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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第6話:フラウディア王国へ行こう

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【Ⅵ】道中の事件

「フラウディア王国の直行便はありませんが、その途中でヘレニアという都市を経由します」



 馬車が進み始めると、ミザリーが用意していた地図を広げながら説明してくれる。


 ウィラニアからの地図を指で示しながら、彼女は顔を寄せ合って地図を眺めるユウとゼノとローザを対象に分かりやすく説明する。



「へれにあ?」

「通称『学園都市』です。街自体が大きな学校なんですよ」



 首を傾げるユウに、ミザリーが答える。


 学校という存在は絵本の中で何度か見かけたが、いざ本当の学校を見るのは初めてだった。

 キラキラと青い瞳を輝かせるユウは、隣にいるゼノに振り返る。



「ゼノ、がっこーだって!!」

「そうだな。寄れるといいけどな」



 ユウの頭を軽く撫でてやりながら、ゼノが苦笑する。



「ちょうど今の時期、ヘレニアでは文化祭が行われているはずよ。いつもは閉ざされているヘレニアだけど、今は開かれているんじゃないかしら?」

「シュラちゃんはヘレニアのお祭りに行ったことあるの?」

「ないわ。興味ないもの」



 シュラはフンと鼻を鳴らすと、



「あそこ、自信過剰な生徒ばかりなのよね。魔法に特化しているから、変に自信があるというか何というか……自分たちは如何にも優れているって輩が多くてムカつくのよ」

「昔のシュラのお嬢ちゃんみたいだな」

「それどういうことよ?」



 ゼノの言葉を受けて、シュラが彼女を睨みつける。


 ユウも納得していた。

 以前のシュラは自分のパッシヴスキルに過剰なほどの自信があり、他人を見下している傾向があった。そんなシュラと同じような――もしかしたらそれ以上に酷い性格の生徒がいるのかもしれない。


 とはいえ、冒険者のユウには関係のない話である。

 絡まれたら魔法でどうにかしてやろう。



「ヘレニアまでは二時間もあれば到着しますよ」

「そうなの? この森の向こうにあるんだね」

「……森?」



 ミザリーが瞳を瞬かせる。



「あの、ヘレニアへ向かう時に森は経由しませんが……」

「ん? あのね、馬車の外には森が広がってるよ?」



 ユウは「ほら」と幌をめくる。


 そこに広がっていたのは、鬱蒼とした森だった。

 陽の光があまり差し込まない薄暗い森の中を、馬車はガラガラと進んでいく。



「え、あの、これ多分方向が違う……」

「いいや、合ってるぜ」



 中年の御者が、ゆっくりと振り返る。

 ニタリ、と何かを企むような笑みを浮かべて。



「よくもまあ騙されたな、間抜けども。今からお前たちは奴隷として他国に売り捌かれんだよ!!」



 馬車が止まる。


 こんな誰も通らないような鬱蒼とした森の中に止まれば、何が待ち受けているのか決まっている。


 ガサガサと草木を掻き分けて、馬車に大勢の男たちが近づいてきた。

 中年と同じような背格好をしていて、目は淀んでいる。ニヤニヤとした下卑た笑みで馬車に群がる男たちは、荷台に乗るユウたちをまるで品定めするかのように観察する。



「ひゅう!! ダークエルフがいるじゃねえか」

「希少種だから高く売れるぜ」

「他は女が三人、男が一人か」

「まあまあな値段になるだろうな」



 ミザリーとシュラが互いに身を寄せ合い、ローザが「下衆な連中め」と吐き捨てる。


 状況が読み込めていないユウは長杖ロッドを握りしめると、



「ゼノ、この人たちどうしたの?」

「ユウ坊は馬車の中にいろよ。魔法で応援してくれ」



 男たちを睨みつけていたゼノは、ユウの頭を撫でる。


 ユウはゼノの言葉に「うん」と頷くと、長杖の先端をゼノに向ける。



「《むきむき》」



 ユウは魔法を発動させる。


 長杖の先端に掲げられた青い魔石が輝くと、キラキラとした粒子がゼノに纏わりつく。

 身体能力の強化を促す支援魔法だ。ゼノには必要ないかと思ったが、応援と言ったらこの魔法だろう。


 ゼノは自分の体の調子を確かめるように手首を振ると、



「よし、じゃあここで待ってろよ。ユウ坊、先生とお嬢ちゃんを守ってやれよ」

「うん」

「ローザは適当にしてろ」

「何故じゃ!? 何故に妾だけ扱いが雑なんじゃ!!」



 ローザの訴えを無視して、ゼノは一人で馬車を降りてしまった。


 ミザリーが「そんな……!!」とゼノを追いかけようとする。



「危険です!! 一人であんな男の人を相手にするなんて……!!」

「ゼノなら平気だよ?」



 ユウは泣きそうなミザリーに、証拠になる光景を彼女に突きつける。


 それが、



「ぎゃッ!!」

「ぐうえッ!?」

「な、何だよこいつ、強すぎィ!?」



 ゼノの拳が男の鳩尾に突き刺さり、背後から襲いかかってきた男の顎に肘鉄を叩き込む。

 立ち上がった男の肩を台座にして飛び上がり、長い両足を広げて回転することで、二人ほど男を仕留めた。台座にしていた男にも拳を振り抜いて気絶させ、その辺に投げ捨てる。


 相手が男だろうが、大人数だろうが、関係なかった。

 ゼノはめちゃくちゃ強かった。さすがレベルカンストである。


 嵐のように戦うゼノを目の当たりにしてポカンとした様子のミザリーとシュラに、ユウはのほほんと言う。



「ゼノねー、魔法以外はとても強いよ」



 エルフ族は魔法が得意な種族として有名だが、ゼノたちダークエルフは魔法が得意ではない代わりに魔法以外を得意とする。

 端的に言うと剣術や体術、弓術などを得意としているのである。完全に武闘派な種族であった。


 ユウとゼノは、その辺りが上手く分断されている。

 魔法だけが得意なユウと、魔法以外が得意なゼノで役割が完全に分かれているので、誰も敵わない。


 そんなやり取りをしている間に、ゼノはあっという間に大量の男たちを気絶させ、最後に御者の男を御者台から引き摺り下ろした。


 怯えた様子を見せる彼の喉元によく砥がれたナイフを突きつけ、



「大人しくヘレニアに向かえ。じゃねえと、明日を迎えれなくしてやるよ」

「は、はひ……」



 泣き笑いという器用な表情を見せた男は、カクカクと何度も頷いた。

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