二人目の王子様のヒロイン登場
周りにいた人たちは彼の姿を見や否や名前を呼ぶ。
スオウ王子は150センチあまりの小さな少女を背後から抱きしめ、クロウ伯爵と距離を取らせる。
「ななな、どうしてですか? スオウ様……! 私は護衛として妖しい男から宮殿を守ろうとしただけですよ!!」
「クロウはオレの友人だ」
「はいっ……!? こんな悪人面の男がスオウ様のご友人なはずはありません……! 王子、絶対に騙されています……!!」
じたばたと暴れまくる少女の手から槍を引き離し、スオウ王子は頭を抱えて「騒がしくてすまない」と軽く会釈をする。
「悪かった、この子は最近宮殿に招きいれた新人の子でね、クロウのことは詳しく教えていなかったんだよ。この子の名前はカレンだ」
「……ああ、それなら、こちらも紹介したい、連れの名前はミーユ・ミルフィー……」
「心優です……!!」
カレンと心優が並ぶと心優の方が大分大人っぽく見える。カレンの髪は淡いピンク色で長い髪を二つに結んでいる。ルビーのような瞳は勝ち気なつり目だが、パッチリ二重でくりくりとした大きな瞳がとても愛嬌がある。上半身は甲冑を身に付け護衛の格好をしているが、動きやすいように短いスカートをはいている。童顔、幼児体形、ロリ顔の少女は心優と同じく16歳だと言う。
カレンは心優に近づくと胸元を掴み、チラリとその中を覗いた。
「……ちっぱい」
(なななな、なんですとーーー!?)
クロウ伯爵を始め、その場にいた者たちはカレンの言葉を「聞きなれぬ異国の言葉」とし、頭にクエスションマークを浮かべる。心優はその言葉の意味を理解できたので顔を真っ青にしていた。
「こらっ、ミーユさんに失礼なことをするでないっ!」
スオウ王子に叱られ、首元を引っ張られ、子供のように抱っこされる。むくれたカレンは眉毛を吊り上げて心優を指差す。心優は名前を訂正する気力すらない。
「スオウ様をあなたになんか渡さないんだから!」
カレンは人差し指で下まぶたを引っ張り、宣戦布告をした後に、スオウ王子に頭をポコンと軽く叩かれ、三人は宮殿内を案内される。ホームパーティーって言うからお庭にテーブルを置きそこで皿に盛られた果実を食べるものだと想像していたら期待は良い意味で裏切られた。
宮殿の中庭に繋がる扉を開けるとささやかな風が部屋に入ってくる。日陰になった中庭はどこよりも涼しい。庭に咲いた野草。ひんやりとした土の感触が夏の涼しさを感じられた。
中庭にはもうすでに人がたくさん集まっていて、長いテーブルにこれでもかというくらいフルーツが器に盛られている。マンゴー、ドラゴンフルーツ、パイナップルにザクロにパパイヤ。
スオウ王子から渡された白い飲み物に口をつける。グラスの中身はココナッツジュースだった。スッキリとした甘さで飲みやすい。
「なあ、スオウ。さっきの子の話だが……去年、来たときはいなかったよな?」
「ああ……カレンは半年前に向日葵畑に倒れていた所をオレが助けたんだ」
向日葵畑で倒れていた!? その話を聞いて心優には思いあたる節があった。
(まさか……カレンさんって……)
「異国の地から来たと言っていたな。川で溺れていたところ気がついたらリーフ国の広場で倒れていて。仕事を探し求めてこちらの国まで歩いて来たらしいが、瀕死の状態だったのでこの宮殿で手当てした後に護衛として雇った。
……まぁ、あの年だ。護衛というのは半分冗談で普段は彼女の好きにさせている」
この世界『清き乙女は王子様に寵愛される』に異世界転移したヒロインは始まりの街で路頭にさ迷った後、悪い男性に襲われそうになる所を最初の王子様イーグリット王子に助けられる。
そして、二つの選択肢『王子様の婚約者になるか』、『断って街に仕事を探しにいくか』このうち後者を選び宿屋で仕事を探すのだがどれも薄給で助けてくれる人が現れなければ野宿することとなる。
カレンは働きながらも野宿を選び、もっと裕福な土地を探して遠い地まで歩いてきたのかもしれない。恐らく全ての力が尽きたところを偶然にもスオウ王子に拾われたのだろう。
「違うわ! 正確に言うと異世界転移してきたのよ!」
この場にいる皆が「難しい異国の言葉だ……」と目を細めたが、同じ境遇の心優には理解ができた。
心優は「まさか、そんな」と額に手をあてて顔を青ざめる。
カレンも間違いなくこの世界の『ヒロイン』だったーー……。




