時間のふしぎな物語 ①いのちの交差点
初めまして、子どもから大人まで楽しめる、心温まるお話です。
短編ですが、シリーズ物として一話完結して続けていく予定です。
どうぞよろしくお願いします。
時間が15分だけ、戻ればいいのに。
そう思ったことのある人は、私だけじゃないと思う。
時間が15分だけ戻せるなら、通学路で思い出した忘れ物を、家に取りに帰ることができるし、授業中先生にあてられて分らない問題も、答えを調べることができる。
大きらいな給食のにんじんも、こっそり鍋に戻すことができるし、帰りの会にうっかり出てしまってみんなに笑われたオナラも、なかったことにできる。
「あーあ、本当に時間が15分だけ、戻らないかな?」
カナは時々、本気でそんなことを考えていた。
時間の神様がいて、何かと引きかえに時間を15分だけ戻してくれるとしたら、いったい何をしたら叶えてくれるんだろう?
お金をはらえと言われたら、どうしよう?
時間を戻すのだから、きっと何百万円とか何千万円という、すごい大金にちがいない。
どこにでもいるふつうの小学6年生のカナが持っているお金は、わずかなおこづかいと、お年玉の残りだけで、そんなお金があるわけない。
じゃあ、毎日、お母さんにしかられないようにさっさと宿題をして、いつもテストで100点を取るってのはどうかな?
宿題は3日くらいならがんばれるけど、勉強はそんなに好きな方じゃないから、テストでいつも100点はちょっとムリだ。
本当に、何をしたらいいんだろう?
何をしたら時間の神様は、15分だけ時間を戻してくれるんだろう?
とりとめのないことを考えながら、一人帰り道を歩いていると、後ろからトントンといつもの調子でミナが肩をたたいた。
「カナ」
思わずビクッとして、おどろいて目を白黒させていると、ミナはおかしそうに笑った。
「もう!カナってばびっくりしすぎだよ」
「ご、ごめん」
「いいけど、今、またおもしろいこと、考えていたんでしょ?」
「う、うん・・・実はね」
時間の神様に15分だけ時間を戻してもらえるとして、何をしたら叶えてもらえるのか考えていたことを言うと、ミナは目をキラキラさせてのってきた。
「それ、いいね!じつは私もね、ちょうど今、時間を15分間戻してもらいたいところなんだよね。さっき山本くんがね、サッカークラブの練習が終わって、グランドでお茶を飲んでたの」
「うん」
「15分時間が戻せたら、私が今朝作ってきたこの特製アップルティーを、山本くんにあげるのにな」
ミナがかわいらしいピンク色の水筒を開けると、りんごの甘い香りがふわっとただよう。
「おいしそう!でも、麦茶と緑茶以外は、水筒に入れるの禁止じゃなかったっけ・・・」
「いいの、いいの。アップルティーも麦茶も、見た目分んないし」
「さすがミナ、勇気あるね」
「カナにも一口あげるから、先生にはナイショだよ。あーあ、本当に時間が戻せたらな。そしたら山本くんにもアップルティーをあげるのに」
そんなことを話しながら歩いていると、通学路で一番大きな交差点についた。
三車線の道路を次々と行き交う車をぼんやりながめながら、信号が青になるのをおしゃべりしながら待つ。
すると、交差する道路から、さっきまでサッカーの練習をしていたはずの山本くんが、もう家に帰ったらしく、塾の鞄をカゴに入れて、自転車を必死にこいでわたっていくのが見えた。
「あ、山本くんだ!」
ミナがうれしそうな声をあげるので、カナもふと交差点に目をやる。
すると一瞬、山本くんの自転車がぐらっとなった。
自転車は交差点の真ん中で、タイヤをすべらせて、車道側にひっくりかえる。
転んで身動きのとれない山本くんが見えないのか、そのまま大きなバスが交差点へ入ってきた。
「あぶないっ!」
思わずさけんだミナが、そのまま赤信号を無視して山本くんのところへかけよろうとする。
「ミナ!!」
とっさに、ミナの手をつかむと、ミナは
「いやーっ!!!」
とありったけの声を出してあばれ、手をふりほどこうとした。
お願い!時間、戻って!!ミナと山本くんを助けて!!!
カナは目をつむり、必死の思いでそう願った。
すると一瞬、ピタリと全てのものと人のが動きが止まって、目の前の景色が白黒になった。
「お前の願いを叶えよう。15分だけ時間を戻してやる」
時間の神様なのか、低くて心地よい声が確かにそういった。
「・・・・・・本当?」
「本当だ。ただし、お前のいのちを1ヶ月分もらう。返事は今すぐだ。どうする?」
カナは一瞬迷った。
いのちを1ヶ月分。どうしよう・・・。
でも、私はまだ12歳だ。まだまだ何十年もいのちがあるにちがいない。
1ヶ月くらいいのちが減ったって、おばあちゃんでいる時間が、ほんのちょっと短くなるだけだ。
そう思うと、カナは心を決めた。
「お願いします!時間を戻してください!!」
ぎゅっと目を閉じてそう言うと、
「願いを叶えよう」
時間の神様は、こたえた。
「カナ聞いて!昨日の私、すごくラッキーだったんだよ!」
次の日の夕方、ミナはうれしそうにそう言いながら、昨日の交差点に立っていた。
どうやらあの後、本当に時間が15分間戻って、ミナはサッカーの練習を終えた山本くんと、二人でアップルティーを飲みながら少し話しをしたらしい。
「カナが校門出たところで私の宿題ノート、机に忘れてあるって教えてくれたから教室に戻ったでしょ?帰りにグランド見たら、山本くんがちょうどサッカー終わって、お茶飲むところだったんだよ」
「そうなんだ」
「うん!二人でお話して超楽しかった!ありがとう。カナのおかげだよ」
ウキウキ楽しそうに話すミナを見ながら、カナはほっと胸をなでおろす。
よかった、ミナも山本くんも本当に無事だったんだ。
あの時、交差点の景色が白黒になった時、カナの願いは叶い、気がつけば15分前にいた校門の前にミナといた。
山本くんはミナとアップルティーを飲んでおしゃべりしたあと、学校の前にある家に帰り、自転車で塾へも行ったらしい。
「今日カナの家に遊びに行ってもいい?ディズニーのお土産渡したいし」
「ありがとう。楽しみに待ってるね」
「じゃあ、後でね」
交差点をわたり、手を振りながら去っていくミナを見ながら、これでよかったんだとカナは心から思った。
いかがでしたでしょうか?
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