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さんたくろす!  作者: 結城コウ
9/13

デート・前編

姉妹達を出し抜いた四葉はどういった立ち回りをしたのか?

それは既に明かされている通りである。

夕食に睡眠導入剤を混入させ、夜から朝の内に任された家事と姉妹達への工作を行った。

四葉自身は僅かに仮眠を取った程度で殆ど睡眠を取っていない。

それでも、四葉はやり遂げた。

朝、三太が起きた際、わざと残していた掃除を行って出迎えた。

三太は他の家族が起きてこない事に疑問を抱いたが、四葉は休日だからという理由で無理矢理納得させた。

加えて、相手がいる事だからと三太を急かせ、三太が考える時間を与えずに外に出した。

この時点まで来れば、後は四葉自身のことだけだった。

手早く残りの家事を終わらせ、シャワーで汗を流し、事前に準備していたウィッグと服を着て、メイクを施す。

事前に確認はしていたが、鏡に映る自分が自分だとは中々気付かない。

四葉は満足気に笑うと家を出た。

時間的な余裕はあった。

三太にはあえて早目の時間に出るよう促した。

それが、マナーだと強く訴えた。

それにより四葉の時間に余裕が生まれた。

四葉は零れ出る笑みを抑えられなかった。

自信の計画が余りにも上手く行き過ぎていたから。

四葉の計画はこうだ。

第一に四葉が自分だとわからないくらいに変身する。

お淑やかな清楚系なら大抵の男は嫌いではない。

そして、悲しいかな三太に映る四葉自身はそうでない事を自覚していた。

第二にその姿で三太とデートをすること。

これはキモのようでいて実はそうではない。

例えるなら手順であり、外す事は出来なかったのだが、変わりになる行為があるのならそれでよかった。

そして、この計画最大の目的はそのデートの中で告白することだ。

四葉はこの告白は高い確率で成功すると踏んでいた。

男というのはフリーでさえあるなら、余程悪感情を持っている相手やストライクゾーンを外れる相手で無ければ、告白されればOKを出す。

四葉は自分であることさえ気づかれなければ、三太もそうすると思っていた。

仮に失敗したとしても他の方法がある。

最後の思い出にとキスをねだる。

キスも無理なら抱きしめてもらうよう頼む。

三太の性格ならば、どこまで拒否してもハグは拒否しないと踏んでいた。

後はその姿を写真などで残せばいい。

隠し撮りする方法はあらかじめ調べていて、いくつかのパターンを練習してきた。

後はその写真をネタに三太を脅迫すればいい。

――友人への仕打ちを怒る妹・四葉として。

そうして、否応なしに三太が付き合わざるを得なくする。

勿論、三太がOKを出すならそれでもいい。

付き合った上で、三太が責任を取らざるを得ないような関係を持つ。

そのタイミングで正体をバラせばいい。

そうすれば、この争奪戦は四葉の勝ちだ。

正攻法でないことも三太の意思を無視することも四葉は分かっている。

それでも彼女は三太を手に入れたかった。


待ち合わせ場所はパークス最寄り駅すぐ前の柱時計。

事前に連絡は取り合っておらず、この時が初対面になる予定だった。

良家のお嬢様で教育方針により、携帯電話を持たせて貰っていない。

四葉自身無茶な設定だと思ったが、携帯電話を用意することが出来ないための苦肉の策だった。

故に三太は此方の容姿を知らない。

四葉は柱時計にもたれ掛っている三太を見つけると深呼吸をした。

「お待たせしました。お兄様」

「ん、君が?」

「はい、四葉さんと親しくさせていただいております。四条(しじょう)良子(りょうこ)と申します」

四葉は見事に声色を変えていた。

確かに四葉と言えば四葉の声だ。

だが、瓶底眼鏡の優等生と感受性が強すぎる美男子がそうであるように、日本一有名な五歳児と平和主義国家の王女がそうであるように、五歳児の気障な友人と汚名を着せられた女傑がそうであるように同じ声であって、異なる声であった。

