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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第7話:ヘレニア国立魔法学院の学園祭

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【Ⅴ】決闘を申し込まれた

「むっふふー♪」



 あの騒動を経て、ユウはお祭りを満喫していた。


 ユウの魔法の実力を目の当たりにした生徒たちは案内役を買って出たのだが、知らない人にあれだけ詰め寄られてユウは完全に怯えてしまっていた。

 ゼノに追い払ってもらって事なきを得て、今はこうして賑やかな祭りの雰囲気を楽しんでいる。


 綿飴という雲のようにふわふわなお菓子を口に運びながら、ユウはご機嫌な足取りで広い廊下を歩く。



「楽しいねぇ、ゼノ」

「ユウ坊、あんまり遠くに行きすぎんなよ。連れ攫われても知らねェぞ」

「ええ!? それはやだぁ!!」



 勢いよくゼノへ振り返り、ユウは「置いてかないよね? ね?」と詰め寄る。こんな誰も知らないような場所に一人で取り残されるのなんて御免である。


 泣きそうな表情で詰め寄ってくるユウの反応が面白いのか、ゼノはからからと笑いながら「冗談だよ」と言った。



「オマエを置いていったら、誰があの玩具オモチャの面倒を見るんだよ」

「誰が玩具だとぅ!?」



 ゼノの言葉が聞き捨てならないとばかりに、ローザが抗議の声を上げた。


 彼女もまた、絶賛お祭りを満喫している最中だった。

 頭には生徒手製のお面を乗せ、右手には飴に包まれた青林檎、左手には焼かれた腸詰めの串がそれぞれ握られていた。ユウよりも楽しんでいる。


 ローザは不満げに唇を尖らせると、



「どーせ、主人を置いて行く気などさらさらないのじゃろ。どこまでもついて行くとは、お主こそ変態の類では――」

「おっと手が滑った」

「どわあッ!? おおおおおい、お主ィ!! い、い、いきなり弓矢をぶっ放してくる馬鹿がおるかぁ!? 窓が割れたであろうがぁ!!」



 ローザの頬を掠めるようにして飛んでいった弓矢は、窓の硝子を突き破って青い空へと飛んでいった。

 ちなみに遠くの方で悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。


 ゼノは銀色の長弓ロングボウを背負い直しながら、



「アタシがいる限り、ユウ坊が攫われるような真似はねェから心配すんな。でも、ちゃんと周りは見とけよ。他の客人に迷惑がかかるぞ」

「うん、分かった」



 ユウはしっかりと頷く。


 この最強の魔法使いは、いつも側にいてくれる美しきダークエルフの言うことだけは素直に聞くのだ。他の人間では彼女の代わりなど務まらない。


 ふわふわとした綿飴を千切って口の中に運ぶユウは、何やら廊下の向こうが騒がしくなったのを感じ取った。

 綿飴の串をしっかり握って首を傾げる彼は、騒がしさの中心にいる人物を認める。


 黒い髪の少年だった。

 無謀にもユウに喧嘩を売って、惨敗したあの変態さんである。



「あ、へんたいさんだ」



 ユウはポツリと呟く。


 淀みのない足音を響かせて廊下をズンズンと突き進んできた少年は、側に銀髪で翡翠色の瞳を持つ少女を侍らせていた。豊満な胸を少年の腕に押し付けて、彼女は訝しげにこちらを眺めている。


 対する少年は、冷ややかな視線をユウに注ぐ。


 彼の、まるで親の仇を見るような冷たい視線に怯えて、ユウは「ひッ」と短い悲鳴を上げてゼノの背後に急いで隠れた。



「おい、お前」



 少年はゼノの背後に隠れるユウを見据えて、



「俺と勝負しろ」

「はあ? アンタ正気なの? ついさっき、コイツに負けたばかりじゃない」



 少年の言葉に、シュラが眉を寄せて抗議した。


 すると、少年は絶対零度の瞳をシュラに向けると、



「部外者は引っ込んでいてくれ」

「何ですってぇ!?」



 シュラが顔を真っ赤にして少年に対して怒りを露わにするが、少年はツンと彼女の存在を無視する。


 ユウも不満だった。

 何故なら、目の前の少年はユウが完膚なきまでに叩き潰したのだから。


 珍しく、本当に珍しくユウも本気で少年の矜持をバキバキにへし折ったつもりだが、まだ挑んでくるだけの気概はあるのか。


 キーッと金切り声を上げるシュラをミザリーが「ま、まあまあ」と宥める光景を一瞥し、ユウはゼノの背後からひょっこりと顔を出した。



「……また負けるのに?」

「今度は負けない。俺の得意な実戦形式でやらせてもらう」



 しかも自分の得意分野で勝負を挑んでくるとは、やはりこの少年は馬鹿なのだろうか。

 狡いでも小賢しいでもなくて、馬鹿である。


 ユウはゼノの顔を見上げて、



「ゼノぉ、どうしよう」

「好きにしたらいいんじゃねェか?」



 ゼノはユウの頭をポンポンと撫でながら、



「オマエが負けるはずねェからな」

「ん、分かった」



 ユウはコクリと頷くと、スッと指を差した。

 その指が示した先にあるのは少年ではなく、



「いちごのくれーぷ、買ってくれたら勝負したげる」



 ズコッと誰もがずっこけそうな要求だった。実際、少年はちょっとずっこけそうになっていた。隣にいる銀髪の少女によって、何とか膝から崩れ落ちるのは耐えたが。



「ほ、本当に……本当にやるんだろうな?」

「うん。約束したげる」



 口元を引き攣らせる少年の問いかけに、ユウはしっかりと頷いて答えた。


 それから少年がきちんとユウが示した先にあった露店で苺のクレープを購入し、ユウに渡したことによって決闘は成立することになる。


 これから魔法を使った凄惨な戦いが始まるというのに、ユウは少年に強請った苺のクレープを手にしてご満悦の様子だった。

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