【Ⅱ】到着、フラウディア王国!
「フラウディア王国はまだかな? まだかな?」
「もうすぐだって御者のおっさんは言ってたぞ」
わくわくとした様子で馬車の外を眺めるユウは、今にも馬車から飛び出さない勢いで言う。
そんな彼が馬車を飛び出していかないようにと長衣を引っ掴んで阻止するゼノが、もう馬車に乗っているのは飽きたとばかりに欠伸をする。
彼女の場合は別の意味合いもあって欠伸をしたが、その理由を知る人物はローザぐらいのものだろう。
幌の隙間から差し込む日差しから逃げるローザは、
「フラウディア王国なんて人が多いところの代表格ではないか……気が知れんわい」
「あはは……それはまあ、ローザさんはそうでしょうね」
膝を抱えて暗い表情を見せるローザに、ミザリーは苦笑で応じる。
「ああ、お客さんや。フラウディア王国が見えてきたぞぅ」
「ほんと!? どこどこ!?」
ユウは荷台から身を乗り出して、御者が言うフラウディア王国を探そうとする。
広々とした草原のど真ん中に、高い城壁に囲まれた巨大な国があった。
中心にはおとぎ話でよく見る立派なお城があり、それを守るようにして立派な屋敷や建物が連なる。ウィラニアよりも大きな国だということは、一目で分かるぐらいの規模だった。
青い瞳を輝かせ、ユウは興奮した様子で「ふおおお!!」と叫ぶ。
「ゼノ、ゼノ!! とっても大きなお城があるよ!!」
「おう、分かった。分かったから大人しく座れ、危ない」
荷台から転がり落ちそうになるユウの長衣を引っ張って荷台に戻し、ゼノは「大人しくしてろ」と青年に釘を刺す。
「もうすぐ着くよぅ」
「どれぐらい!? あとどれぐらい!?」
「ユウ坊、大人しくしとけって言っただろ」
大きな国を前に興奮が隠し切れていないユウは、御者の男に詰め寄って困らせていた。
そんな彼の襟首を引っ掴んで荷台に引き戻すゼノは、疲れたようにため息を吐いていた。まるでやんちゃな息子を持つ母親である。
☆
「フラウディア王国、フラウディア王国に到着ぅ」
御者の男の声に反応して、真っ先に馬車を飛び出したのはユウだった。
フラウディア王国の到着を待ちわびていたのか、その動きは普段の三倍ぐらい俊敏だった。両手に長杖を握りしめて馬車を飛び出していく様は、目当ての公園を見つけて駆け出す子供のようである。
その背中を「おい待てユウ坊!!」と叫びながらゼノが追いかけ、ローザが蝙蝠で作った日傘を片手に呆れた様子で馬車を降りる。シュラとミザリーはここまで運んでくれた御者の男にお礼を告げてから、馬車を降りた。
馬車が停まったのはフラウディア王国の城門の前で、これから検問を通ってからフラウディア王国の中に入るようだ。
「検問と言っても、入国理由を話すだけです。私たちはギルド移籍の為にフラウディア王国を訪れたので、簡単に入れると思いますよ」
「そうなの? 他にもフラウディア王国に来る人っているんだぁ」
「流通の中心にもなっていますから、商人の方もたくさんいらっしゃいますよ」
ミザリーが「あちらに並ぶようですね」と指を示す。
少女の指が示す先には、たくさんの人が検問を待っているようだった。家族連れだったり、馬車にたくさんの荷物を積んだ男だったりと様々だ。
ユウたちも、彼らに倣って列に並ぶ。
一人だけ楽をしよう、という考えは残念ながらこの純粋な魔法使いには持ち合わせていないのだ。
「すぐに入れるかな?」
「入国理由を聞かれるだけだから、私たちは『ギルド移籍の為』って答えればいいわよ」
シュラの言葉に、ユウは「分かった」と素直に頷いた。
さすが大きな国とでも言うべきか、ユウたちの前にはかなりの入国審査を待つ人々が並んでいたはずなのに、一〇分ほどでユウたちの審査の順番が回ってきた。
真紅の軍服に身を包んだ男が、羊皮紙と羽ペンを片手に「はい、五人ですね」と言う。
「ダークエルフも?」
「そうだよ」
「誰の奴隷?」
「奴隷じゃないよ」
「んん? 奴隷じゃない?」
軍服の男は羊皮紙から顔を上げて、ゼノの首元に奴隷の証がないことを確認して「あ、本当だ」と呟いた。
「奴隷じゃないダークエルフも珍しいモンだな。王国には様々な種族がいるからダークエルフもまあまあ見かけるけど、ほとんどが奴隷だもんなぁ」
「おい、今すぐその考えを改めねえとオマエの眼球に矢をぶっ刺すぞ」
先程から「奴隷、奴隷」と言われたことで苛立っているゼノが軍服の男に威嚇すると、男はゼノの本気を悟って「す、すみませんでした」と謝罪する。
「それでは、本日はどのようなご用件で?」
「フラウディア王国のギルドに移籍するように紹介されました。こちらが紹介状です」
ミザリーがウィラニアの冒険者ギルドで受け取った紹介状を軍服の男に見せると、男はその文面を確認して頷いた。
「確認いたしました。どうぞ、気をつけてお通りください」
軍服の男に促されて、ユウたちは城門を通り抜ける。
門を通り抜けた先に広がっていたのは、
「うわあ!! 凄い!!」
ユウは瞳をキラキラと輝かせて、目の前に広がる町並みを見渡す。
ウィラニアとは比べものにならないぐらいにたくさんの建物が並び、様々な店が客を呼び込んでいる。道具屋や武器屋だけでも、見たところ三店ぐらいは同じような店があった。
「ゼノ、ゼノ!! 凄いね、凄いね!!」
「そうだな。ウィラニアよりも人がいるな」
興奮した様子で振り返るユウに、ゼノも同意を示した。
ウィラニアもそれなりに大きな国だと認識していたが、フラウディア王国は比較にならないほど大きい。これなら色々とありそうだ。
「ほら、ぼさっとしてないで。さっさと冒険者ギルドに登録しに行きましょう」
「おっと、シュラ嬢もわくわくしてんな? 分かるぞ、こんな大きな国の冒険者になれるんだもんな」
「う、うるさいわね!!」
茶化したように笑うゼノに、シュラは顔を真っ赤にして叫んでいた。
こんな大きな国なのだ。ウィラニアでは仕事を断られることが多かったが、もしかしたらユウとゼノのようなレベル0でも出来る仕事があるかもしれない。
そんな期待を込めて、ユウは「頑張るぞ!!」と密かに気合いを入れていた。




