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王子様のヒロイン登場。む無理です。伯爵、私なんかお呼びではないですから

 《チリンーー……》


「イーグレット・ウォルターオパール王子!」


 イーグレット王子。上下白の正装に青いネクタイ。胸につけた勲章。そして何よりも真っ白のローブに王国の紋章である『白鷺(シラサギ)』が刺繍(ししゅう)されていたーー……。


 それにしても、王子の隣に立つクロウ伯爵もなかなか引け目を取らない。上下黒のドレスコードに金のストライプが入ったベスト。その色を引き立てるのは首元できつく結ばれた紅色のネクタイだーー……。

 伯爵は(カラス)のような黒いマントを羽織っている。ローブを止める金色の金具、(カラス)の紋章がまた彼自身の魅力を引き出すーー……。


「王子の隣に立つとさらに()()って感じね……」


 クロウ伯爵は古い友人って言っていたけれども、なぜかお互いに険悪な雰囲気。口元こそ笑っているが目はお互いを(にら)み付けている。伯爵の気迫足るや……そして王子も一向にお(しゃべ)り……ではなく威嚇を止めようとしないーー……。

 その険悪な雰囲気をさらにぶち壊したのが、王子の後ろに立っていた見るからに美しい女性『真の婚約者の存在』だーー……。

 金髪に吸い込まれるような青い瞳。豊満な胸元を露にした純白のドレスを着ていて、首もとにキラキラと輝く真珠のネックレス。綺麗に整えられた髪に(きら)めかしい宝石(ダイヤモンド)のティアラが付けてあるーー……。


「ま、ま、ま、まさしくヒロイン登場だわーー……!!!」


 心優は遠くで椅子に座りながらあまりの(まぶ)しさに目を細める。王子様の隣にはやはり『美少女(ヒロイン)』がいるものなのねと何度も心の中でうんうんと(うなず)いた。


 クロウ伯爵が後ろを振り向き何やらこっそり手を振っている。


「え?」


 心優は思わず手に持ち食べようとしていたマカロンを落としそうになる。


「嘘でしょう……!?」


 美男美女、三人が(そろ)うとダンスホールの皆が注目していた。

 その場にいた誰もがが伯爵の視線の先を見つめる。

 だが、そこにいたのは……。


 《カッシャーン……!!》


「む、無理、クロウ伯爵……私なんかお呼びではないですから……」


 一輪の真っ赤な薔薇(ばら)のようなドレス。大花柄総レースのロンググローブ。ゆるく巻かれた黒髪を片方に流し、首元には金色の細い純金のネックレスがつけられている。いつもは間違っても絶対に選ぶことのない大胆な色味と同調させる真っ赤な口紅。肌が白くて少し幼い彼女にとって、それらの組み合わせは絶対に手を出してはならない禁断の一輪の薔薇のように見えた。


 クロウ伯爵は大きくため息をついて、黒いマントをひるがえし堂々と近寄って来る。周囲の視線なんかに目もくれず伯爵はこちらに歩いて来る。


 心優は心の中で思った。「私は目立たないモブキャラでいたいの! クロウ伯爵来ないで! 近寄って来ないでーーーー!!!」と。


 (おび)える心優の前に立つ。

 伯爵は座っている彼女に目線を合わせると、手の甲に触れないキスをする。そして、彼女は椅子に座らせたまま、こう言った。


「イーグレット王子、紹介が遅くなった。これが俺の()()()のミーユだ……!」


(い、いやあああああああーー……!!!)


 ダンスホールの皆がざわめく。「全く見たこともない顔だがどこのご令嬢だ」と。「クロウ伯爵の婚約者なのだから名門貴族のご令嬢なのではないか」、「この国で見たこともないのなら異国の地からいらした方なのではないか?」。さまざまな疑惑が浮上するが、心優は口が裂けても『異世界から来た』なんて言えなかった。

 さらに心優の姿を見ると王子が近寄って来る。


「ミユウ、()()()()()()!? 君はクロウの婚約者だったんだね」


 気兼ねなく婚約者(ミーユ)の名前を呼ばれクロウ伯爵は彼を(にら)み付ける。


「なんだミーユ、知り合いか? まさか……」


 低音の不安定で震えるクロウ伯爵の声が怖い。伯爵はイーグレット王子に背を向け、心優の頬を片手で桃を(つか)むように握りしめる。


「まさか、実は最初に出会った時に椅子に座って待っていた相手はイーグレットでしたなんて馬鹿馬鹿しい話の真実(オチ)ではないだろうな……!? だとしたらさすがに腹を抱えて嘲笑うぞ……!」


 クロウ伯爵は指先に力を込めてギリギリと頬を(つか)む。本物の桃だったら(つぶ)れている所だ。心優は「よく思い出せないけれどそれは違うはず」と首を左右に振った。周りにはそんな二人のやり取りは全く聞こえておらず、実に仲の良いお二人だと暖かい目で見守られている。

 

「ち、違うんです……イーグレット王子とはこの前伯爵のつえを受け取りに街に行った時、その後の別行動の時にたまたま声をかけられた()()なんです……」


 心優は疑惑を晴らすために必死に疑惑を晴らす。こんな所でバッドエンドになるわけにはいかないから。


「クロウ……ミーユちゃんのことずいぶんとお気に入りなんだね?」


 怒りマックスの肩をポンと(たた)いたのはイーグレット王子だった。爽やかな笑顔の裏にはやはりどこか(とげ)のある言葉が気になる。天然なのか、それとも、わざとなのかーー……。


 クロウ伯爵はイーグレット王子の手を払い除ける。

 

《パシンッ……》


 払い除けられた手を後ろで組み、いかにも挑発していますと言わんばかりのしぐさで頭をかしげながら、心優に声をかけたーー……。


「せっかくですから二人とも僕のお城で一曲踊っていきませんか……?」



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