【Ⅰ】ようこそヘレニア国立魔法学院へ
ヘレニア――そこはイグリアス大陸の各地から魔法適性の高い若者が集められた学園都市である。
街自体が巨大な学校となっていて、生徒数も四桁を超すとされている。
生徒全員が魔法使いの素質を有していて、将来は宮廷魔導師か高ランクの冒険者になることが約束されている。
そんなヘレニアは生徒を魔物や侵入者の襲撃から守るという名目のもと、常に門が閉鎖されている。
当然ながら、生徒も教員もヘレニアの閉ざされた巨大な門を開けることは出来ない。店や食料などはヘレニアの敷地内で育てられているので、外に出る必要性もない。
唯一、この門が開かれる時がヘレニアの祭り――学園祭である。
「この学園祭は、イグリアス大陸中の人々が集まるので有名なんですよ。私は行く機会がなくて訪れたことはありませんが……」
ヘレニアへ入国する為の列に並んでいる最中に、ミザリーがヘレニアについて軽く説明してくれていた。
ユウはキラッキラと瞳を輝かせて「へえ、そうなんだ!」と応じる。そのすぐ側でゼノも興味深げにミザリーの説明に耳を傾けていた。
「ただ、やはり一部の生徒は素行が悪いと言うか……自分の力に自信がある方がいらっしゃるというか……」
「そういう輩は、卒業してから痛い目を見ればいいのよ」
フン、とシュラが腕組みをして鼻を鳴らす。自分がかつて自信家だったので、同じく自信がある生徒を嫌っているのだろう。同族嫌悪というあれかもしれない。
列に並んでしばらく経過した頃、ようやくユウたちの入国審査の順番が回ってきた。
城門近くに立っていたのは、品の良さそうな衣服に身を包んだ女性である。
どこか冒険者ギルドの受付嬢を想起させる衣服だが、胸元に飛び立つ鳥の紋章が縫い付けられていた。おそらく、あれがヘレニアの紋章なのだろう。
女性は優雅に微笑むと、ユウたちを「いらっしゃいませ」と歓迎する。
「父兄の方ですか? お客様ですか?」
「ふけ?」
「父兄です。ヘレニア国立魔法学院の生徒のご兄弟やご両親ですか? という意味です」
首を傾げるユウにも、女性は丁寧に接した。
言葉の意味を理解したユウは、ふるふると首を横に振った。
「ぼくたち、お祭りを見に来たの!!」
「それではお客様ですね。こちらの腕章をどうぞ」
そう言って、女性はユウたちに人数分の布の腕章を差し出した。
腕章には『Guest』という文字が刺繍されていて、それで客人であるということが示される。
「こちらの腕章は、学内では必ず身につけてください。なくされた場合は、ヘレニアから出国できませんのでご了承くださいね」
「はーい」
「おう」
「分かりました」
「分かったわ」
「ふん、仕方あるまいな」
ユウたちはそれぞれ腕章をつけると、女性はヘレニア内部に客人である彼らを導く。
「ようこそ、ヘレニア国立魔法学院へ」
城門の向こうに広がっていたのは、橙色の煉瓦が特徴の賑やかな町並みだった。
☆
「あ、そう言えばヘレニア国立魔法学院には確か異世界転生者がいらっしゃいましたよねぇ」
天界にて呑気にお茶を飲む女神――ステラは、のほほんとして様子で呟く。
何日か前、いや何年か前ぐらいだろうか。
不慮の事故で亡くなってしまった社会人の男を異世界転生させ、全ての魔法を使うことが出来る加護を渡したような気がする。「異世界転生だひゃっほう!!」と楽しそうに言っていたのを思い出した。
その男の世界では異世界転生が流行っていたようで、彼も「ようやく自分の番が回ってきた!!」と喜んでいた。喜んでくれているならよかったが。
「まあ、そんなに目立った問題行動は起こしていないでしょうし、いずれ彼も卒業したら魔王を倒す為の勇者になるでしょう。あまり気にすることもありませんか」
そもそも、全属性の魔法を使える加護を持つ彼以上に強い魔法使いなどいないのだ。
女神ステラはほのぼのと笑いながら「お茶が美味しいですねぇ」と呟いた。
――彼女は覚えていない。
まさか孤島でレベルカンストになるまで海魔を倒し続け、あらゆる魔法をふざけた呪文だけで使えるようになった大賢者のことを。




