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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第7話:ヘレニア国立魔法学院の学園祭

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【Ⅵ】無様な敗北

 勝負の場所に選ばれたのは、校庭ではなくヘレニア国立魔法学院の中庭だった。


 中央に噴水が設置されて、花壇では色とりどりの花が咲き乱れている。

 学園祭では休憩場所に使われているようだが、今は観客たちが興味津々と言った様子で集まり始めていた。


 その原因は、中庭に向かい合って立つ銀髪の青年と黒髪の少年だった。



「ルールは簡単だ。自分の背後にある水晶に魔法を撃ち、砕け散った方が負け」

「うん、分かった」



 ユウは頷く。


 彼の背後には巨大な水晶が台座に設置されていて、陽の光を受けて虹色の輝きを放っている。

 水晶は魔力の吸収率が高く、これだけ大きければかなりの量を吸収することが出来るだろう。この巨大水晶を砕け散る勢いの魔法というと、連続で魔法を絶え間なく叩き込むか、強大な魔法で砕くしかない。


 台座に掲げられた水晶を見上げていたユウは、少年に「おい」と呼ばれて前を見る。



「そう言えば、名前を聞いてなかったな」

「ユウ・フィーネだよ」



 少年は「そうか」と答えると、



「俺は神崎結弦かんざきゆづるだ」

「ユヅルおにーさん?」

「名前なんてどうでもいい」

「じゃあへんたいさんって呼ぶね」



 ユウの印象は、ゼノに言い寄ったことですでに『へんたいさん』というものが固定されていた。その印象を覆すのは、いくら苺クレープを奢ってくれたとしても至難の技である。


 少年――神崎結弦は、ユウの呼び方に対して不満そうにしていたが、何を言っても無駄だと思ったのか「まあいい」と言う。



「どうせだ。勝った方に賞品をつけようか」

「しょーひん?」

「俺はそこのダークエルフの解放を要求する」



 結弦はユウの疑問を無視して、あろうことかゼノの解放という有り得ないものを要求してきた。


 話題に出されたゼノは「あ?」と低い声で言うが、全く結弦には聞こえていない。彼女からすればふざけた要求である。奴隷でも何でもないのに、何を考えているのだろうか。


 ユウは青い魔石が埋め込まれた長杖ロッドを揺らして、



「ゼノを何だと思ってるの?」

「奴隷だろう? この世界ではエルフや獣人などの亜人種は奴隷として扱われると聞いた。実際、この学園の中にもエルフや獣人は虐めの対象になりやすい。俺は、そういう差別をなくす為にここにいる」

「ゼノは奴隷じゃないよ」



 もっともらしい正義を語る結弦に、ユウはきっぱりと言う。



「ゼノはぼくの大切な家族だよ。おにーさんの変な理由に、ゼノを巻き込まないで」

「変な理由だと……?」



 結弦の黒い瞳に怒りの感情が滲む。



「ふざけるな!! そんなの嘘に決まってる!! 家族だと? 笑わせるな。どうせ影では辛く当たってるんだろう!!」



 結弦も、ユウに対して変な印象を抱いているようだった。


 ユウがゼノを奴隷として扱うのであれば、結弦の正義に対する極悪人なのだろう。

 だが、ユウはゼノをそんな存在として扱ったことはただの一度もない。見当違いな主張の敵として、結弦はユウを認識しているのだ。


 そんな頭のおかしな主張を掲げる結弦に、ユウは深々とため息を吐いた。



「本当にいじめられていた人は、おにーさんに助けられて嬉しいかもしれないね」



 可哀想なものでも見るかのような視線を結弦へ送り、



「でも、おにーさんに助けられたくなかった人もいるかもしれないのにね」

「何だと……?」

「おにーさんの言うことは、本当に正しいこと? 全部が全部、奴隷だったの?」



 例えば、今のゼノのように自分の意思でユウの側にいてくれるダークエルフもいる。


 彼は確かに、学園でたくさんのいじめられっ子を助けたかもしれない。

 しかし、中には「余計なことをしてくれたな」と思った人もいるかもしれない。いじめられていたのも、世の中にはいじめられるのが好きな子も存在するのだ。


 それに、彼の言ういじめとは、本当にいじめだったのか?



「おにーさん」



 ユウは長杖の先端を結弦に向けて、



「ゼノが好きならそう言えばいいのに。渡さないけど」

「――うるせえ!!」



 結弦が激昂すると、ビリビリと空気が震える。


 怒りの感情をぶち撒けると同時に、魔力を放出したのだろう。威嚇としては使えることだが、ユウはその程度では怯まない。



「お前に俺の何が分かる!!」

「何も分からないよ。ぼくはおにーさんのお友達じゃないから」



 ぐるりと長杖を振り回して、ユウは唇を尖らせて言う。



「早くやろーよ。どーせ、また負けるんだから」

「言ってろ!!」



 叫ぶ結弦はユウを睨みつけ、



「《光の神――》」

「《ごろごろどん》」



 結弦が魔法を発動させるより先に、ユウは水晶めがけて雷を落としていた。


 最上級雷魔法である。普通であればかなりの修行をしなければ使えない魔法だが、レベルがすでにカンストしているユウはふざけた呪文でも使えるのだ。


 晴れ渡った空からピシャーンッ!! と雷が水晶めがけて落ちる。


 雷を受けた水晶は吸収できる容量を簡単に超し、パァンと木っ端微塵に砕け散った。



「な――」



 砕け散った水晶を見上げる結弦。


 呆然と見上げる少年を無視して、ユウは決闘を見守ってくれていたゼノに振り向いた。



「ゼノ、ゼノ!! また勝ったよ!!」

「おう、見てた見てた。凄ェな」



 ゼノに抱きつけば、彼女は「よく頑張ったな」と頭を撫でてくれる。奴隷だったらこうやって気さくに頭など撫でてくれないだろう。



「――――ん、で」

「ん?」



 結弦から何か言葉が聞こえて、ユウはくるりと振り返る。


 少年は悔しそうに地団駄を踏むと、



「俺は!! 女神ステラの加護を貰ってるんだぞ!! どうしてモブ如きに勝てねえんだよ!! おかしいだろ、チートなスキルばかり貰ったのに何で何で何で!!」

「なーんだ」



 ユウは納得した。


 結弦は、自分が世界で一番強いと信じていた。そして、自分よりも強い魔法をポンポンと使うユウに嫉妬していたのだ。

 なるほど、それなら理解できる。


 長杖を握り直したユウは、



「じゃあ、ぼくと同じぐらいに強くしてあげるね」

「え」



 結弦が驚いた表情でユウを見やると同時に、ユウは長杖をぐるんと振り回した。



「《おかえりー》」



 魔法が発動する。


 フッと結弦の姿がその場から掻き消えた。まるでそこには誰もいなかったかのように、本当に一瞬の出来事だった。


 少年が消えたことで観衆は「ええ!?」と驚いていたが、ゼノは特に驚いた様子も見せずに、



「ユウ坊、さっきの奴はどこに飛ばしたんだ?」

「ぼくたちのおうち!!」



 満面の笑みで答えるユウ。


 それは、始まりの街のウィラニアではなく、グレイシャール蒼海に浮かぶ名もなき小さな無人島のことを示していた。

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