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鳥籠の青い鳥が望む意外な結末


《バアァァァン》


「ちょっと私を置いて行くなんてあんまりじゃなぁい……っ!?」


 心優はどこからか見つけた黒い布切れを羽織り、階段の手すりにもたれ掛かり、偉そうに腕を組み、見事な悪役っぷりを披露する。イベントの舞台はお城の階段。シンデレラもビックリの長い階段の頂上で悲しむシャルローズを指差して心優は叫ぶ。


 騒ぎを聞き付けた物たちがぞろぞろと集まってくる。


(うっ……。こんな大勢の人たちに見られては演技でもやりにくいわ。でもしょうがない。全ては彼女(シャルローズ)のため……)



「もう、ここにあなたの居場所はないわ……! だって私イーグレット王子に選ばれちゃったのですもの……! 愚図でのろまなシャルローズよりも王子は私を選んじゃったのよ……! オーッホホホホ!」


 われながら『セリフ棒読み』の『ぼんくらな演技』だなぁと思う。せっかく友人になってくれたシャルローズには悪いけど、敵を欺くにはまず味方から。二人には早く恋に()()()(もら)いましょう。心優はわざと時間をかけてじっくりと階段を降りた。


「さぁ! 選択するのよ、シャルローズ! あなたはそれでもおうちに帰りたい? それとも私を倒してここで幸せになる!?」


 そう、シャルローズは選ばなくてはいけない。目の前の王子様と幸せになる未来をーー……。イーグレット王子は彼女の両手を強く抱き締めた。


「シャル、僕が悪かった。彼女(ミーユ)とは何もないんだ!」


 それまで三人を見守っていた観客、数多くの婚約者たちは次々と口を開く。


「王子は悪くありませんわ。私たちは旦那に捨てられたり、身寄りのない者たちです。食事と住む場所と名だけでも伯爵の婚約者という素晴らしい地位を与えられ、匿っていただいただけですもの。誤解しないでくださいまし、シャルローズ様……!」


 人々は嘆き、神に祈るように二人の行方を見守った。

 王子は彼女の涙を拭き、ぎゅっと抱き締める。


「僕は一国の王子として、誰一人城から追放することなんでできない。住む場所や働き手が見付かるまではこちらで保護しているつもりだった。

 だが、君は違う。最初は天涯孤独のかわいそうな女性だと思っていたが、可憐な瞳清き心の乙女。一人の男として女性を守りたいと思ったのは君だけなんだ。僕は君を愛している。


 だから、僕から離れるだなんてそんな寂しいこと言わないでくれ……」


 心優は歯の浮くようなセリフを聞いて胸の奥が熱くなる。自分がもしこのような甘いセリフを耳元で(つぶや)かれたらグラッと来てしまうだろう。

 だからきっと、シャルローズは王子の愛に答えるはずーー……。


(お願いシャルローズさん……!)


「私もイーグレット王子のことを愛しておりますわ……だからこそ……」


(だ、だからこそ……?)


 心優は『だからこそ』なんてセリフあったかしら? と疑い二人の会話に聞き耳をたてる。


「私は、王子を置いて元の世界に帰ります」


(えっーーーー!? そ、それはだめよ!! 何を言っているの、シャルローズさん!!)


 心優は思いがけない彼女の選択に急いで階段から降りて行った。まさか、ここで彼女が最後の選択肢を『()()()』とは思わなかった。心優の作戦では彼女が『王子様と幸せになる』選択肢を選び、悪役令嬢の心優わたしは適当な所でおさらばするはずだったのだーー……。


「シャルローズさん、どうして? 昨晩、言ったじゃない? あなた王子様のこと愛しているんじゃなかったのーー……?」


 シャルローズは心優の顔を見て、優しくほほ笑む。


「王子様のことは愛しております……。でも私は長い間この世界で一人で過ごしてずっと寂しかった。例え同じ空間に王子がいても元の世界への執着と孤独は強くなるばかり。そしてだんだんと心は闇に(むしば)まれていったの。

 ……せっかく協力してくれたのにごめんなさい。

 ミーユさん……私は……この世界にもういたくない……」


「だ、だめなのよ……! 諦めてはだめ……! 諦めたら……」




「ミーユさん、最後にあなたとお友だちになれて良かった。そして、心の闇をこうやって吐き出せたならーー……私にはもうここに思い残すことなんてないわーー……」


「諦めたら(バッドエンド)れないのよーー……!!」


「えっーー……」


 シャルローズの体は急速に氷のように固くなり、水晶のように透き通り、指先からひびが割れ、跡形もなく弾け飛んだーー……。



 イーグレット王子の首から鎖から外れた懐中時計が転がり落ちる。


 《カツン……カツン……カツン……》



 (カラス)の紋章が刻まれた金色の懐中時計は(ふた)が開き、階段に落ちた衝撃で中の秒針が止まる。そして、暗闇の中からうっそうと現れた黒い影。暗闇から伸びた黒い手はそっと懐中時計を拾った。


「……ああ、こんな所に落ちていたのか」


 二人はある人物の登場に注目するーー……。

 闇のような黒いマントを翻し、月夜に照らされて輝く()れ羽色の髪。背後には漆黒の青毛。夜風に(なび)(たてがみ)の二頭の馬車馬が率いるのは、黒い棺と死神の洋装の(ぎょ)者。

 彼の名はーー……。


「クロウ伯爵ーー……」


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