伝説の魔物が住む祠に閉じ込められて、バッドエンド寸前です
長いので二つに分けたため2話更新です。
《ポチャン……》
波がゆらゆらと揺れ、祠から落ちる雫が頬にあたる。心優はゆっくりと目を冷ますと少しばかりだが体が暖かい。
「寒くないか?」
背中から大きな腕でがっしりと抱き締められ、真っ黒いローブが掛けられている。
微かな優しい香り、クロウ伯爵だった。
「なるほど……氷煌の祠というのはうわさでしか聞いたことがなかった。アイスラグは雪国、雪に埋もれ冬場は絶対に見つかることがない、海底に沈んだといううわさもあったのだがひそかにヒョウガ王子の城とつながっていたのか」
伯爵は軍人に連れてこられる時、怯える心優を守りながらも来た道をずっと記憶していた。
ヒョウガ王子の城の長い長い廊下をしばらく歩いた後、氷小狼の紋章の扉を開けると氷でできた階段を降りた。階段を降りるにつれ気温はどんどん下がり、足場の悪い洞窟に出ると曲がりくねった細い道を歩く。ロープでできた古い板橋を渡る。板橋の隙間から下を見ると下は底の見えない海だった。
長い年月をかけて伸びた氷柱の先から雫が落ちる。軍人が手に持ったランプの灯りだけでも十分すぎるほど辺りは明るい。アクアブルーの海底は波打つごとに砂金でも混じっているのかと疑うくらいキラキラと輝いている。
洞窟の奥には洞窟を突き抜けるほどの巨大な木の根っこが貼っていた。太く巨大な木の根っこに貼り巡らされた封印の紙。その一枚一枚に氷小狼の紋章が印字してあった。
そう、二人は木の根本にくくりつけられたーー……。
「北欧神話に登場する九つの世界をつなぐと言われているユグドラシル。その神話に登場する最悪な魔物こそが死者の魂さえもむさぼると言われているニーズヘックだ」
「ニーズヘック……?」
「寒いのは耐えられるが人喰い蛇がいつ現れるかわからないこの場に長い間人間がいるのは大変危険だ。どこからか血の臭いをかぎ付けた巨大な大蛇の餌にはなりたくないからな」
水面からゆっくりと真っ黒い影がゆらゆらと二人の背後に忍び寄る。地鳴りが聞こえたかと思うといきなり蛇が二人に襲いかかり、口を大きく開けて食らいついてきた。
「ニーズヘック!?」
鋭い牙は防げたものの、驚いた拍子に心優は手首を捻る。固い地面に手のひらが擦れて血が流れていた。大蛇の狙いは彼女に定まった。伯爵は心優の手を引っ張り急いで道を引き返す。
「違う。悪魔でも魔物は伝説上の生き物だ。恐らく伝説のうわさの源は海底に住む名も知れない海蛇だろう。ニーズヘックが実在するなど歴史書には記録されてはいないからな」
途中で固い岩の欠片を大蛇の顔めがけて投げつける。すると若干怯んだものの、しばらくすると怒りをこめて追いかけてきた。
「それではなぜ私たちは逃げているのですかーー!? 追いかけてくる巨大な蛇の大群は何なのですかーー!?」
伯爵は自分の背後に心優を隠す。
「人喰い蛇だと先に言っただろう。ここに住む海蛇は肉食だ。奴等に噛まれたら鋭い歯で肉を引きちぎられるぞ。
まあ、ここから無事に生還できたら故郷で結婚式をあげようか? わが妻、ミーユ」
「こんなときに真顔で冗談を言うのは止めてくださいーー!!!!」
その時だった、ピッタリとしまっていた扉が開き、眩しい光と共に聖女が現れた。
「遅れてごめんなさい、さあ、お二人ともここから逃げましょう……!!」
伯爵は心優を抱き抱えて扉の向こうへ連れ去る。
セナは丸い鏡を取り出すと蛇の群れに向けて光を反射させた。
氷小狼の紋章に集まった月夜の光が、鏡に反射され大蛇は眩しい光に怯み深い海底へ潜り込む。三人は「助かった」と思い安堵する。
すると、不安そうな目でヒュウガ王子が三人を見つめていた。
「ヒョウガ様、今回ばかりは少しおいたが過ぎたようです。これ以上、罪もない二人を巻き込むなら私にも考えがあります」
「君も俺を置いて城から出て行くというのか……? どうして……どうして、こんなに愛しているのに、愛を伝えてもセナは俺の愛を受け入れてくれないんだ」
「だから私には元の世界に婚約者がいると言っているでしょう。それに、お金で軍人を操れても人の心までは変えられることはできません。ヒョウガ様、この二人が来てからも私の身に危険なことは一切ありませんでした。彼らが無実だと分かったら早く解放してあげてください」
「……セナ!!」
セナが王子の方を向いて鏡の光が反れた瞬間、残りの蛇が彼女に襲いかかり彼女の腕に食らい付いた。
伯爵は氷の氷柱をへし折り、肉をもぎ落とそうとする蛇を容赦なく貫く。
伯爵はぐったりとしたセナを片腕で支えると、心優は重曹な扉を閉めた。セナ背中からは大量の血が溢れていた。
「今すぐお医者様を……」
「……不可能だ」
「え……?」




