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さんたくろす!  作者: 結城コウ
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黒須家の朝

黒須(くろす)(さん)()の朝は早い。

末の妹である(なな)()が隣で眠る中、目覚ましが鳴る六時五分前に起きる。

ちなみにまだ幼稚園児の七花の寝かしつけも三太の仕事だ。

眠っている七花を起こさない様に、静かに起き、手早く制服に着替えると、洗面台に行って冷水で目を覚ます。

その後はキッチンに向かい、作り置きのアイスコーヒーを何も入れずに一杯飲むと三太の意識はクリアに切り替わる。

慣れた手つきでエプロンを着けると朝食を作り初める。

作っている最中に中学一年生の妹・五芽(いつめ)が降りてきた。

「おふぁよ~。おにぃ」

五芽は早起きだが、低血圧だ。

三太は鉄分多めの牛乳をコップに注ぐと五芽の前に置いた。

「はい、おはよう」

「ありがと」

こくこくと寝ぼけながら牛乳を飲む五芽を背に三太は朝食作りを再開する。

ゆっくりと五芽が牛乳を飲み干したところで、あらかじめ先に作っておいた一人分の朝食を並べたところで、きょうだいで唯一の社会人である(かず)()が入ってきた。

「おはよう」

「おはよ~、(かず)おねぇ」

「おはよう、姉さん。朝食出来てるよ」

「ありがとう、って朝からレバニラ?」

「うちは低血圧が多いからね」

「それは単に朝弱いだけじゃあ……」

「一おねぇってば我儘だね。折角おにぃが作ってくれたのに、嫌なら食べなきゃいいのに」

五芽がムッとした顔で一菜を睨む。

「べ、別に食べないなんて言ってないでしょ?ただ、朝から重いって話で……」

「それは思ったけど、うちは育ち盛りが多いからな」

それを聞いた五芽の口元が吊り上がった。

「そう、じゃあしょうがないよね。一おねぇはもうそんな年頃じゃないしー」

「なっ!……そんな挑発して」

「挑発じゃなくて、本当のことでしょ?だから、嫌ならいいよ、一おねぇの分もアタシが食べるしー」

「……太るわよ?」

「一おねぇと違って、若いからだいじょーぶ。その分動いて消費するしー」

ふふんと五芽が胸を張ると一菜は五芽を睨み、レバニラに箸をつけた。

「あげない。これは三太君が私のために作ったものだもの」

「同じメニューだよ、皆」

五芽が(あき)れたように言う。

「この皿が私のために用意したってことには変わりないもん」

長姉の威厳(いげん)などどこかに行ってしまったように一菜が言った。

「朝っぱらから何騒いでんの?」

そう言ってキッチンに入ってきたのは高校一年生の妹・四葉(よつば)だった。

「一おねぇが我儘(わがまま)言ってるだけだよー」

「言ってない!」

「なんなのよ?って、朝っぱらからレバニラ?」

瞬間、空気がピリッと張り詰めた。

「あーあ、言っちゃったね」

「これはギルティね」

「な、なによ、どこぞのラーメン屋みたいに……」

会話を遮るように三太は四葉の前に立った。

「四葉はレバー苦手だからな」

「三太、何なのこの二人は!?」

「おはよう。四葉も好き嫌いなくしてくれたらいいんだけど、ほら」

と、三太は四葉の前に皿を置いた。

「あ、これ……」

「豚ニラだよ、小さく刻んだレバーは入ってるからそれは食えよ」

「あ、ありがと……」

「もう!おにぃはおねぇ達に甘すぎるよ!」

「そうか?と、お待たせ五芽の分」

ご飯、味噌汁、レバニラと並べていくが一皿多かった。

「あれ?」

「早起きのご褒美のオクラ納豆。まぁ、納豆が残り1パックだったから、残飯整理とも言えなくないけど」

「おにぃのそういうとこ、大好き!」

単純ね、四葉は聞こえないようにそっと呟いた。

その呟いた瞬間にドアが空いて、四葉はびくりとなった。

「おはよー!」

小学二年生の(むつ)()が元気よく入ってきた。

「おはよう、六実」


「お兄ちゃん、おはよ!今日の朝ごはんはなに~?」

「レバニラだよ」

「やった、お兄ちゃんのレバニラ大好き~」

六実はすぐに自分の席に座ると、箸を持って手を合わせた。

「いただきまーす!おいしーー!!」

「朝から元気ねぇ……」

四葉が呆れたように呟くが、三太はそれを嬉しそうに見ていた。

「六実の年頃ならこれくらい元気な方がいいのさ」

そう言い、六実を見る目は兄というよりは父の様だった。

「……さて、そろそろか」

そう言うと三太は一番小さいサイズの茶碗を二つ用意し、その両方にご飯をよそった。

「おはよー、にぃおねえちゃん連れてきたよー」

「うう……今日は講義午後からなのに……」

幼稚園児の年長の七花が大学二回生の()()を引っ張って来た。

「おはよう、ちぃ姉ぇ、七花」

三太はよそっておいたご飯と一緒におかず類を小盛にして出した。

二穂は小食で特に朝は幼稚園児の七花と同じ程度にしか食べられない。

「あ、ありがとう、三太ちゃん」

「おにいちゃん、ありがと!」

きょうだい全員が揃ったところで、三太がやっと食べ始めた。

と言っても、箸が上手く使えない七花の補助をしながらだったが――


「ご馳走さん」

一番に食べ終わったのは何故か三太だった。

「今日の記録はー?でけでけでけでけ……でん!一分三十二秒!残念!記録の一分三十秒は更新とはなりませんでした!どうですか?解説の四葉さん」

「誰が解説よ……でも、そうね、一分三十秒台に壁があるんじゃないかしら?」

「なんだよ、壁って……」

三太は七花が咀嚼している間に、食べ終わった食器を流し台に持って行った。

「おにいちゃんおにいちゃん」

「うん?」

「ニラさん、にがいの」

「味付けミスったか?」

「そうじゃないの、だからね、あーんして」

「ああ、いいよ、ほら」

三太は七花の箸でニラを掴むと七花の顔の前に持ってきた。

「はい、あーんして」

「あーん」

ニラが口に放り込まれると七花は口と一緒に目をギュッと(つむ)った。

「はい、もぐもぐしようねー」

「もぐもぐもぐ……」

七花の小さな口が動いていたかと思うと、大袈裟(おおげさ)な身振りで飲み込んだ。

「えへへ……食べれた」

七花は証拠の様に口を開けて見せるとニコッと笑った。

「やったね」

「えらい?」

「えらいよ」

「じゃあ、よしよししてー」

「いいよ」

三太は七花を優しく撫でた。

その一連の流れは若干の作ためを感じるものの、微笑ましいものだった。

だが、周囲の目はそんな雰囲気も関係なく。

――――まるで、炎と雷光がほとばしっているようだった。


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