第六話 突然
「ほらー訓練再開。立ち上がらないと魔法使うぞ」
異世界に来て一週間が経過した。教育係は思ったより良い人材を得ることができ、確実に実力はついているだろう。
「魔法帝、も、もう少し休憩を下さいませんか」
先生方に大変好評だった小南の上目遣いと女の子座りだが、女性である魔法帝には効果が一切見られない。
「甘えるな早く取り掛かれ女狐め」
こんな調子でさらっと流される。初見で本性を見抜かれぐうの音も出ない状態だ。
「さっさと終わらせないと日が暮れるぞ」
時間は一時を少し回ったところだが生徒達は急いで課題に取り掛かる。
才能はピカイチの勇者達だが、魔法帝によるとそこらの底辺魔導師の方が強いらしい。
魔法というものは一日二日で使えるようになるものではなく、今の課題は基礎中の基礎、魔力を抽出し魔力玉といわれるものを作ることだ。
「今日はここまでだ。明日からは本格的に魔法の訓練に入る。万全の状態でこい」
「「「ありがとうございました!」」」
やっと魔法を使えると思った勇者達は喜んで次の日を迎えたが魔法はそんなに甘くはなかった。
「いいか、魔導師は自分の適性のある魔法属性しか使えない。魔法属性は五つ、火、水、風、土、光だ」
「なんだ闇属性はないのかゲームでは強かったのに」
「闇属性の魔法が使えるやつがいたら魔族と見なして即刻殺す。ゲームの中というのは分からないが闇属性の魔法はどの属性よりも強い」
本気と誰もがわかる顔で『殺す』と宣言された勇者達はゴクリと唾を飲んだが、如月だけは苦い顔をしていた。
(魔法を習得しても魔族の魔法には勝てないのか…このままで生き残れるのか?)
「おいそこのお前。今、魔族の魔法には勝てないとか思っただろ」
「はい。貴方がそう言ったんじゃないですか」
「どの属性よりも強いとは言ったが、勿論短所もある。魔法同士を混合させることが出来ない。よっていわゆる二次魔法と言うものが使えない」
(属性が強すぎて混合しないのか。しかし、それでも)
「その二次魔法を僕達は後どれ位で習得できますか?」
「三年ぐらい」
(やはり簡単には習得できないか)
いつ戦いが起こってもいいように準備をしなければならないという事は共通意識としてあるが、ことの重大さをわかっていない人が多い。
「仮にも勇者ならそんな顔をするな。お前達の魔法の才能はピカイチだ、育ち切るまでは面倒を見てやる」
「そうだ、俺は勇者だ!」
自身を鼓舞するために中村が上げる。それに当てられた数人が次々と鼓舞していく。
「お前達は全員全属性適性だ。その事は自信に持っていいがまだまだひよっ子だということを忘れるな」
その日から更に厳しい課題が課せられた。火の玉を出すのに二日、動かすのに三日。五日かけて初級魔法のファイアーボールを習得した。
驚くべき早さだそうだが、危機感を覚える勇者も数名いた。『慣れ』が生じてきている事に気づいて。
(魔法帝は十五日しか経っていないと考えているが、その考え方に連られていたら俺達はここから帰れない)
初めての魔法を習得したことで浮かれきった声が聞こえてくる扉の前で舌打ちをし、中に入ると驚くべきか、驚かないべきかクラスの中心には有栖川がいた。
「おい、如月もやってみろよ! こいつの周り魔法が無効化されるんだぜ!」
大体いつもうるさいのは中村だ。
しかし、これは偶然の産物かそれとも気づいていた上で魔法を受けたのかは分からないが有栖川の周囲一メートル圏内に侵入した途端に魔法が無効化される。
「完全に無効化されるのか」
水でできた矢が全方向から有栖川に向かって放たれたが、全て消滅した。
「有栖川、心当たりも何もないな」
「ああ、さっき中村に魔法を向けられた時に気づいただけだ」
「お、おい如月!? ファイアーボール以外も使えるのか?」
「ああ、初級は大体な」
「それは結構だがお前達に魔法の使用を許可した覚えは無いぞ」
ゾワ!?