「今日はご無理をきいていただきありがとうございます」

「……その喋り方辛くないか?」

「い、いえ、こうしてお会いするのは初めてですので、失礼はあっては、と」

「家でもそういう喋りかたってわけじゃないだろ?」

「それはそうですが、それとは話が違います」

「…………まぁ、いいか」

「えっ?」

「それで君が四葉の友達っていう?」

「は、はい、改めまして、四条良子と申します」

「ご丁寧にどうも、一応、此方も言っておくと黒須三太です」

「はい、存じております。今日はよろしくお願いします」

「堅苦しいな」

「そ、そうでしょうか?」

「いいよ、気にしないことにする。じゃあ、行こうか」

「はい!パークスですよね?」

「ああ、先に行きたい場所、あるかい?」

「いえ、特にはありません」

「なら、最初は飯にしよう。朝食まだだろ?」

「え、わかられますか?」

「顔に書いてる」


朝食はパークス内のカフェチェーン店で取る事にした。

四葉はモーニングタイムのセットでサンドイッチとサラダがついているものをラテで頼んだ。三太はブレンドコーヒーのみを頼んだ。

「あれ、食べられないのですか?」

「俺は待ってる間に食べたから」

「あ……申し訳ありません」

「別に責めちゃいないよ」

三太はすぐにコーヒーに口を付けず、香りを楽しんでいた。

「では、本当に(わたくし)の表情を読んで?」

「四葉が空腹の時と同じ顔をしてたからな」

四葉は動揺をラテと一緒に飲み下した。

「親しくさせていただいておりますから、そういった所作(しょさ)も似るのかも知れませんね」

「そうだね……四葉とはそんなに仲がいいんだ?家では余り話を聞かないけど」

「え、ええ、大変親しくさせていただいておりますよ。そうでなければ、お兄様の紹介していただくなんて考えられませんでしょう?」

「それについても聞きたいな。なんで俺を紹介するなんてことになったんだ」

「四葉さんとの話の中で大変お優しいお兄様と聞いておりましたので、前々から気になってはいたのです。学校で何度か見かけた事もありまして、いつしかお兄様のことが頭から離れなくなりまして……それで四葉さんに相談させていただいたのです」

「学校では声を掛けなかったんだ?」

「は、はい、その時は四葉さんとはご一緒ではありませんでしたし、お兄様からすれば失礼かと思いまして」

「それなら、いきなりデートもどうかと思うけど?」

「その……四葉さんに相談させていただいた結果でして」

「それなら、紹介って事だし三人で会えばいいのに」

「えっと……四葉さんがそれだと家事をする人間がいなくなると」

「はは、違いない」

そう言って笑う三太の顔は普段家族に見せる笑顔とは違って見えて、四葉は小さな幸福を見つけたような心持になった。


四葉が食べ終わったのを見計らって、三太が声を掛ける。

「四条さんはどこか行ってみたいところ、ある?」

「実は、余り此方に来たことがないのです」

「そうなんだ?じゃあ、これ見てみるかい?」

三太はパークスのマップを取り出した。

「来る途中に見つけたんだ」

「ありがとうございます。あ、ゲームセンター」

「ゲーセン?意外な場所だな」

「そ、そうでしょうか?」

「余り行かなそうなイメージだから」

「ま、前々から気にはなっていましたが、一人で入るのは恐ろしくて……」

「場所と時間帯によるけど、今時不良のたまり場みたいな所でもないよ」

「そうなのですか?……それで、あのプリクラというものを撮ってみたくて」

「プリクラか……」

「駄目でしょうか?」

「いや、俺も余り撮ったことないな、と思って」

「そうなのですか?」

「ああいうのは余り……いや、そんなことはいいか、場所も決まったし行ってみようか」

「は、はい!」


「あの、もう少し近づいてもらえませんか?」

「ん……こうか?」

「はい、出来れば肩を……」

「ん……」

「……顔が固いです」

「君も固いと思うけど?」

「じゃあ、一緒に笑いましょう」

「ん……」


三太は出来上がったプリクラを手に取った。

ぎこちないやり取りがあった割に綺麗に出来ていた。

「上手く出来たみたいだね」

「そうですか?よかった」

「ああ、()()()()()()

「ふふ――――え?なに言ってるんですか、初めてですよ?!」

「ああいうパネルに字を書くのって意外と難しいと思うけど」

「そうですか?!簡単でしたよ?!

