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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第8話:フラウディア王国で始まる新生活

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【Ⅴ】試験開始

「まずは魔法使いの方からだな」



 身の丈以上の大剣を構えて、クラウドが指定してくる。


 ユウは「はーい!」と元気よく返事をすると、青い魔石が埋め込まれた長杖ロッドを両手で握りしめて前に進み出る。



「よろしくお願いします!!」

「お、おう。――お前は、その、あれだな。何かちぐはぐな印象を受けるな」

「ん? ぼくがどうしたの?」



 クラウドの後半の台詞が聞こえず、ユウは不思議そうに首を傾げる。


 見た目こそ若々しい青年だが、精神状態が子供のそれである。クラウドも混乱するのは当然のことだ。

 だが、冒険者カードに記された実力は確かなものである。おそらく、イグリアス大陸でも頂点に立つほどの強い魔法使いだ。


 クラウドは「始めるぞ」と声をかけたその瞬間、地面を強く蹴った。


 風のような速さでユウに肉薄すると、大剣を振り上げて襲い掛かる。

 どれだけ強い魔法使いでも、一瞬で距離を詰められれば対応できない。魔法使いは後衛職であり、長々しい魔法の呪文を唱えて魔法を発動させるのだから。


 魔法使いを倒すには一瞬で距離を詰めることが最適だが、彼の場合は魔法使いの攻略方法すら適用されなかった。



「わあああああ!!」

「ぶッ」



 殴った。


 もう一度言おう、殴ったのだ。


 いきなり目の前に現れたクラウドに驚いたユウは、長杖でクラウドの顔面を思い切りぶん殴ったのだった。

 確かに杖は打撃用の武器としても用いられるだろうが、さすがに装飾品がゴテゴテとついた繊細な意匠の長杖を鈍器として躊躇いもなく振り回す魔法使いはこの世にいないだろう。


 長杖に顔面をぶん殴られたクラウドは鼻血を出しながらよろめくが、ユウの追撃は止まらない。



「来ないでぇ!!」

「ちょ、待ッ」



 待つ訳がなかった。


 これに関して言えば、クラウドが全面的に悪い。


 別に、相手の能力値はカンストしているので手加減など必要ない。むしろ手加減が必要なのはユウの方である。


 しかし、ユウの中身はそこら辺を元気に駆け回る子供と大差ないのだ。純粋無垢で穢れを知らず、駆け引きなど全く出来ない子供なのだ。


 そんな精神だけ子供のユウへ、遠慮もなしに攻撃を仕掛ければどうなるか分かるだろう。


 容赦なんて一切ないのだ。



「《ごろごろどん》!!」

「ぶぎゃッ」



 クラウドの脳天に、ユウが発動した最上級雷魔法が落ちる。


 全身をぷすぷすと焦がし、無様な悲鳴を上げたクラウドは、そのままバッタリと仰向けで倒れてしまう。当然と言えば当然の死に様だ。


 ユウは青い瞳にじわじわと涙を浮かび上がらせると、くるりと踵を返して順番待ちをしていたゼノに飛びついた。



「ゼノ、ゼノ!! 怖いよぉ!!」

「おー、よく頑張ったなユウ坊。怖かったろ」



 抱きついてくるユウの頭を撫でながら、ゼノは慈愛に満ちた笑顔を浮かべて言う。



「あとはアタシが三度殺してやるからな」

「いやいや待て待て、それだと俺は確実に死んじまうだろ!?」



 いつのまにかスキル『超再生』により蘇生されたクラウドは、問題発言をしたゼノに待ったをかけた。


 ゼノは「何だ、生き返るの早ェな」とあっけらかんと言うと、



「次はアタシだろ? アタシには手加減なしで構わねェぞ」

「お前の目が明らかにおかしいんだよ!! 有言実行するつもりだろ!?」



 銀色の長弓ロングボウを構えるゼノに、クラウドは及び腰になりながら叫んだ。


 ゼノは瞳に「絶対にクラウドを殺してやる」という意思を漲らせたまま、不思議そうに首を傾げる。



「オマエがユウ坊相手に乱暴するからいけねェんだろ? 死んでもよくねェか、教育に悪い」

「お前の方が教育に悪――ちょ、まッ、待って待って待て待て待て!! いきなり矢を射ってくるのは反則だろ!?」



 クラウドがユウに対して手加減なしに突っ込んだ時と同じように、ゼノもまたクラウド相手に容赦も手加減もしなかった。


 黙々と矢をつがえては放ち、クラウドが逃げ回る様をわざと楽しんでいる。ゼノの実力であればクラウドの眉間に矢を突き刺すことなど容易いのだが、残念ながらこの美しきダークエルフはユウよりも優しくない。

 もっと言ってしまえば、ユウと彼が心を許した相手以外に優しくする気はサラサラない。たとえミザリーであろうがシュラであろうが、ユウに乱暴を働いた瞬間に敵と判断する所存である。


 ちょこまかと逃げ回るクラウドからわざと矢を外しながら、ゼノは楽しそうに笑い飛ばした。



「ほらほらどうした、元冒険者だろォ? レベルが85あったんだろォ? こちとらレベル0だぞ。格下相手に翻弄されるのは恥ずかしくねェのか?」

「言わせておけば――!!」



 さすがに我慢の限界が訪れたのか、クラウドは大剣を掲げる。


 天高く掲げられた大剣に、赤いもやのようなものが纏わり付いた。気のようなものなのだろうか。何かをしようということは理解できる。


 しかし、ゼノは慌てなかった。

 彼女は銀色の長弓に矢をつがえて、



「ほいッ」

「いてッ」



 放たれた矢は、寸分の狂いもなくクラウドの額にぶち当たった。


 間抜けな声を漏らして再び仰向けで倒れたクラウドは、呆気なく弓矢の一撃だけで気絶を果たし、超再生のスキルで蘇生するのだった。

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