ワープだろうか、いきなり部屋に現れた魔法帝が纏っているのは殺気だ。
「お前みたいなやつがまだ勇者の中にいたとはな」
「有栖川冬人といいます」
「お前の無効化能力。宝具だろ。まあいい、これ以上無断で魔法を使用したら訓練は無しだ」
(そうか!その可能性もあるのか。新たな自己宝具のせいで指輪が使えないか……破壊されたか)
今となっては指輪は同居人との唯一の繋がりだった。それが無くなるということは繋がりが切れたのと同義だ。
ポカンと空いた大きな心の穴に冷たい風が吹き抜けた。
「有栖川、帰る方法は見つかったのか?」
「具体的には何も。だが、帰れる可能性があるのはそういう能力を持った宝具だな」
迷宮都市や、王クラスが持つ宝具なら世界を渡るものもあるだろう。
実際この世界に飛ばしたあの手紙も自己宝具だったのだろう。
「元の世界の宝具は使い手が決まっていてその人しか使えなかったはずだが」
「その通りだが、この世界は違う。制限のある宝具も勿論あるけど全部じゃない」
「そうか。他には何かあるか?」
「魔族の襲撃だな。隣の国がだいぶ攻め込まれているみたいだ」
隣の国からの救援要請が来ているという話をたまたま廊下で聞いた。この国は救援を出すつもりがないみたいだが。
「引き続き頼む」
「ああ、これぐらいしか今は出来ないからな」
しかし、無効化能力が自己宝具の恩恵ならそれを制御できるようになれば戦えるかもしれない!
「今日からは少し急ぐ。出来るだけついてこい」
魔法の訓練の進行速度が上がると聞き、抗議の声が聞こえるが魔法帝は全て無視する。
「何かあったんですか?」
「救援要請が隣の国からあった。王はお前達は隣の国で初陣となる。まあ、私も行くが」
ゴクリ…初めての戦場が近づいて来たことに恐怖を感じ怯える勇者と、覚悟は決まっていたと受け止め、自身の力を高めなければと決意する勇者。
「今日から如月、お前は別メニューだ。初級をマスターした者から如月に合流してもらう」
「「はい!」」
いつもより二回り声は小さかったが、各自課題に取り掛かる。
「今日からお前は『魔道騎士団』の訓練に参加してもらう。トーラス、こいつが二週間で初級をマスターした勇者だ」
「こんな奴が、分かりました。ついてこい」
「如月です。よろしくお願いします」
「ラノム王国魔道騎士団、副団長のトーラスだ。団長はやさしい方だが、魔道騎士団はそんなに甘くない。邪魔だけはしないでくれ」
見下しているのが丸わかりだがこの男の言う通り『魔道騎士団』は甘くないはずだ。
この国は攻守において『魔道騎士団』と『近衛騎士団』の双璧でなりたっている。
その一翼を担う騎士団が甘いわけがない。
「心して置きます」
「まあ、そこまで硬くならなくていい。団員は基本勇者大歓迎のやつばかりだからな」
嫌なものでも思い出したのか、ため息を一つ吐いてこちらに向き直る。
「お前の才能は本物かもしれない。いないとは思うがもし妬まれ苦しくなったらすぐに言え。
基本的にはいいやつらなんだが伸び悩んでいるやつも少なからずいるからな」
今思ったがこのトーラスという男は心配性でやさしい人なのだろう。自分は憎まれ役になってもいいから他人には楽しくやって欲しい。
最初の「邪魔だけはするな」といったのも自分の仲間が戦場で死なないための訓練を如月の存在で浮かれたものになって欲しくなかったのだ。
「これからお願いします」
如月はこの男が戦場で仲間が散って行くの見て耐えられるのだろうか、いや無理だろうと判断し悲しい目をした。
自分はいつのまにか耐えられるようになっていることを感じて。
「やはり、でもそれならいったいどの候補者が」
今日で遂にこの世界に来て三十日。ほかのクラスメイト達は三日前に隣国へと向かった。昨日には着いているはずだが、初めての馬車小屋はさぞ居心地が悪かったことだろう。
「ふん、役立たずの勇者サマは毎日お勉強か」
「何の用ですか?英雄騎士ランドロフ。あなたはこんなところに居ていいほど暇じゃないはずです」
