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最強の魔王を倒したのは異世界転生者ですか? いいえ、通りすがりの冒険者です  作者: 山下愁
第4話:あの傲慢な騎士に制裁を

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【Ⅴ】巨大なゴブリンを倒そう

「――きゃああああああああああッ!?!!」



 それは一体、誰が先に上げた悲鳴だろうか。


 青空をつんざく悲鳴の大合唱に対抗するように、巨大なゴブリンも「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃッ」と奇声を発する。ついでに樽のような腹も揺らす。


 軽鎧の少女は逃げようとするが、自分の役割について思い出したようでその場で足を止める。巨大なゴブリンを正面から睨みつけると、直剣を引き抜いてゴブリンにその切っ先を突きつけた。



「こ、この!! 私を誰だと思ってる訳ぇ!? パッシヴスキルがなくたって、わ、私は強いんだから!!」



 そう叫ぶ彼女は、明らかに強がっていた。

 無理をしているのは確実であり、その証拠に剣を握りしめる手はガタガタと震えている。それでまともに戦えるのだろうか。


 しかし、変に立派な矜恃のおかげで軽鎧の少女は巨大なゴブリンを前に強がることも出来たが、少女とパーティを組んでいた他の冒険者たちはどうだろうか?

 彼女たちは軽鎧の少女が持つパッシヴスキル『聖騎士の行進』を目当てに、軽鎧の少女について行っていたのだ。それがなくなれば、離れていくのは道理である。



「さあ、行くわよ!! あんなのすぐにやっつけてやるんだから!!」

「もういねェぞ」



 剣を構えて巨大なゴブリンと向かい合う少女は、ゼノの一言に「え?」と振り返る。


 いつのまにか、彼女は一人で置いてけぼりにされていた。

 周囲には仲間の一人すら残っておらず、ただ少女だけがポツリと残されていた。


 軽鎧の少女の動きが完全に止まる。

 冒険者だから数で押せば勝てるとでも思っていたのだろうが、その考えは甘かったようだ。仲間の気力が伴わなければ、まともな戦闘すら出来ない。



「あ、あ……」



 軽鎧の少女は、ガタガタと震え始める。


 仲間に見捨てられ、たった一人で魔物の前に放り出されてしまった哀れな少女。そして誰にも助けられないまま、ゴブリンに殺される運命なのだ。


 自分一人で何でも出来ると強がっていた少女は、いざその時になると途端にボロが出る。



「いや……ひ、一人でなんて……一人でなんて、無理よ……!!」



 軽鎧の少女は、ゆっくりと後ろに退がっていく。


 巨大なゴブリンは相手をじっくりと観察でもしているのか、少女へ襲い掛かるような気配はない。だが、いつ襲われてもおかしくない状況であることは確かだ。



「ねえ、ねえ!! 助けて、助けてよ!! わ、私が悪かったわ。だから助けて!!」

「何で?」



 長杖ロッドを両手で握りしめるユウは、不思議そうに首を傾げる。



「おねーさん、強いんでしょ? だから倒せるよね、それ? 一人だと倒せないの?」

「た、倒せないわよ!! だって、だってレベルが……!!」



 泣きそうになりながらも叫ぶ少女に、ユウは「おかしいねぇ」と笑った。

 その笑顔は天使のように朗らかでありながら、悪魔のような邪悪さも兼ね備えていた。



「最初のおねーさんは、とっても自信満々だったのにねぇ。せんせーに意地悪なことも言ってたのにねぇ。おかしいね、ゼノ」

「そうだな、おかしいなァ」



 ユウが満面の笑みでゼノへ振り返ると、美しきダークエルフはまるで興味なさそうに応じていた。


 彼女は、早々に飽きていた。別にこの軽鎧の少女がぺちゃんこに潰されようが、頭をぶん殴られて命を散らそうが、巣穴にお持ち帰りされてお嫁さんになろうが、ゼノは全く興味がないようだった。

 ただ、ユウと同じパーティを組んだミザリーに被害が及ばなければ、あとはどうなろうが知ったことではない。


 退屈そうに欠伸をしたゼノは、



「ユウ坊、帰ろうぜ。もう仕事は終わったんだろ? あんなお嬢ちゃんに構うこたァねェよ」

「うん、そうだねゼノ。ぼく、お腹空いちゃった。街に戻ったらご飯食べよ」



 先程までの冷たさが嘘のような態度で、ユウはゼノに言う。


 普通に目の前で見捨てられようとしている少女は、金切り声で叫んできた。



「ちょ、ちょっと!! 助けてくれないの!?」

「おねーさん、ぼくたちよりも強いみたいだから。頑張ってね?」

「そうそう。一人でも出来る出来る。頑張れ」



 普通にユウは少女を見放し、ゼノは適当な調子で少女に激励を送る。


 完全に見放された少女の瞳が絶望に沈む。自分にはもう味方はいないと理解してしまったようだ。



「ま、待ってください!!」



 帰ろうとするユウとゼノを、ミザリーが引き止める。


 彼女は真っ直ぐにユウとゼノを見つめると、



「お願いします、シュラちゃんを助けてあげてください」

「どうして? あのおねーさんは、せんせーに意地悪をしたんだよ?」

「それでもです。シュラちゃんは、本当は優しい子なんです」



 ミザリーは自分の長杖をキュッと握りしめると、



「田舎から出てきたばかりで、右も左も分からない私を助けてくれました。だから、お願いします。シュラちゃんを助けてください!! 私では、きっとシュラちゃんは助けられないから!!」

「んー、しょーがないなぁ」



 ユウは「よいしょっと」と長杖の先端を巨大なゴブリンに突きつける。


 ギョロリと水晶玉のような瞳で長杖を構えるユウを睥睨へいげいするゴブリンは、何をするんだとばかりに牙を剥き出しにして「ぎゅうあああ」と唸った。


 長杖を振ると、三日月のモチーフや星型の装飾品などがぶつかり合って、しゃらしゃらと綺麗な音を立てる。ゴブリンの視線がユウの持つ長杖に集中すると、



「《めらめらぼーん》」



 ボッ、と。

 ゴブリンが一瞬のうちに炎に包まれる。



「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃががががぎぎぎぎゃ!!」



 断末魔を上げるゴブリンは、あまりの熱さにバタバタと暴れ回る。


 立ち尽くす軽鎧の少女から五歩ほど離れると、巨大なゴブリンはさらに大きな火柱に包まれて、爆発する。

 四方八方にゴブリンの体の破片が飛んでいくが、すぐに黒い粒子に変換されて消えてしまった。


 黒く焦げた地面には、巨大なゴブリンのものらしき大きめの爪と獣の皮、安物の棍棒が転がる。



「ん、終わったよ。帰ろう?」



 あの巨大なゴブリンを、ふざけた呪文の魔法一発で討伐してしまったユウは、平然と帰還を促した。

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