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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第7話:ヘレニア国立魔法学院の学園祭

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【Ⅲ】異世界転生者の実力

 喧嘩を売られたのは初めてだった。


 ウィラニアではまだ街に出てきたばかりのユウに喧嘩を売るような輩はいなかったし、そもそも魔法の腕前は誰よりも突出していたので喧嘩を売られるようなことはなかったのだ。


 それが、ヘレニアでは真っ向から喧嘩を売られた。

 しかも相手はユウの実力を甘く見ているようだった。


 少年が示したものは、校庭に設置された案山子かかしのようなものだった。

 随分と頑丈に作られた案山子で、頭には兜、胴体を鎧で覆って完全に武装していた。魔法を受け止めても壊れないように、と配慮されているらしい。


 その案山子の側には、文字盤のようなものがあった。

 不格好な時計のような印象を受ける装置だが、おそらく魔法の威力を計測する為の機材なのだろう。


 ユウはゼノへと振り返ると、



「待っててね、ゼノ。ぼく、あのへんたいさんとのけんかに勝ってくるね」

「随分と自信があるようだが、今の一位は俺だぞ?」



 少年がやたら自信満々に言う。


 受付のすぐ側には看板があり、順位が書き込まれている。

 二位から一〇位まではどんぐりの背比べとも呼べる成績だったが、一位の数値だけは桁違いだった。


 ユヅル・カンザキ。

 一位の横に書かれた名前は、そうあった。おそらくあの少年の名前なのだろう。


 ユウはその数値を一瞥すると、



「へんたいさんの本気?」

「馬鹿言え、手加減してやったに決まってるだろう」

「何で?」

「…………は?」



 少年が訝しげに眉根を寄せる。



「何で、手加減してあげたの?」

「機材を壊したら弁償することになるからだ」

「直せばいいのに」

「まあ、そうだな。直せばいいな」

「じゃあ、本気でやって」



 ユウは機材を指で示して、少年に言う。



「本気でやって。どうせぼくが勝つから」

「……舐めてんのか?」

「うん」



 少年の怒りを孕んだ声に怖じ気づくことなく、ユウはしっかりと頷いた。


 馬鹿にしていた。

 ユウは、少年の実力を侮っていた。


 どうせ勝つのは自分なのだ。

 だから、本気の少年に少しばかり痛い目を見て貰わなければ公平ではない。


 少年の額に青筋が浮かぶ。怒っているのは明らかだ。



「後悔すんなよ……!!」

「へんたいさんこそ」



 少年はツカツカと案山子に歩み寄り、少しだけ距離を開けて立ち止まる。


 観客の視線を一身に受ける少年は、静かに右手を前に突き出した。

 そして静かに、ゆっくりと、魔法の呪文を紡いでいく。



「《火炎の女神マグニの名の下に、万物を燃やす業火を喚ぶ》」



 何やら仰々しい呪文を始めたが、ユウは冷めた目で少年の背中を見ていた。


 あの呪文、やたら格好つけているけれど一体何の魔法だろうか?

 逆に格好悪いような印象がある。



「《其れは悪を打ち砕き、魔を焼き払い、全てを無に帰す炎の衝撃――》」



 少年の周囲に赤い光が浮かび上がる。


 彼の呪文に呼応するように、空気中の魔力が属性に応じた光を放っているのだ。

 これは火属性の魔法の呪文なので、炎のように赤く輝く。



「メガ・ボムファイア!!」



 少年の伸ばされた右手から、火球が放たれる。


 めらめらと燃える火球が案山子に飛びつくと、ッッッッッッドン!! と爆発音を響かせた。

 空を焼かんばかりの火柱が上がり、熱い炎が全身武装した案山子に襲いかかる。


 すると、すぐ側の魔力計測器がガタガタと震え始めた。

 案山子に与えられた魔法の威力を計測しているのだろう。今の爆発の魔法であれば、高得点を期待できそうだ。


 やがて、ガタガタと震えていた魔力計測器が静かになり、ピーという音を奏でる。

 記録係らしき少女が魔力計測器に駆け寄ると、数値を手元の羊皮紙に書き込んで受付まで走る。


 受付の生徒が記録係から羊皮紙を受け取ると、数値を発表した。



「数値99.89!! 階級SS!!」



 野次馬に来ていた生徒はおろか、一般客も男子生徒に拍手と歓声を送る。


 彼を褒め称えるような声の数々に、少年は自信満々な視線をユウに向けた。

 黒曜石の瞳は「この記録を超えることは出来ないだろ?」と物語っている。


 ユウはローザに自分の長杖ロッドを渡して「預かってて」と言う。



「公平にするなら、杖を使わない方がいいから」

「主人よ、相手が使ったのは最上級炎魔法じゃぞ? 勝てる自信なぞどこにある?」

「勝てるよ。余裕だもん」



 ローザの台詞に対してユウは自信満々に言い放ち、魔力測定の会場に足を踏み入れたのだった。

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