この世界に来た初日に斬りかかってきた騎士だ。だが実力は『近衛騎士団』の中でも頭一つ飛びぬけていて、次の『騎士王』の座に最も近いと言われている。
『騎士王』とは人類の中で最も強い騎士に贈られる称号だ。『魔法帝』も同様だ。
「英雄騎士はやめろと言っているだろう?俺は宝具で強くなったわけじゃない」
「そうでしたね、次回から気を付けます」
ランドロフの宝具は、初代騎士王が数々の伝説を打ち立てた剣『騎士の聖剣』だ。
死に際に粉々に砕け回収は不可能とされていたが騎士王の墓が出来上がったとき、騎士王の墓の前に空から飛来し突き刺さったといわれている。毎年無数の騎士が剣を抜こうと墓を訪れたが引き抜けた者はランドロフただ一人だった。
『騎士の聖剣』は適応したもの以外は動かすことすらできないただただ重い剣へと戻る。
「それで何か用ですか?」
「魔王の娘は生きている、いや生かされていると言ったほうがいいか」
「な、何か知っているんですか!?」
「何、人類の見解だよ。魔王しか使えない宝具『魔の宝玉』。これを鵜受け継げるのは魔王だけ。先代の魔王は血縁者のみが入ることができる神殿の中に封印した。現状封印を解けるのは魔王の娘しかいないからな」
「そもそも魔王になる為には何も必要がないはず。今まですんなりと決まってきたのになぜ今回だけ、、」
「『魔の宝玉』が今まで魔王の証である霊痕を授け、授けられた者が魔王となってきた。例外なく子孫がな。しかしまだその霊痕を授けられた者がいない。よって実力で決めようとなったというわけだ。競争相手がいなくなった所で『魔の宝玉』を手に入れようという腹なのだろう」
こういうことか、魔王の娘が魔王に選ばれなかった所為で混乱を招き、その混乱に人類が巻き込まれた。当の魔王の娘もどこかにつかまっていると。
(ただ魔王の娘が不甲斐なかった所為で巻き込まれ、俺らが勇者なんて危ないことさせられているんじゃねーか!!!!!)
「その気持ちの矛先は魔王の娘に向けてくれよ。もし出会うことでもあれば何発でも殴ってやればいいさ」
相手は仮にも女の子などという考えは一瞬で消え去った。
(見つけたらぜってーぶん殴ってやる!)
有栖川はこぶしを握り締め決意を固めた。
このとき既にフラグは立っていたのかもしれない。
「緊急伝令!緊急伝令!魔族が攻めてきました!港区、海からです!至急救援をガバbb、ザザー」
『近衛騎士団』本部に飛び込んできた救援要請。『近衛騎士団』の対応は流石としか言いようがない手際の良さだった。
「全市民に避難勧告をC班はG地点へ市民を避難させてください!それ以外の班は魔族狩りに出ます!」
「王達は?」
「俺が向かいます。魔族狩りは皆さんだけで楽しんできてください。おいD班!今から王の救援に向かう、ときは一刻を争う覚悟を決めろ!」
「「はい!」」
騎士団は敵を見くびりすぎていた。『魔道騎士団』が不在の今、彼らだけで対処する事の大きさの限度ぎりぎりだった。
しかし敵の最強戦力に『近衛騎士団』最強の騎士がぶつかったことだけは僥倖だったのかもしれない。
「何だか騒がしいな」
外からは人々の悲鳴声や叫び声が聞こえてくる。建物が倒壊したのか派手な音もその中に含まれている。
ガラ、バン!
「ッ!なんだ!?」
後ろの壁がぶち破られ一人の怪物が姿を現した。その怪物は全長三メートルにも及ぶ巨漢。頭に角を生やした『鬼人』だ。
「愚かな人間。王の所在を教えれば命だけは助けてやらんこともない」
言葉の重圧。全ての意思を叩き伏せる様な重圧のある言葉だ。
「王城のどこかにはいるんじゃないのか」
「そうか」
いきなり宙に直径二メートルほどの黒い炎の玉が現れ
有栖川に向かって放たれた。
バシュ…
しかし、二メートルほど手前で霧散した。
「ほう、面白い」
次々と炎の玉が形成され放たれるが全て霧散させられた。
「ふむ、これはどうだ?」
三つ同時に形成され、天井に向かって放たれた。
ガラガラ!