「実は慣れてるんじゃないの?」

「なにがですか!?」

「ほら、タッチパネルの操作ってスマホや携帯ゲームでよくやるだろ?」

「え、ええ」

「その操作に慣れてたら、プリクラでも何となく出来るんじゃないか?」

「そ、そうですね。言われてみれば似てる気がします」

そうだよね、と言いながらプリクラを仕舞うついでに財布の中の小銭を確認した。

「じゃあ、折角だから何か遊んでいくかい?」

「は、はい!何をしましょう?」

「入った時に気になったやつはあるかい?」

「そう言われましても……」

「うーん……筐体のあるやつ、格ゲーとかは初心者は余り遊びにくいし、ほら入口付近にあったUFOキャッチャーとか太鼓の鉄人みたいな音ゲー、あとはお菓子を落とすやつとかどうかな?」

「あ、太鼓を叩くゲームですね、あれ、面白そうでした」

「じゃあ、一通りやってみようか」


太鼓のゲームを二人でやってみようとしたところで四葉は余り上手いとおかしいと思い、下手な振りをしなければと思った。

ただ、選曲で今のキャラクターのことを考え、クラシックの曲にしてみると思った以上に難度が高く、普通に失敗した。

続いて、お菓子のゲームは筐体のガラスに貼りつくように前のめりになり子供の様に

結果に一喜一憂した。

途中、三太にスカートを気にするように指摘された時は赤面した。

続いてUFOキャッチャーは有名キャラクターを取ろうと何度かチャレンジしたものの上手く行かず惨敗した。

その姿を見て三太も取ろうとして見たが、2、3回トライしたところで手を挙げた。

「駄目だ、これを取ろうと思ったら一万円は必要だ。少なくとも俺の技術じゃあ」

「あの、でしたらもう諦めましょう。そこまでしていただくのは申し訳ありません」

「……そうだね、じゃあ、とりあえずここから出ようか」

「は、はい」


騒がしいゲームセンターから出ると再びマップを広げた。

「じゃあ、どうしようか?」

「あの、お兄様は何か欲しいものはありますか?」

「干し芋?」

「素なのか、ふざけてるのか、わからない聞き間違いは困ります」

ははは、と笑うと三太はマップを指差した。

「強いて言うなら靴かな」

「靴ですか?」

「うん、シューズが一足欲しいんだ」


「これにしよう」

「え、もう決まったんですか?」

「うん、サイズも合ってるし、値段も安い」

「それでいいのですか?デザインとかは……」

「予備のシューズだし特にこだわらないよ」

「……四葉さんに聞いた通りですね」

「何がだい?」

「お兄様はもう少し自分のことを大切にすべきですよ!」

「えっと……?」

「その靴だって、サイズは確認したかも知れませんが、履き心地は確認されてないでしょう?」

「履いてるうちに慣れてくるし……」

「決め手は値段なのでしょう?もう少しご自身のためにお金を使うべきです!」

「…………いや、これは自分の小遣いなんだし」

「聞いてますよ、四葉さんから。名目上はお小遣いで取られてますが、大抵残して家計に回されていらっしゃるようですね?」

「それは、まぁ……」

「ですので、お金は私が出します。もっと、いいものを買って下さい」

「靴に拘りはないんだけど……」

「でしたら、服にしましょう」

「え、これダサかったかな?」

三太は自身の服の襟を掴んだ。

「それも四葉さんから聞いてますよ、お兄様は服を余りお持ちでないそうですね」

「いや、それもファッションに無頓着なだけで」

「でしたら、本はどうでしょう?あるいはゲーム……もしくは音楽などは?」

「え?えっと……」

「ご自身の娯楽のためにお金を使われるべきですよ」

「いや、そんなことは」

「違うのですか!?」

「ちょっと、落ち着いて、ここ店の中」

四葉ははっと回りを見渡すと顔を伏せた。

「……申し訳ありません」

三太は四葉の髪を撫でそうになり、思い留まって肩に手を置いた。

「これ、買ってくるから待ってて」

「……結局、その靴にされるのですか?」

「そのことも、説明するからさ、あとで」


靴屋を出て、並んで歩いた。

少し離れた場所に自販機を見つけると三太はお茶を買った。

「緑茶と紅茶どっちがいい?」

「あ、いえ……おかまいなく」

「買ったんだから、貰ってくれないかい?」

「は、はい、ありがとうございます」

四葉は紅茶の方を手に取った。

「娯楽とは違うんだけどね、楽しみはあるんだよ」

「え?」

三太はその問いかけには反応せず、緑茶を一口飲んだ。

四葉もそれに習って紅茶を飲んだ。

「暖かい物を飲めば、少しは落ち着くだろ?」

「え、ええ……」

四葉が頷いたのを確認すると、三太は緑茶をぐっと一息飲み込んだ。

「あっ!?熱くないんですか?」

「これは冷たいほうだよ」

「えっ?ええっ!?」

「話の続きだけどさ」

