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ヒロインをハッピーエンドに導くなら、悪役令嬢も悪くないです

 

 心優は少しだけ怒っていた。こんなに健気けなげでかわいくすてきな女性、シャルローズに声を掛けておきながらイーグレット王子は自分のことばかりを考えているからだ。


 心優は螺旋らせん階段の一番下で細い(ほうき)を持って掃除をしている。それにしても本当にこのお城は(ちり)一つない。花瓶を回して裏側を見てもホコリがついていない。床も窓もピカピカに輝いている。使用人(メイド)として仕事を探しても、無い! ()()()()()()!!


 *


 昨晩シャルローズの寝室で大きなベッドに寝転がりながら深夜遅くまで、元の世界のこと、お城のこと、胸にひそかに抱いている恋心、彼女の話をたくさん聞いた。そして、心優は一つ提案をする。


「……シャルローズ、二人でイーグレット王子に細やかな意地悪をしてみない?」


「意地悪? ふふふっ……それは、どのようなことですの?」


 性格の良いシャルローズもこの時ばかりは乗り気だった。


「イーグレット王子に私とシャルローズさんとどちらが良いか選ばせるのよ」


「えーー……その提案はうまく行くかしら。覚悟はいつでも決めているけど、目の前でミーユさんって言われたらさすがにへこみますもの」


「そんなことないわ! 私なんてついさっき出会ったばかりの一般庶民以下の娘よ? 確かにクロウ伯爵の使用人(メイド)という肩書はあるけれども、他に魅力的なものなんてなにも持ち合わせてないわ。容姿端麗、スタイル抜群で性格も良いシャルローズさんと比べられたら私なんて周りを忙しく飛び回る(すずめ)同然よ。見向きもされないわ」


 シャルローズは心優の冗談に目元を涙を浮かべて笑ってくれた。


「いざ、決行よ……!」


 *


 《チリンーー……》


「……ミーユちゃん? 僕のお城には()れましたか?」


 爽やかな笑顔でほほ笑むのはこのお城の主、イーグレット王子だった。


「相部屋のシャルローズさんが良くしてくださいますわ」


「そう、それは良かった。シャルはおとなしくていい子だろう?」


 その言葉がまるでシャルローズを自分のものだと言っているような気がして、心優は(ほうき)を掃く手を止めて彼を(にら)み付ける。


「さすがクロウが選んだ使用人(メイド)なだけあるね。眼光は鋭く随分と肝が据わっているようだ」


「シャルローズさんをお(ここ)から逃がしてあげてください!」


「それはなぜ?」


「シャルローズさんは元の世界……こほん……このお城から出たがっております。シャルローズさんをお城から解放してあげて欲しいの。彼女を解放してくれるなら、私が変わりにあなたの物になってもいいわ」


 王子の前に並んだ二つの選択肢。『心優』を取るか『シャルローズ』を取るか。

 イーグレット王子は()()()不満そうな顔をしている。分かっていながら投げ掛けた条件だが『あからさまに拒否』されると若干傷つく。


「その願いは聞けない」


「なっ、なぜかしら?」


 心優は心の奥で燃え上がる怒りを隠して、顔を引きつりながらわざと彼に問いかける。


「シャルの変わりは誰にもできないからだ。それに身寄りのないシャルを拾ったのは僕だ、彼女は君と違ってこのお城から出たらどこにも行くあてなどないだろう」


 王子は自信たっぷりに答える。その心の裏側には『彼女は絶対に自分から逃れない』という根拠のない自信があるのだ。自信があるからこそ他の女に手を出し、彼女を不安にされる。そんな王子には少し懲りてもらわなくては。心優は隙を狙うかのように『無理難題』を投げ掛けたーー……。


「それが行く宛が一つだけあるのよ。クロウ伯爵のお屋敷よ!」


 イーグレット王子は淡い瞳を見開く。


「あなたが本当に私のことを気に入ってくれたのなら、もう私はクロウ伯爵のお屋敷に帰ることもないでしょう? そうしたら、クロウ伯爵の使用人(メイド)が足りなくなる。ぼんくらな私より小鳥のようにかわいらしいシャルローズさんがお屋敷の使用人(メイド)になったらクロウ伯爵は喜んで(うなず)くわ。悪魔も天使の魅力に洗浄されて……もしかしたら、メイドよりも早々正式に結婚しちゃうかも。……どう? あなたが私を選ぶなら、私もシャルと立場を交換するわ……!!」


「そ、そ、そんなの……まず、クロウが許可するわけないだろう」


 なかなか退かない王子にさらに追い打ちをかける。


「すぐに許可するわ。……だってクロウのお屋敷は人手不足で執事の変わりの物を探しているんですもの。私がこちらの使用人(メイド)になるなら、新しい使用人(メイド)を探さなくてはならない。その手間が省けただけじゃないかしら?」


 王子は言い返す言葉が見つからず、苦渋の表情をしている。そして私は最後の決めセリフを(つぶや)いた。


「かわいそうなシャルローズさん。伯爵に死ぬまでこき使われた揚げ句に骨の髄まで狂愛され一生を終えるのだわ。

 なにせ彼は黒翡翠(くろひすい)伯爵(あくま)なのだから」


 その言葉を聞いてイーグレット王子は目の色を返る。


「クロウはそんな男ではない……!!」


 イーグレット王子は立ち上がり、ずかずかと心優の前に立ちはだかる。


「クロウのことは誰よりも僕がわかっている……。彼を侮辱するような悪い子なら、これ以上僕に逆らえないよう、今すぐその無礼な口を黙らせてあげる……」


 指先で彼女の小さくかわいらしい唇に触れるとそっと顔を近づける。


 《チリンーー……》


「ご、ごめんなさいっ……」


 二人の視線の先には可憐な女性が立っていた。二人の行為を勘違いしたシャルローズは慌てて階段を降りて外に飛び出した。


「シャルローズ!」


 叫ぶイーグレット王子。

 私は静かに目を瞑り冷静に二人の行方を思い出す。


 この世界『清き乙女は王子様に寵愛(ちょうあい)される』に異世界転移したヒロインは始まりの街で路頭にさ迷い、悪い男性に襲われそうになる所を王子様に助けられる。これは初めての王子様とのイベントである。

 そして、ヒロインは選択するのだ。『王子様の婚約者になるか』、『断って街に仕事を探しにいくか』を。話を聞いた所によるとどうやらシャルローズは『王子様の婚約者になる』ことを選択したようだ。これが、イーグレット王子の()()()()()となる。


 のちに、イーグレット王子は『寂しがり屋』と判明しお城には、ヒロインの他にもたくさんの『女性』がいるという真実を知り困惑する。それでも優しいイーグレット王子に()かれ二人は恋に落ちる。

 お話の終盤に現れるのが『悪役令嬢』、二人の仲を裂くお邪魔虫の存在だーー……。

 話が上手(うま)くいったことを見て心優はやはり「自分は悪役なのね……」と肩を落とす。


「でも、まぁ、ヒロインを救えるなら、悪役令嬢も悪くないかなーー……?」


 そして、心優は彼女の恋を成就しハッピーエンドに導くべく次のイベントの舞台へと足を運んだーー……。


 

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