年神様
昔から、母が何をしていたかが分からなかった。
母は公家の出で、父と結婚してからも、それを止めようとはしなかった。
本来は公家の当主がするべきことだったらしいのだが、結婚できたのは母だけで、その血統を残すため、とこの儀式を守るためにずっとしているということらしい。
昔聞いたときにそんなことを教えてくれた。
昔は旧暦でしていたらしいが、戦後になって新暦でするようになったそうだ。
大晦日の9日前までに大掃除を済ませ、6日前までに年賀状を書き終わり、3日前までにほかの準備も全て整える。
ちなみに目安が6日目がクリスマスということだ。
3日前、門松を立てて、さらに清め塩を振りかけて祝詞を上げる。
そのうえで家の中にもあちこちに塩をまいて、そのうえで方々で祝詞を唱え続ける。
大晦日になると、12時から家の敷地の四隅に小餅が入った小指くらいの壺を埋める。
この壺は1月15日が過ぎると掘り返し、どんど焼きで焼くことになる。
だいたい硬くなっているが、焼餅はとても香ばしくておいしい。
正月となる15分前、母は玄関へと行き、扉を開ける。
「ようお越しくださいました、年神様。来年もどうぞよしなに、よろしくお願い奉ります」
玄関で正座して、頭を深々と下げると、ひゅう、と風が吹き込んできて、何かがやってきたことが分かる。
そのうえで、家の中で3日前までに用意しておいた専用の部屋へと母は案内した。
その部屋は1月14日まで封印され、15日になると同時に開かれる。
母が言うには、年神様を出迎えているんだということだったが、科学全盛のこの時代、なかなか信じられることではない。
それでも、そのやり方一つ一つを後ろからついて回って覚えて、それを紙に書き残した。
それを数え15になった翌年からずっと続けている。
だから今年も年神様を出迎える。
今年も、いい年になりますようにと祈りを込めつつ。