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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第6話:フラウディア王国へ行こう

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【Ⅴ】出発!

「おはよう、フラウディア王国へ旅立つわよ!!」



 窓の外から聞き覚えのある声が聞こえてきて、もそもそとゼノは上体を起こす。


 乱れた白金色の髪を乱暴に掻き上げ、朝日が差し込み始めた窓を開ける。

 朝とはいえまだ肌寒く、ひやりとした空気がゼノの褐色肌を撫でた。思わず身震いしてしまったのは言うまでもない。


 宿屋が面した通り道は人通りが少なく、大声で呼びかけてきた相手はすぐに見つけられた。


 軽鎧を身につけた金髪の少女が、ユウとゼノが滞在する部屋を見上げている。

 前にどこに滞在しているのか教えたので、フラウディア王国に旅立つことを楽しみにしている彼女が直々に迎えにきたようだ。遠足を楽しみにしている子供か?


 窓から外を見下ろすゼノは、



「……シュラの嬢ちゃん、今が何時か言ってみろ」

「朝の五時ね!!」

「元気だなァ……」



 ゼノは呆れたように言う。


 あまりに楽しみすぎて、早朝とも呼べる時間帯に仲間を迎えにくるとは元気が有り余っている証拠である。実にいいことだ。


 わざわざ迎えにきてくれたのだから、支度しないとまずいだろう。


 ゼノは少女の呼びかけにも応じることなく、夢の世界から帰ってこない銀髪の少年を軽く揺すると、



「ユウ坊、シュラの嬢ちゃんが迎えにきてるぞ」

「んー……? んんー……」



 もぞもぞと寝返りを打つユウは、ぼんやりと瞳を開いてゼノを見上げる。

 まだ夢の世界に片足を突っ込んでいる状態のユウは、美しきダークエルフにふにゃりとだらしのない笑みを見せた。



「おはよぉ、ぜの」

「おう、おはよう。今日の朝飯は何にする?」

「紫イチゴのジャムのパンがいい」

「分かった。ちょっと待ってろよ」



 くしゃくしゃとユウの銀髪を撫でると、ゼノは朝食の用意をする為に部屋から出て行った。


 扉の向こうに消えていくゼノの背中を見送って、ユウはのろくさとベッドから起き上がる。それからベッドの側に立てかけてある自分の長杖ロッドを手に取ると、



「んー……《おきがえ》」



 頭はまだオネムの状態だが、それでも魔法は発動する。


 寝巻き姿のユウだったが、次の瞬間には魔法によっていつもの長衣ローブに着替えが完了していた。

 さすが魔法の天才である。ネムネムの状態でも魔法で着替えが完了するとは、魔法に親しんでいるだけある。


 ぐしぐしと目元を擦ると、ユウはベッドの下に置かれた棺の蓋を叩く。



「ローザちゃん、起きてぇ」



 すると、ガタガタと棺の蓋が開き、ほんの少しだけローザが顔を覗かせる。


 炯々と輝く赤い瞳でユウを見上げる彼女は、



「……まだ五時じゃろうが。早すぎんか」

「おねーさんが迎えにきちゃった」

「おねーさん……ああ、あのシュラとかいう小娘じゃな」



 ローザは欠伸を浮かべて、仕方なしに棺の蓋を退かす。


 しかし、それがダメだった。

 この部屋には、吸血鬼が苦手とする朝日が窓から差し込んでいたのだ。


 案の定と言うべきか、朝日に晒されたローザの肌からしゅうしゅうと煙が上がり始めた。



「ぎゃああああ!? あああああ朝日がああああああッ!!」

「ローザちゃあん!?」

「オマエら、何してんだ……」



 ちょうど朝食を用意して戻ってきたゼノは、朝日に焼かれてジタバタと暴れるローザとおろおろと狼狽えるユウという地獄絵図を目の当たりにするのだった。



 ☆



「おはようございます、皆さん。いいお天気ですね!!」

「ええ、旅立ちにはぴったりの天気ね!!」



 馬車の待合場所にて合流したミザリーは清々しいほどの笑顔を浮かべ、シュラは溌剌とした声で頷く。


 朝早くから叩き起こされた身であるユウとゼノからすれば、天気などどうでもよかった。「馬車で寝れるかなぁ」「寝れるだろ」はどと話し合っている。

 すぐ側で日傘を差すローザは、器用に立ったまま眠っていたが。



「フラウディア王国に向かう人はたくさんいるのよ? 早く起きて早く集合することに越したことはないわ」



 シュラがそんなことを言うが、ユウとゼノは完全に聞いていなかった。

 思ったよりも早い時間に起きたせいで、二人揃ってネムネムである。


 すると、ガラガラという何かを引きずるような音が、朝のウィラニアの街に響き渡った。



「えー、フラウディア王国行きの馬車が到着しましたぁ。交通費は三〇ガルドいただきますぅ」



 御者台に座る中年が、乗客であるユウたちを見下ろしながら言う。


 馬車は上等とも貧相とも呼べない普通の作りで、荷台には幌がかかっていて客はまだ誰も乗っていない。


 草臥れた格好の御者がずいっと手を差し出してくるので、ユウたちは馬車の代金である三〇ガルドを支払う。

 手のひらに乗せられたガルド硬貨の枚数をちゃりちゃりと数えて、御者は「毎度あり」と笑うと馬車を顎で示した。


 ユウたちは、御者の指示に従って馬車の荷台に乗り込んだ。



「楽しみだねぇ、ゼノ」

「そうだな」

「フラウディア王国に行くの、久しぶりですね」

「フラウディア王国の冒険者ギルドは、一体どれだけ強い冒険者がいるのかしら。楽しみだわ!!」



 キャッキャとまだ見ぬフラウディア王国に思いを馳せる四人をよそに、馬車はゆっくりと出発する。


 ――それが、まさかあんなことになるなんて夢にも思わなかった。

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