11話 ミランさんにまた会いました
「んで、今日は何で来たんだ?」
「今日は買い物だ、昨日のお詫びにな。」
「気が早くていいことだね、どんな薬が欲しいんだ?」
「人が飲んでも大丈夫そうな薬?」
「これまたアバウトな質問だね…」
「ミランさんは作れない薬が多すぎるんですよ」
「しょうがないじゃないか、製薬にも向き不向きがあるんだから」
「あれ?そうなの?製薬ってスキルなんだからレベルが足りてるなら作れない?」
「製薬スキルみたいな生産系スキルは『そのアイテムを安定して作れる』ってのがスキルの基準だから、作れるかどうかは関係ないんだよ。」
「例えば製薬スキルlv1を持っている人がlv1の薬を作るとその薬を100%の品質で生産できますが、製薬スキルを持たない人が作ろうとすると30%~70%くらいの品質にしかなりません。なので薬が作れるかどうかはスキルが関わってこないんですよ。」
「へー、そうなんだ。」
「だから私は製薬スキルは8だが作れない薬が多いんだ。」
「8って言ったら超一流の薬師じゃないの!?」
「そうだよ、スキル的に言ったらレベル8のポーションも作れるはずなんだけどね…」
「レベル8ポーションって、存在は知ってるけど…」
えっと、確か怪我や疾病の完全治癒及び失われた精神の治療だったっけ。
「作れたらいいんだけどねえ、ポーション類は全くダメなんだよ。」
「薬は発明が基本ですからね、生産できるかは個人差が大きいですから」
「生体薬もlv的には3の薬らしいよ。私は作り方を知らないけど」
「薬師って、大変だな…」
「まあそんな話はどうだっていい。人が飲める薬だったら、こういうのはいいんじゃないか?ほら」
ミランさんが水色の薬を棚から取り出してきた。
「『煌めきの水』だよ、どんな汚水でも、これを水に入れると綺麗になるんだ。」
「ほう、すごい薬ですね。」
「それなりに自信作だからね、レベル6の薬だし」
「すごいの。?」
「スキルによって差はあるが、一般的にはレベル4あるなら一流と名乗っていいくらいだぞ、レベル7や8ですら、ものによっては過去に習得した例がないスキルもある。」
「その話聞くたびに思うんですが、すごく眉唾な感じがするんですよね…スキルレベルって鑑定スキル持ってる人じゃないと見れないので一度もスキル確認してないままお亡くなりになる人とかいますし、何十年もスキルレベル確認しない人っていますし。」
スキルレベルって誰でも確認できるわけじゃないのか、それはそうか。僕はシステムウィンドウを持ってるから自分のステータスは確認できるけど、それは特別だろうし。
「確かに私もずっと確認してないわね、最後に王都に行った時だから…3年くらい?」
「3年もあったらどっか変化がある気がするけどな」
「私も10年くらいは確認してないから、もしかするとどっかのレベルくらいは変わってるかもしれないけどね」
「僕も『鑑定』スキルは持ってませんからね。『鑑定』はレベルスキルじゃないのでスクロールで覚えるしかないですし、『鑑定』のスクロールは異常なほど希少で高価なので本当に限られた人しか入手できないので」
?レベルスキル?
Q.レベルスキルって何?
A.スキルにはレベルスキル・拡張スキル・種族スキルの3つがあります。
レベルスキル:剣術や鍛冶等の、主に技術の上達によって手に入れるスキルです。レベル制で、最大10まで上がります。
拡張スキル:鑑定や解析などの、覚えることによってはじめて使えるようになるスキルです。スキルスクロールの使用によって覚えることができます。
種族スキル:浮遊、契約などの、種族が固有で習得できるスキルです。基本的に該当する種族の先天的な入手でしか得る方法がありません。種族スキルの中にもレベルが存在するものはありますが、最大が10とは限りません。
へー、確か僕の持ってた浮遊は種族スキルって女神が言ってたな。異次元開放とかシステムウィンドウとかは拡張スキルなのかな。
「あとはこれなんか使い道あるんじゃないか?『死神王のにがり』っていうんだけど」
ミランさんが箱から薬を出してくる。な、なんだろうこれ、見ているだけで吐き気がしてくる。
「す、すごい薬だな、飲んでも大丈夫なのか?」
「いいや、これは絶対飲んじゃダメだよ、飲むどころか体に直接かかったが最後、精神が体から溶け出して分離しちまうって薬だ。」
「そ、それ違法薬じゃないのか?」
「ご名答、私は薬師だから店の中にある分には大丈夫だけどうっかり外に持ち出してるのを衛兵に見られちまったら間違いなく捕まっちまうね。」
それ要するに売っちゃダメって事じゃないのかな…?
