悪い狼に拉致監禁され、捕らわれたヒロインは禁断の恋に落ちる
甘いです。
もともと私の小説は甘いのですが、今回ばかりは甘さを抑えていました。それもそろそろ解禁します。ひたすら甘いですw
《ガチャ……》
「ヒョウガ様、ミユウを連れて参りました」
セナは頭を深く下げて、ドレスの裾を持ち敬礼する。
先程の廊下とはガラリと雰囲気が変わった。
夜空のような暗い空間に、外の雪の明るさで輝くステンドガラス。その世界に一歩足を踏み入れる。すると硝子張りの床の下では悠々と魚が泳いでいた。閉鎖された孤独な空間。セナに呼ばれたこの城の主はゆっくりと振り返る。氷のような凍った眼差しで見つめられると、心臓が止まりそうになった。
「ミーユ!!!」
彼女の姿を見た伯爵は彼女の元へ駆け寄る。
「クロウ伯爵!」
二人は久しぶりの再会にお互いの無事を確認し抱き締めあった。
その様子を面白くなさそうな顔で見つめる王子。セナは王子の側に寄り「もう、やめて」と二人を擁護した。すると彼らを連れてきた軍人がぞろぞろと部屋の中へ入ってくる。
「乱暴は止めて! この二人はなにも悪くない! 無関係ですわ!」
「どうして、そうと言い切れる。少しでも怪しいやつは捕まえなければ……もし、セナが他の婚約者と同じように俺の前から消えてしまっては困る」
セナは口をつむんだ。
「吐かぬなら、二人を氷煌の祠に縛り付けておけ」
「王子、あそこは危険です! あそこは……龍の寝床。例え話が神話だとしても、人間が長時間いていい場所ではありません……!!」
城の兵士たちは伯爵と心優を無理やり捕獲すると、長い長い廊下を歩かせ、祠へと連れ出した。
「ミーユ、巻き込んでしまい、申し訳ない。どうやら俺たちは悪役のようだ」
《パンッ……!》
「あきれたわ! ヒョウガ様! 全く無関係の彼らを捕獲した上、危険で立ち入り禁止とされている大蛇の寝床、祠に拘束するだなんて、良心のある人間のすることではないわ!」
ヒョウガ王子はセナに右頬を強くたたかれる。
ペロリと舌を出し薄い唇を舐めると、目の前で怒り心頭のかわいらしい女性の頬に手を伸ばした。
「セナ……これで君はずっと俺の側にいられるね?」
セナは「いやだ、いやだと」拒否しながら、彼の胸を強く突き放す。
「何度も言うように、私には元の世界に愛した者が待っているのです! ヒョウガ王子とは一緒にはなれません……!!」
だが、ヒョウガ王子は諦めない。
「そんなに強く拒まれるとやはり落としたくなるものだね。強い君が恋に落ちた姿はどんなに美しいのだろうか」
彼は半ば強引に彼女の小さな唇を奪い去る。
逃げようとする彼女の手を掴み指と指を絡め合わせ、もう片方の手で彼女が逃げられないように腰を支える。
王子には唇を噛まれても愛らしく、悲鳴さえもが心を擽らせた。噛みつかれた唇から血が流れても深い口づけをやめようとはしない。
何度も何度も彼女に愛を伝え、心の奥の婚約者の存在が甘い刺激に消えてなくなることばかり考えていた。
しばらくすると抵抗することがなくなったセナはなされるがままになる。
もちろん目の前で愛をささくのは誰もがうらやむ一国の王子。蒼い髪色に深い深海のような瞳。鼻筋が通った彫刻のような顔形。性格は若干難有りだが、婚約者がいない立場。
そして何よりも一途である。そう、今回は恋をした彼女には婚約者がいた。運が悪かった。それしかいいようがなかったーー……。
深く王子に愛される中でセナは床下の閉じ込められた海の世界を眺めていた。自由に動き回る魚たち。居心地良いはずなのにそこは常に誰かの監視下にある。そして彼女もまた城に来てもう半年、一年と時が過ぎようとしている。
元の世界に戻るすべもいっこうに見つからず、無事に帰れたとしても愛する彼の隣には前のようには戻れないかもしれない。
そんなことを考えていると、獲物を狙った氷小狼は、牙を立てて首元に喰らい付いてくる。
監視され支配されているのは、魚なのか。それとも、私が魚に見られているのか。
どちらにせよ狭い水槽では上手く呼吸ができない。
氷小狼は彼女が呼吸するのを止めると、噛みつくのを止めた。それを幾度も繰り返し彼女が段々と弱っていくと、人の姿に戻り耳元で愛をささやき抱き締める。
こうやって長い間愛されていると段々と思考回路は愛に犯されていった。いっそうのこと彼を好きになってしまったら楽なのではないかとーー……。
婚約者との交際期間は三年である。もしかしたら年月が過ぎるにつれ恋人の存在を忘れ、目の前の彼を愛せるかもしれない。
冷たい瞳にさえ、希望を抱き、錯覚してしまうのだーー……。
セナは王子に愛されている時、時おり甘えた声を漏らす。
「……これ以上は止めて欲しい」
普段強がっている彼女が弱くなった瞬間が彼の楽しみの一つだった。凍った世界には邪魔する人すらいない。邪魔するとすれば最近悪いうわさのあの人のみ。それさえも拘束してしまったら、永遠にセナを思う存分愛してあげれる。
「セナ……好きだ……愛している。君が愛らしくて、愛らしくて、触れずに側に置いておくのがもったいないくらいだ。
……なぁ、少しだけなら味見をしてしまってもいいか?」
王子はセナのかわいらしい指先にカプリとかじりつく。セナは王子に毎日狂愛され、制御していた心も惑わされ、少しずつ少しづつ王子に惹かれていった。
「セナ……好きだ……離さない……絶対に……誰にも渡さない」
悪い狼にそそのかされ、セナの心は深い海底に落ちたーー……。