「え?は、はい……」

「俺にとっては家族のこと……特に妹達の成長が一番なんだよ」

「え?」

「あの子達の成長を見守れることが幸福なんだ。そのための雑事なんて負担とは考えていない」

「お兄様……」

「だから、他のことに気をさく暇なんてないんだ。俺にとってはもう余分なものなんだよ、それは」

「……なんだか、お兄様はお兄様というよりはお父様のようですね」

「まともな父親がいなかったから、自分がそういう風になろうとしているのかもな」

「あ、そういうつもりでは……」

「いや、いいんだ。それで」

「お兄様?」

「だから……辞めたほうがいい、俺なんて」

その言葉に四葉は目を見開き、息を飲んだ。

「…………どうして、ですか?」

「決まってる、君とどうこうなったって君を一番に優先することは出来ない」

「わ、私は構いませんよ!それにいつかは妹様達も大人になられるのですよ?その時、お兄様はどうされるのですか!?」

「逆にその時はどうなってると思う?」

「え?」

「話は飛躍するが、結婚どうこうっていうのは出来そうにない。家庭を持つってビジョンが思い浮かばない。今の家族を維持する以外のことは。だから、俺は誰ともそういう関係にならないって決めたんだ」

「そ、んなの……もっと年齢を重ねられれば考えも変わられます」

「……かもな、でもそれは今じゃない」

「わ、私はそれでも構いません、ご家族を優先される限りはお兄様のことをお慕いしております!」

「……その結論を出すのは早すぎないかい?俺とは今日初めて会ったはずだろ?」

「!!」

「まるで、ずっと見ていたように言うじゃないか?」

「…………え、ええ、その通りです」

「え?」

四葉の脳は回転を限界まで速めていた。

今まで自身が見てきた真実と、今の自分という嘘を結合させる。

そうして破綻(はたん)していない論理(こころ)を構築しようとしていた。

「私は……本当はずっと昔から貴方を見ていたのです」

「まるでストーカーの様なことを言うんだね?」

「っ!え、ええ、あえて否定はしません。幼き頃から貴方に憧れ、影から見守らせていただきました。それを世間一般ではそう表現することは理解しております」

「……本気で言うのか?」

「私は貴方を愛しております。その気持ちに嘘を()く事は出来ません」

「…………」

三太は苦虫を噛み潰した様な表情になると顔を()らした。

「やめてくれ、俺は君の気持ちに答えることなんて出来ない」

「それは私が迷惑だからですか?」

「……ああ、そうだ」

「なら、やめません」

三太は思わず振り向いて四葉の顔を見てしまった。

「だって、そうじゃないですか?好きな人に迷惑が掛かっていることに自覚していてるのに今の今まで辞められないんですよ?どうしてもと言うなら私から逃げ切って下さい」

「っ!」

思わず後ずさる三太の右腕を四葉が掴んだ。

「私は……貴方にとって都合のいい存在で構いません。貴方が家族を優先するというのなら、私も貴方の家族に尽くします。ですから、どうか私を(そば)に置いてはいただけませんか?」

掴んだ腕を逃さない様に四葉は腕を抱きしめていた。

「っ、そんなの……駄目だろ」

「どうしてですか?」

「……都合のいい存在なんて許せない」

「なら……」

「君を受け入れることも出来ない」

「……では」

「だが、逃げることは出来ないだろう」

「!?」

「だから……」

三太は自由な方の左手を諭す様に四葉の頭に乗せた。

「好きなだけ付き纏え、だが、俺は君に応えることはしない、君が諦めるまで、俺は君を突き放す」

「…………わかりました」

四葉は三太の腕を離した。

「でしたら、最後に賭けをしませんか?」

「え?」

そう言う四葉は綺麗な笑顔を作っていた。

だが、目の端は僅かに(うる)んでいた。

「今日一日、残りの時間を使ってお兄様が私を好きになる様に頑張ります。それが出来たら私を受け入れて下さい」

「出来なければ?」

「すっぱり諦めます。もう付き(まと)いません……お兄様にとっても都合のいい条件ではないでしょうか?」

「……なんでそんな条件を提示する?何か他の目的があるのか?」

「信じてはもらえませんか?」

「それ以前の問題だろ。俺と君は数時間前に会ったばかりだ。信頼関係なんて構築出来ていないだろ?」

「でしたら、これは私の一方的な宣言です。信じていただなくて構いませんから、今日は最後まで付き合っていただけますか?」

「…………構わないよ。元から約束を投げ出すつもりはない。君が望むならこのデートを継続するつもりだ」

「ありがとうございます」

四葉は三太の右手を取り、離すまいと両手で強く握った。


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