「そんな危険な薬、よく作る気になりますね…」
「屍人ならかかっても死んだりはしないしね。万が一の為の護身用と、あとはこれで作る精神ゼリーってのがすごく絶品でね…」
あっ、ミランさんが悪い笑みになってる。
「それ、人に試したことがあるのか…」
「いや、これはまだないよ。精神ゼリーってのは元々もっと周りくどい別の手順で作るものなんだが、それを昔食べた時にはまっちまってね。もっと手軽に作れないかと思って作ったんだがどうにも使う相手が…」
「そ、そうなのか」
「なあ、この薬はおまえたちにやるからさ、なんかよさそうな奴を見つけたら精神ゼリーに変えて持ってきてくれないか?勿論報酬は出すから」
「やめてください、そもそもそれ違法薬なんですから僕たちが持ってたら大変なことになりますよ。」
「むう、しょうがない。じゃあこれとかどうだ?ちょっとお高い薬なんだけど…」
「さっきまでの薬も高そうだったが」
「さっきのは材料がそこまでじゃないからお前たちなら十分買える値段だよ。そりゃ一般人が買うのは無理だろうけどね。」
そういいながら机の下から薬を出してきた。
「少し高価な薬は机に入れてるのさ、棚に入れてると取られちまいそうだからね」
「『薬師に泥棒に入る』って大馬鹿を表す慣用句だぞ。」
「危険な薬をたくさん持ってるからもしもの時に危険だし、薬師はこういう時にカウンターになる手を隠し持ってたりするからね」
「私も持ってはいるよ?そこの棚に固定されてる鍵がかかった箱があるだろ?」
「ああ、あるわね。貴重な薬を入れてるんだと思ってたけど、違うの?」
「やっぱ盗賊上がりのお前はそう思うのかい、これの中には確かに貴重な薬が入ってはいるんだが…」
「だが?」
「『コカトリスの報い』っていう揮発性の調合薬でね、これの匂いを嗅ぐと体が全く動かなくなるんだ。」
「こわい。」
「普通に売ってるレベル2の麻痺薬とは格が違うレベル7の薬だからね、試したことはないけど多分箱に入ってる分だけでドラゴンくらいなら効果があるんじゃないか?普通の方法じゃ治らないし、この状態では放置しても死ぬこともない」
「ひえぇ…こ、こわいわね…」
「幸いにして、この薬がまだ使われたことはないから安心しな。あ、ポット、お前みたいなやつだと多分効果はないよ。」
「で、結局今机に置いたその薬はなんだ?」
「これは『魔力感知薬』って薬なんだよ。」
「『魔力感知』って確か幽霊の種族スキルだったっけ?」
「そうですね。このスキルがあるので総じて幽霊は一般的な種族と違う不思議な魔法が使えるんです。」
「それを人為的に覚えることが出来る薬だよ、スクロールだと拡張スキルのものしかないんだが、薬だとその制限から抜けられるんだ。」
「へえ、これは面白いわね。」
誰でも魔法が覚えられるようになれる薬って事だろうか、面白いな。
「これはいいな、いくらなんだ?」
「これは大体金貨20枚くらいかな?」
「結構するな、でもスクロール基準で考えるとそうでもないか?」
「スクロールは白金貨何十枚とかしますからね。」
「きんか?」
「ああ、ポットはお金のことを知らないのね。」
いや、お金のこと自体は知ってます。価値は分からないけど。
「銅貨、銀貨、金貨、白金貨っていう4つの貨幣があって、それぞれ100枚で上の貨幣になるんですよ、」
へえ、そうなんだ。
「大体銀貨1枚あれば冒険者でも1日暮らせるかなって感じかな?」
「冒険者は毎日宿を借りないといけないですし、ポーションなんかの調達もあるのでやっぱり高くなりますよね。」
へえ、そんな感じか。円に直すとどのくらいになるんだろう?
「じゃあとりあえずその薬は買おうか。金貨20枚だっけか?」
テオが金貨をジャラッと出す。
「おっ、まいどあり~。ここで飲んでく?」
「そうだな、メルタ、お前が飲むといい」
「魔法が使えるのメルタだけだからね。」
「でも魔法が使えない人が飲んだ方がよくないかしら?魔法が使えるようにもなるんでしょう?」
「確かにそうですね…でもそうまでして魔法を使えるようにならないといけない人もいないわけですし、いいんじゃないでしょうか。」
「確かにそうね、じゃあ頂くわ。」
そういうとメルタが薬を一気に飲み干す。
「ごちそうさま。あんまり変わった感じはしないけど…」
「普通の魔法じゃないものも使えるようになってるから、発想を鍛えて色々試してみるといいよ」
「へえ、面白いわね。」
「じゃあ今日はとりあえず帰ろうか、その辺は明日にでもやってみよう」
「そうね、じゃあ今日はありがとうね。」
「また来ておくれよ、全然客はこないからね」
「その辺は応援してるよ。頑張ってくれ」
「ばいばい。」
ミランさんの店を出る。
「今日はあと宿で寝るだけか?」
「そうね、明日にはここを出て戻らないといけないからね。」
みんなで宿に戻って、ゆっくりと休んだ。
そして、今日の夜に事件が起こった…
不穏な幕引きですが特に鬱なことは起きません。大丈夫です。
ようやくストーリーを動かせました。そろそろ主人公のチート缶(感)を出せたらな…って思ってます
頭痛の中書いたから文章がちょっと変かも…