プロローグ*瀬嶺 心優(セミネ ミユウ)2
「結婚、おめでとうーー!!!」
綺麗な海が一望できる高台の真っ白なチャペルで、心優は愛する人と結婚式を挙げたーー……。
心優の旦那となったのは某有名会社dream・worker社長の跡取り息子。彼自身も父親と同じ会社で働いており、企業の一員として数々の業績を上げた。一つ例を上げるならば『清き乙女シリーズ』は父親のプロジェクトだが、のちの大規模多人数型オンラインゲーム(通称MMO)『プリンセス・プリンス』は旦那の手掛けたプロジェクトである。
当時システム開発部にいた彼は『B版テスト』と呼ばれるシステムで正常に動くかどうかを実践していたーー……。
普通の会社員ならばプレイヤーに感情移入するほど深く関わることもない。しかし、彼自身自分がプロジェクトについ夢中になり『完璧な仕事をこなすため』自宅に帰っても仕事とは別のアカウントを作って『巡回』にあたったーー……。
そこで一人の少女と出会う。街で出会った白魔法師のキャラクターの女の子は真っ白なワンピース姿に麦わら帽子という妙な格好をしていた。彼女はプレイ時間が短いのにも関わらず全ての罠、隠しアイテム、敵の技の回避方法を知っていて敵と戦わずに次から次へと珍しいアイテムを拾っていく。
その豊富な知識から同業者かdream・workerの社員なのではないかと疑っていた。だか、ネットゲームにログインする時間も平日は夕方の6時から夜の9時の間と非常に短い。
そして、プレイヤーが集う広場で今まで集めたコレクションを並べ他のプレイヤーと他愛もない会話をしていた。
何より決定的となった出来事が、一緒に経験値を稼ごうとパーティーを組むと彼女はズタボロに殺られるのだ。
決して戦闘に慣れているわけではない。そしてdream・workerにもこんなに不器用な社員は見たことがない。そこで、確信したのは『知識が豊富な一般人』だということ。
ネットで見知らぬ人に個人情報を教えることは危険だとされているが、共に戦い、幾つのも強力なボスを倒すにつれ信頼感が生まれ、彼女は自身の正体を少しずつ明かしてくれたーー……。
黒埼心優はごく普通の一般人だった。豊富な知識は歴代のdream・workerの『清き乙女シリーズ』に夢中になり、制作者の癖や前作で盛り込まれたやり込み要素を全て知り尽くしていたからだーー……。
今後の参考にdream・workerのゲームの中で一番の『駄作』はどれかと聞いたところ、『清き乙女は王子様に寵愛される』だと言い放った。
初めて手掛けたプロジェクトでその年の乙女ゲームのベスト3を受賞したことからなかなかの出来映えだと自負していたので正直萎えた。彼女に理由を聞いてみた所「メインキャラ四人の王子に求婚される話は良くできていて、甘く切ないハッピーエンドはどのキャラを選んでも良かった」と言う。しかし、その100パーセント良いシナリオをも否定する納得できない隠しキャラが一人いたことに腹を立てていたようだ。
それが、『黒翡翠の悪魔』と呼ばれた『クロウ・ブラックジェイド』の存在だーー……。
彼は「ああーー……やはり彼は不人気なのか」と納得した。彼女にいくら「彼は王子の良さを引き立てる陰気なキャラだから」だとか「陰気なキャラがいてこそメインの王子の存在が光輝くだろう?」と説明しても、会うたびに愚痴を吐かれた。
前作までの『清き乙女シリーズ』には『清純』で『美徳』のある『王子様』はたくさんいて攻略しがいがあったけれども『クロウ・ブラックジェイド』のような「おいで」と誘っても屋敷から一歩たりとも出てこない『陰キャラ』は初めてだと。
そして晴れてお目当ての王子様とハッピーエンドになりそうなときこそ屋敷から出てきて『病んデレ化』し邪魔をしてきたのは彼だったとーー……。
彼は重々に思い当たる節があり彼女の重みのある言葉に耐えられなくなり「貴重なレビューありがとうございます。今後の参考にさせていただきます」と言ってその日はログアウトした。
まぁ、そんなこんなでお互いに会話をしているうち、恋愛感情を抱くようになり長年の連距離恋愛の末、最後は見事ゴールインしたのだけれども……。
結婚式の二次会でそんな裏話を二人から聞きながら、ほほ笑む二人は本当に幸せだったーー……。
いや、彼女が『現実』を諦めなければ幸せは引き続き続いていたのかもしれない……。