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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第8話:フラウディア王国で始まる新生活

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【Ⅵ】これから始まる新しい生活

「えー、お二人さんは合格です。ようこそ、フラウディア王国冒険者ギルドへ。職員一同、お前らを歓迎しよう」



 情けなくも一撃で倒されてしまったクラウドは、ユウとゼノの試験合格を言い渡した。

 引退したとはいえ、レベル85を一撃で倒すような実力の持ち主である。ここで追い払うなど馬鹿のやることだ。


 ユウは「わーい!」と喜びを表現し、ゼノは当然だとばかりに鼻を鳴らす。


 クラウドは紹介状とその上に載せられたユウとゼノの冒険者カードへ視線を走らせ、言いにくそうに「あー」と唸る。



「冒険者になる条件として、ユウとゼノは一緒にやってきたお嬢ちゃんたちとは仕事が出来ねえことになるが」

「ええッ!? 何でぇ!?」



 ユウはクラウドに詰め寄る。


 彼が最も大切にしているのはゼノだが、ミザリーやシュラも大切な友達なのだ。冒険者になるなら一緒に仕事をしたい。


 しかし、クラウドは首を縦に振らなかった。

 彼は難しそうな表情で、くすんだ金髪をガシガシと乱暴に掻く。



「お前らとあのお嬢さんたちではレベルに差がありすぎる。同じ仕事をするにしても、適正レベルがあるからな。別々に仕事をした方が、生存率も高くなる」



 クラウドの説明に、ユウは納得がいかないとばかりに唇を尖らせる。


 そんな彼に「仕方ありませんよ」と言ったのは、ミザリーだった。

 振り向いた先の彼女は、少し困ったような笑みを浮かべて言う。



「ユウさんとゼノさん、私とシュラちゃんではレベルが圧倒的に違いますから。別々のお仕事をした方が、きっと危険じゃありませんよ」

「そうだぞ、ユウ坊。先生もそう言ってんだから、あんまり我儘を言って困らせんじゃねェ」



 ゼノがポンポンとユウの頭を撫でながら、



「それに、アタシらはレベル0だ。目一杯仕事をしてレベルを上げて、ここまで強くなったんだぜって自慢してやろうぜ」

「…………そっかぁ! うん、そうだね!」



 ユウは納得したように頷いた。


 そうだ、ユウとゼノはまだレベルが表示されていない状態――レベル0である。すでにレベルが表示されているミザリーとシュラに比べれば、圧倒的に弱い存在なのだ。


 クラウドは、レベル0であるユウとゼノが簡単に死んでしまわないように、という配慮からミザリーとシュラとは別の仕事を請け負うように言ったのだ。


 そこまで判断したユウは、クラウドに「ごめんなさい」とペコリと頭を下げた。



「おにーさんは、ぼくたちがまだ冒険者になったばかりだから、一生懸命考えてくれたんだよね。先に冒険者になった先生たちと一緒にお仕事すると、ぼくたちが危険だから別々のお仕事するように言ったんだよね」

「え、いや、ええ……?」



 クラウドは「そうじゃねえんだけどなァ……」と呟くが、ユウには聞こえていなかった。


 ユウはミザリーとシュラの手を取ると、



「別々のお仕事で忙しくても、たまには遊んでね!!」

「ええ、もちろんです。レイドのお仕事で一緒になった際は、またパーティを組んでくださいね」

「アンタたちと仕事をするのは、別に苦じゃないからいいわ。たまにら遊んであげる」



 少女二人の手を片方ずつ取ったユウは「わーい、わーい」と喜ぶ。


 離れ離れになっても友達でいてくれることを確認するように、ユウはしばらくの間、ミザリーとシュラの手をぶん回し続けた。



 ☆



「るったったー、るったったー♪」



 自作の歌を意気揚々と歌いながら、ユウは夕焼けに染まるフラウディア王国の大通りを歩いていた。


 冒険者ギルドにて冒険者の登録が終わり、時間もあるからと喫茶店でお喋りをしていたのだ。

 ウィラニアよりもちょっとお菓子や紅茶のお値段が高かったが、とても美味しいお菓子と紅茶だった。贅沢は出来ないな、とユウは思ったが。


 しゃらしゃら、と煌びやかな装飾が施された長杖ロッドを振り回しながら歩いていると、ゼノから「ちゃんと歩け」と注意される。



「他の人に迷惑がかかるだろ」

「はぁい」



 ゼノに言われて、ユウは長杖を振り回すことを止めた。


 茜色に染まる空を見上げて、ユウはゼノに振り返る。



「ゼノ、ゼノ」

「何だよ」

「フラウディア王国には、たくさんお仕事あるといいね」

「先生とシュラ嬢とは別の仕事を受けろって言われたからな、アタシらでも引き受けられるような仕事はたくさんあるだろ」

「どんなお仕事かなぁ。ごぶりんだったらね、ぼく頑張るね!!」

「まだゴブリンに夕飯を邪魔されたことを根に持ってんのかよ」

「ぼく、ごぶりん嫌いだもん!!」

「他の魔物はどうなんだ?」

「ん? んー」



 ゼノに問われて、ユウはコテンと首を傾げる。


 魔物はあまり遭遇したことがないが、強いて言えば――。



「あ、ローザちゃんは好きだよ」

「……感謝するのじゃ」



 長旅の疲れが出ているのか不明だが、ローザは蝙蝠こうもりで作った日傘の下でげっそりとした表情で返す。



「明日はどんな仕事が受けられるのかなぁ。ぼく、とても楽しみだなぁ」

「薬草の収集とか、誰かのお使いとかだろうな。何せレベル0だし」

「いっぱいごぶりん倒したのに、何でレベルが上がらないんだろうね?」

「先生やシュラ嬢はたびたび『カンスト』とか言ってたが、どういう意味なんだろうな」

「んー、でもあんまり難しそうなお仕事じゃなきゃいいなぁ」

「怖い魔物とかじゃなけりゃいいな」



 ほわほわと笑うユウの頭を撫でながら、ゼノも綺麗な笑みを見せるのだった。


 そんな彼らの姿を後ろから眺めながら、ローザがげんなりとした様子で呟く。



「……レベルカンストの意味を知らぬとか、本当にどこの田舎出身なんじゃ此奴ら」



 彼女の呟きは、前を歩くユウとゼノどころか他の通行人にすら届かないほど小さいものだった。

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