14話 準備を整えてました
危ないところだったかもしれない。
僕はあの後真っ直ぐミランさんの店に走った。
ミランさんが今日見せてくれた『コカトリスの報い』があれば上手くいけばデスキラータイガーの足止めができるんじゃないかと思っていたんだけど…それは叶わなかった。
箱が予想以上に頑丈で、鍵を開けることも壊す事も出来なかった、手が無いって不便…、そもそもデスキラータイガーに効くのかも微妙ではあったんだけど。
あてが外れて焦ったけど、すぐに作戦を変える。その時に思い出したのが、机に置きっぱなしになっていた『煌めきの水』だった。
この薬は汚水を綺麗な水に変えるってミランさんが言っていた。つまりこの薬の実質的な効果って『混ざり物の水を、純水に変える』じゃないだろうか?動物には血液があるけど、血液は水にヘモグロビンとか、タンパク質とか、色々なものが溶けたものだって聞いたことがある。だからこれを動物にかけたら、もしかして血を水に変える事で生物の体から血を無くす事で倒すことができるんじゃないかって思った。
正直賭けではあったけど、事前に(昔の)僕の血液をスプレーで出して実験して見た。
その時はたしかに血液が水に変わった。一滴垂らしただけで瓶の中に入っていた血があっという間に水に変わった。なので全く勝算がなかったわけじゃない。
ただ、それだけでは問題があった。それは『煌めきの水』でどれだけの血液を水に変えられるのか分からない、ということだった。あまりに大量に必要だと自分で出す必要がある、今回は結局事前にあった分で足りたけど。
薬を新たに作るためには一つなんとかしないといけない事があった。
現在の中身:煌めきの水
消費量:300MP/秒
MP消費量が高すぎるのだ。これだと恐らく3秒も出せばMPを使い果たしてしまう。何らかの方法でMPの最大量を増やすか、回復しなければいけない。それでガイドに聞いてみた。
Q.MPの最大量を増やす方法はある?
A.レベルアップで最大値が増えていくほか、液体を中に入れることで一時的にMPを限界を超えて増やすことができます。液体は上のフタを外して直接入れるか、体を液体につける方法があります。限界を超えたMPは時間経過とともに減少していきます。
えっ、何それ。液体入れれるとか初めて聞いたんだけど。液体入れるとMPが増えるって、これが本当の水増し?
ジョークは置いておいて、MPを増やしておこう。お手軽な方法でよかった。
ミランさんの庭に井戸があったはずだから。そこで補充しておこう。
井戸にぼちゃんと入って、水を取り込もうと意識する。おお、なんだろうこれ。体に液体が入っていく感覚がある、すごくほっとするような感じだ。これで増えてるのかな。システムウィンドウを開く。
名前:ポット
レベル:2
HP:100%
MP:106%
おお、増えてる…けど…効率が悪すぎる。この緊急事態にのんきに水につかっている場合じゃない。
じゃあ…ミランさん、ごめん!
棚に入っている薬瓶を何本か引き抜いて口を刺し入れる。水より薬の方が出すのにMPを使うんだから、水より薬の方が吸収効率がいいんじゃないだろうか?薬瓶があっという間に空っぽになる。これでどうだ?
名前:ポット
レベル:2
HP:100%
MP:452%
よし、成功だ!これなら多少は大丈夫だろう。
緊急時に使えるように棚や机にある薬を適当に異次元の中に放り込んで店を飛び出す。急がないと!
さっきの場所に飛んで戻ってくる。状況は悪そうだ。ミランさんが倒れて、ギルドマスターも辛そうだ。でもデスキラータイガーも弱っているみたいだから、チャンス!
僕は高く浮き上がった、あんまり高くても狙いが悪くなるから、このくらいでいいかな?
異次元から『煌めきの水』を取り出して、デスキラータイガーの上に叩き落す。それは綺麗にデスキラータイガーの頭に落ちて降り注いだ。その途端、デスキラータイガーが苦しそうに呻いて、そのまま動かなくなる。上手くいったのかな?
「ポット!」
地面からテオの声が聞こえる。僕は降下していって、テオに声をかけた。
「へいき?」
「いや、ギルドマスターとミランさんが重傷、特にミランさんの方はまずい。」
「みらん。」
ミランさんは向こうの地面に倒れていた。僕はミランさんの方に浮いていく、近くで見るとミランさんの状態の悪さが伺える。右手が黒く焦げて、体が大きく抉れ煙が噴き出している。
「ああ…ポットかい…」
「かいふく。」
中身をポーションに切り替える、MPは事前に増やしてあるからポーションくらいなら何という事はない。が、ミランさんがそれを遮って
「ダメだ…屍人はポーションじゃ回復できないんだよ」
え?どういうことだ?
A.屍人にはHPというステータスは存在せず、MPのみで管理されています。なので、MPが0になってもいきなり死ぬことはなく、自然に回復していきますが、MPが0の状態で引き続き攻撃を受け続けた場合、対象は消滅してしまいます。
ガイドが答えてくれた。HPがないからポーションをかけられても効果がないのか。どうしよう、この説明ってことはMPを回復させればいいの?
じゃあ中身をMPポーションに変えて…って、あれ?そういえばMPポーションなんかあったっけ?
ミランさんの店にはMPポーションは置いてなかった、『蒼い風』の4人のポーチにもMPポーションは入ってなかったような…
「私たち屍人は…自動回復を待つしかないんだ…しかし…ここまで傷つくともう間に合わない…」
ミランさんの黒焦げた右手が崩れる。既に自動回復が発生していないのか?
「ミランさん!諦めるな!」
テオが追い付いてミランさんに声をかける。
「ミランさん!まだ死んじゃダメ!」
ティアが涙声でミランさんに呼びかける。
「そんな顔しないでくれ、心残りになるじゃないか…」
まずい、まずい!何か方法はないのか…?思いつかない…何かないか…?今すぐにMPを回復する方法…、神様でも何でもいい、誰か……神様?
「そうか。」
「ポット…?」
僕はシステムウィンドウを開く、思い通りに行くかはわからない、僕の独りよがりかもしれないけど…でも、そんな事じゃ諦められない。
僕はシステムウィンドウの一番下、今まで一度も使ったことのない機能を起動する。少しの時間とともにそれは起動する。
『もしもし、アーシラリスです。何日ぶりでしょうか…無事に転生ライフは過ごせていますか?』
これまで使ってこなかった、使う必要のなかった機能、女神様へのライフラインだ。お願いだ…女神様!
今回は前後編で同時投稿でした。後編の区切りが悪いって言わないで…
文章にね…矛盾という魔王が誕生しちゃったんだよ。
こんなに重要そうな真面目なシーンなのにシナリオ調整でちょっとこじつけた感じになっちゃったのが悔しい…もうちょっと伏線管理をちゃんとします。反省。