4話 うっかりしてました
ガイドに下らない質問をしながら歩き(浮き)続けていると、ちょっとずつ日が傾いてきた。
結局魔物らしきものはあのスライムにしか出会わなかった。前世ではダークリヴァイアサンMk-Ⅱ()に出会ったわけではあるが。
段々視界が見えなくなってくる。足元の石に蹴っつまづいたりはしないけど先もよく見えないまま進むのは面倒だし、もし突然魔物に襲われてしまうとまずい。安全に体を修復する方法を見つけるまで迂闊にダメージを受けるわけにはいかない。
スプレー缶から明かりを出せないかな。懐中電灯みたいな明かり。と思って試してみたけど駄目だった。流石に無理か。
しょうがない、今日はここで野宿かな。睡眠は必要ない気がするけど。
Q.僕は寝ないとダメ?
A.寝ることは出来ますがその必要はありません。寝ている間はMPの回復量が上昇します。
やっぱり寝る必要はないのか。でも夜を安全に越せるように野営地だけは真っ暗になる前に作っておこう。
と思ってたけど…野営地を作るためにどうしたらいいんだろう?
辺りを見渡すがかなり広々とした草原だ。近くに木は見当たらない。これはすなわち火種がないという事で…どうしよう。
薪とかさえあれば火はどうとでもなると思うんだけど…しまったな、これは誤算だ。
仕方がない、今日は明かり無しで過ごそう。ちょっと怖いけど…
まあ幸いにして大した大きさがあるわけでもないから、その辺に転がってれば誰にも気づかれないだろう。
僕は浮遊をやめてその辺に転がる。芝生の感じが心地いい。そういえば触覚はあるのか。五感はどのくらいまでサポートされてるんだろう?
Q.僕に感覚はあるの?
A.あります。システムウィンドウからON/OFFを切り替えることができます。
そんなこと女神様言ってたっけ?
システムウィンドウを確認してみると確かにある。ご丁寧に味覚まであるけどどう考えても食べ物の摂取は出来ないよね…
下らないことを考えながらいたら段々と眠くなってきた。ちょっと不安だけど、多分大丈夫だろう。少しずつ意識が遠くなっていく。
今日は、この世界に突然飛ばされたり、かと思えば突然食べられたり、女神さまに謝罪されたり能力をもらったり、色々なことがあったと思う。正直大変だった。
だからこれは仕方のなかったことなのだろう。
遠くから声が聞こえた気がした。
2人の男と2人の女が草原を歩いている。
男の一人は高い背丈に頑丈な体をしていてもう一方は正反対に弱そうに感じる。
二人の女は片方は身軽な服装にショートカットの青い髪をしていて、もう一人はローブを着て長い茶色の髪を後ろで纏めている。
背丈の高い男が言う。
「おい、今日はこれ以上はいけなさそうだぞ。もうすぐ日が沈む。」
それに2人の女が答える。
「え~、早くこの薬を届けて依頼を完了しないといけないのに。テオ、もう少し早くいけないの?」
「仕方がないわよ、ティア。そんなに急ぐことないでしょ、ゆっくり行きましょうよ」
テオと呼ばれた男は話す。
「しかし面倒だな、いくらこの薬を調合できるのがメリスの婆ちゃんだけとはいえ、これを遠く離れた向こうの町まで切れるたびに届けなきゃいけないなんて。」
ひ弱そうな男がそれに答える。
「アイテムポーチを持ってて調合薬などの危険なものもある程度安全に持ち運べるので、こういった依頼はよく僕たちの方に回ってくるんですよね。」
「適材適所ってやつだろ。報酬もいいし、俺達にもうまみは大きいんだから文句を言ってちゃいけない。とりあえず今日は遅いからもうここで野営しよう。」
「明日の夕方までには到着するわよ。しっかり休んで頑張りましょう。」
「うぅー、仕方ないわ、今日も干し肉とパンか…」
「この辺は魔物が少ないですから、食料の現地調達もできませんからね。」
「その魔物も触ると溶けるプニスライムだけでしょ?池に近づかなければ安全な場所よね。」
「池にだけは凶悪な魔物がたまにいますからね。」
「この辺で火を焚くか。…ちょっと待て、何か落ちてるぞ。」
テオがかがんでそれを拾う。
「どうせ前の冒険者が捨ててったゴミとかじゃないの?」
「なんかよくわからない金属の筒だな。なんだこれ?鉄じゃないしな…しかも結構軽いぞ?」
それを聞いたひ弱そうな男はテオの方を見る。
「ちょっと見せてください。…なんでしょうこれは、見たことがありません。何かの道具でしょうか。」
「元道具屋のお前でも知らないのか。なんだか怖くなってきたな。元の場所に捨て置いておくか?」
「それは勿体なくないかしら。あとから私たちの想像もつかないくらい貴重なものだった。てのも悔しいじゃない?」
「それも一理あるな…」
「それなら私が持ってるわ。アイテムポーチに入れておけば邪魔にはならないでしょ。…なにこれ、アイテムポーチに入らないじゃない」
「…ってことはこれ、アイテムじゃないのか?」
「じゃあ何だってのよこれは?」
ティアは気味悪そうに言い、それを聞いたひ弱そうな男は答える。
「アイテムポーチに入らないものは大きく分けて3つあります。アイテムポーチ自体はアイテムポーチに入りませんし、生きているものも入れることができません。アイテムとして登録されていないものも入れることは出来ませんね。」
「つまりどういうことなの?リール」
リールと呼ばれたひ弱そうな男は答える。
「一番大きな可能性として考えられるのは、異界の拾得物ですかね。」
「異界の拾得物って言うと…なんだったかしら?」
「そんな言葉、聞いたこともないぞ。」
ティアとテオは首をかしげる。
「異界の拾得物というのは、違う世界から出現したと考えられている、この世界にはこれまで存在していないものです。おとぎ話にも出てくるかの英雄、ヴァレリック様が武器として使っていたエクスカリバーという武器も異界の拾得物だと言われています。」
「その話は私も聞いたことがあるわね。」
「そして異界の拾得物は往々にしてこの世界に存在しない素材で出来ていたり、不思議な能力を持っていたりします。」
「つまりこれってとっても貴重品かもしれないって事!?すごいじゃない!」
「これって見つけた人が報告しないといけないとかってあるのか?」
「その辺はよく知りませんが、冒険者が見つけたり手に入れたものは報告義務はありません、なのでこれは見つけた冒険者のものでいいのではないでしょうか。」
「やったわテオ!これで私たちは大金持ちよ!」
「おいおい、そんなにはしゃぐなよ、ティア。それが異界の拾得物かもまだわからないんだからさ。」
「そんな嬉しそうな顔で言ってもあまり説得力はないですよ。テオ。」
冒険者たちの嬉しそうな話し声が草原で聞こえる。
ところで、僕は…どうしたらいいんだろう?
人の話し声と気持ち悪い浮遊感で目が覚めたが、これは…人に気づかれたのか。
話しかけてみる?とここで僕には喋る方法がないことに気が付いた。この世界の言語を理解できるようにはしてもらったけど、喋る方法をもらうのを忘れていた…これは不覚。
変に驚かせても嫌だし、ここは何もしないで様子をうかがっていようか。この人たちもどこかに向かうんだろうし、これで人がいる所に行けるかもしれない。
異界の拾得物は別に地球から来たものという訳ではないです。この世界とは違うどこかから来たものみたいなイメージなので、普通に地球産以外のものもあります。
人の描写は苦手です…人の台詞でイメージを分けるのは難しい。
文章中で出し損ないましたが茶色のロングの女の人の名前はメルタです。