ声に出しながら言う。
「えん、しぇんと、どらごん? ゔぁん、ぱい、あ、ろーど?」
「首なし騎士の討伐に大悪魔アベル、堕天使フェルメール? こんなのもいるのか」
ゼノも仕事内容が記載された羊皮紙を眺めながら、一緒に討伐する魔物を確認する。
魔物の名前を読み上げるたびに、周囲の冒険者が「え?」「嘘だろ?」とざわめく。
「あれってどれもこれも討伐難易度SSS級の奴ばかりじゃねえか」
「ああ、二度と帰ってこられないって……」
「絶対に死ぬ奴じゃねえか……」
「可哀想に……」
哀れみが含まれた視線が二人に突き刺さるが、ユウとゼノは仕事があるだけでよかったのだ。
内容はともかくとして、冒険者としてまともに働けることが何よりも嬉しい。これは張り切って仕事に取り組まなければ。
ユウは「うーんと、えーと」と数ある羊皮紙に視線を巡らせて、
「これにする!!」
ユウが選んだのは、首のない騎士の討伐だった。
受付嬢が「そちらでよろしいですか?」と問いかけてきて、ユウは迷わず「うん!!」と頷く。
首のない騎士など想像できない魔物だ。
これは是非見てみたいものである。それが、この仕事を選んだ理由だった。
にこやかな笑みを浮かべる受付嬢は、ユウから仕事内容が記載された羊皮紙を受け取る。そして羊皮紙の隅にギルドの紋章が刻まれた判子を捺印すると、くるくると丸めてユウに手渡した。
「こちらは、該当の魔物を討伐した暁に、自動的に『討伐成功』という文字が浮かび上がる仕様となっております。羊皮紙は必ず持ち帰ってくださいね」
「はーい!!」
ユウは元気よく返事をした。
受付嬢はさらに折り畳んだ地図をゼノに渡すと、
「こちらは、イグリアス大陸全体の地図になります。無料で差し上げますので、どうぞ有効にご活用ください」
「地図までくれるのかよ。本当にフラウディア王国の冒険者ギルドは凄ェな」
さすが大国である、地方とは対応が違う。
ウィラニアでは地図など配られなかったし、仕事が受けられない回数の方が多かった。こんなにちゃんとした仕事がたくさん用意されているとは驚いたものだ。
すでに小躍りしながら「おっしごとー、おっしごとー♪」と長杖を振り回すユウの頭を軽く小突いて注意し、ゼノは受付嬢に地図をひらひらと揺らしながら言う。
「じゃあ行ってくる。終わったらまたここに戻ってくりゃいいんだろ?」
「はい。よろしくお願いします」
受付嬢は満面の笑みで「行ってらっしゃいませ」とユウとゼノを送り出した。
ユウとゼノは知らない。
受けた仕事があまりにも難易度が高すぎて、誰も受けなかったことを。仕事が用意されているのではなく、誰も受けないような仕事が回ってきてしまう損な役回りであることを。
そしてまた、フラウディア王国の冒険者ギルド側も知らなかった。
彼らの能力値がカンスト状態であることは偽造でも誤りでもなく、本当の彼らの実力であることを。
互いに互いを知らないまま、この首なし騎士の討伐任務は開始されたのだった。




