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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第6話:フラウディア王国へ行こう

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【Ⅷ】おまじないとお祭りと

 御者はゆっくりと馬車を止めた。



「あ、あの、到着しました。ヘレニアです……」

「おう、ご苦労さん」



 ゼノは御者を解放してやると、馬車から真っ先に降りる。それから荷台で待機しているユウたちへ「出てきても大丈夫だぞ」と呼びかけた。


 荷台から降りると、そこにはたくさんの人がいた。

 そして背の高い城壁が、目の前に聳え立っていた。


 城壁は見上げるほど背が高く、それでいて簡単に攻撃を通さないほど分厚い。

 しかし、今は城門が完全に開け放たれていて、外に並ぶ人を次々と受け入れていた。


 ここが、話に聞いたヘレニア――学園都市なのだろう。



「わあ、凄いねえ!!」



 ユウは長杖ロッドを両手で握りしめて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらその凄さを叫んでいた。


 その後ろからゼノがユウの襟首を掴み、勝手に突撃しないように阻止する。



「勝手に走り出したら危ねェだろ」

「えー、でもぼく行ってみたいよ」

「フラウディア王国に行くんだろ。馬車がいつ来るか調べてからにしろ」



 ゼノの説教を受けて、ユウは不満げに唇を尖らせながらも「はぁい」と応じた。


 すると、二人のやり取りを聞いていたミザリーが苦笑しながら、



「フラウディア王国行きの馬車はとても混んでいますよ。台数も多く来るので、ヘレニアのお祭りを楽しんでからでも遅くはないですよ」

「そうなのか? どこにその証拠があるんだよ?」

「ほら、あそこ」



 ミザリーが指で示した先には、一台の馬車に乗り込もうとする大量の人間の列があった。

 その後ろには何台か同じような馬車が控えているが、並んでいる大量の人間を乗せるにはまだ大きさが足りないようにも見える。


 あの列に並んでいたら気が滅入ることは、ユウとゼノもなんとなく察することが出来た。


 それならヘレニアの祭りで時間を潰してから、乗客が少なくなった頃合いを見て馬車に並んだ方が時間を有効活用できるかもしれない。


 ゼノはユウの襟首を離すと、



「じゃあ、祭りをちょっと見学してからフラウディア王国に向かうってことでいいか?」

「はい、私はその通りで大丈夫です」

「私もいいわ。ヘレニアの祭りってちょっと気になるのよね」

「どうせ反対したところで妾に拒否権はないのじゃろ」



 ミザリーとシュラは異を唱えることなく賛成し、ローザは渋々とした様子で「仕方あるまい。付き合うのじゃ」と頷いた。


 さて、方針が決まれば次は不届き者の処理である。


 御者台から転がるようにして降りた御者の男は、バレないようにそろりそろりと逃げようとしていた。

 そんな輩の首根っこを掴んで引き寄せ、ゼノは荷台の中に男を放り込む。


 荷台の床に背中から落ちた男は「いたッ」と呻くと、すぐに冷たい視線を突き刺してくるゼノへ土下座する。



「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、すみませんでしたもうしませんだから許してください命だけは命だけは命だけは」

「誰も殺すような真似はしねェよ。犯罪者になるだろ」



 ゼノは「ユウ坊」と呼ぶ。


 呼ばれたユウは長杖を握りしめて「なぁに?」と首を傾げた。



「コイツに《おまじない》をしてやれ」

「はぁい」



 怯えた様子を見せる男に杖の先端を突きつけて、ユウは魔法の呪文を唱えた。



「《おまじない》」



 軽い調子で呪いが発動する。


 黒い鱗粉が男にかかったその瞬間、御者の男は唾をまき散らしながら床の上をのたうち回った。

 喉よ裂けよとばかりに叫ぶ男だったが、徐々に絶叫も小さくなっていき、二分もすれば大人しくなった。



「あ、今回の《おまじない》は自分のことがおんなのこに見えるものみたい」

「へえ。いいことじゃねェか」



 ゼノはにやりと笑うと、



「おう、お嬢ちゃん。ここからウィラニアに帰れるか?」

「え、何……? お嬢ちゃん? 何で……ええええええ!?」



 御者の男は自分の体を確認すると、何故か驚く素振りを見せる。


 体はまるっきり男ではあるのだが、彼には立派な女の子に見えてしまっているのだ。

 はた目から見れば、ただの変人である。


 ユウは「やっぱり変だねぇ」と呟く隣で、ゼノは笑うのを堪えながら、



「帰れるよな? 大丈夫だよな?」

「お、おい、これは戻るのか? 戻るんだろうな?」

「あー、あー……えっと……」



 詰め寄られる男からそっと視線を逸らしてユウに助けを求めるゼノ。


 ゼノの言いたいことが分かったユウは、



「おいしゃさんに行けば戻るよ。だいじょーぶ」

「ほ、ほんとか? 本当だろうな?」

「ほんとだよ」



 ユウは純粋無垢な笑顔で頷くと、男は安堵したように息を吐く。


 そんな彼の後ろからこそこそとシュラが近寄ってくると、



「ねえ、本当に医者に行けば戻るの?」

「うん、戻るよ。心のおいしゃさんに行けば」



 男は確実に精神科を受診することはなく、体の方の医者を受診することだろう。


 奴隷にしようと企んだ愚か者を哀れむように、ミザリーとシュラは顔を見合わせて苦笑するしかなかった。

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