「チッ!」
横に飛び退き次々と降下してくる瓦礫を避けようとするが、その内の一つが左肩を掠める。
黒い学ランに赤黒い血が染みていく。
「他愛ないな」
「ガ、ガハ!」
背後に回られ蹴りをくらい、受け身も取れずに瓦礫に突っ込む。肺の中の酸素が強制的に外に放出され過呼吸気味になる。
「ふん、運が良かったな小僧。私も無益な殺生は望んでいない」
その鋭い眼光が捉えたのは王とその護衛達だ。その中には英雄騎士の姿も見える。
「ひ、ひいぃ!?ランドロフ!殺せ殺せ!宝具を使って今すぐ殺せ!」
「しかし!勇者が巻き込まれてしまいます!」
「馬鹿者!役立たずの勇者の中の落ちこぼれなど関係ない殺せ!」
「…承知しました。王は護衛と共に先へ」
ドタドタと明らかに運動していなさそうな体を酷使し走って行く。護衛には後五人の騎士がついていた。
「すまないな少年…」
少し俯き、『騎士の聖剣』を振るう。距離は二十メートル、本来攻撃が届くはずもない。
「君は本当に無効化してしまうんだね!」
魔族の男は避けた。その場所、有栖川諸共数十の斬撃の様なものが切り刻んだ。いや、切り刻むはずだったが、有栖川の半径二メートル以内には一切到達していない。
「その宝具、お前が英雄騎士か」
「そちらこそ、その巨大な体に立派な角。魔王候補者の一人オズウェルとお見受けする」
「いかにも」
「その命、狩らせていただく!」
オズウェルは縦横無尽に駆け回る。それを追うように数十の斬撃が壁や地面、建物を切り刻んでゆく。
「厄介な宝具だ」
「本気を出さないとすぐに終わりますよ!」
オズウェルの頬を斬撃が少し掠め血が垂れている。
その血を手で拭うのではなく、腰にある金属棒を取り、血を拭った。金属棒は鉄のような色をした五十センチほどだったが、血を吸収し鉄のような色は不気味な赤色に変色した。
「それが貴方の宝具ですか」
そう言いながらランドロフは有栖川を確認する。死んではいないが痛みで気を失っているようだ。
「余所見とは随分舐められたものだ」
いつの間にか距離を詰められていた。オズウェルの持つ金属棒も立派な戦鎚に変形しており、ランドロフを横から容赦なく襲った。
「ッ!重い!!」
数十の斬撃を集め壁を作るが、壁ごと吹き飛ばされてしまう。有栖川とは反対側の瓦礫の山まで飛んでいく。
「そろそろ頃合か、この小僧は貰ってゆくぞ」
「待て!」
オズウェルは有栖川を抱え、切り刻まれた天井から飛び去ろうとする。それを追うようにランドロフも強化された身体能力で凄まじい速さで跳躍する。
「便利な小僧だ」
「ッ!これも無効化されてしまうのか!?」
ランドロフの跳躍は聖剣が有栖川の半径二メートル以内に侵入したと同時に墜落へと変わっていた。宝具としての能力が無効化されただただ重い剣へと早変わりし、ランドロフの身体能力も元に戻った。いつの間にかオズウェルの金属棒も元の大きさと色を取り戻している。
「この小僧よりも心配すべきものが外には広がっているぞ?英雄騎士よ」
そう言い残しオズウェルは二度目の跳躍を果たした。
聖剣の宝具としての能力を取り戻したランドロフはオズウェルを追うように跳躍し、外の世界を目の当たりにした。
「な、こんな事が…」
勿論オズウェルは見失ってしまっている。
しかし、目の前の惨状は戦争の元凶を逃がすことをそんな事と思わせた。
まさに地獄絵図。逃げ遅れた市民の無惨な死体が転がっており、港から侵入され、破壊行為の爪痕が深々と残っている。ランドロフはこの光景に唖然とし言葉を失った。
港の騎士達は見事に苦戦していた。戦力では『近衛騎士団』の方が魔族よりも勝っていた。しかし、厳しく苦しい戦いを強いられた理由は明らかだった。
『近衛騎士団』が港に到着した時にはすでに百人以上の市民や騎士が犠牲となっていた。
魔族はその死体を大いに利用した。
「生きる屍」という闇属性の魔法は死体を操ることが出来る。しかもその屍は力を得て蘇る。この魔法に百戦錬磨の古株の騎士達以外は怯み不意を付かれて殺され、その騎士もまた蘇り敵となる。
ランドロフが見た無惨に殺されていた市民の死体は「生きる屍」によって蘇させられた敵だった。
こうしてラノム王国は敗戦し、人類に黒星を与えた。復興するのにも底知れない時間と労力が必要になるだろう。王と英雄騎士は別々の場所でこの惨状を見てそう思った。
気がつけば牢屋に入れられていた。
人間や罪人が入れられていたのを父上と共に外から見た事がある。あの時と立ち位置は逆だ。
父上は母上、あの女に裏切られたのだ。あの女に。
いつも父上を守っていたあの三人にさえバレなければ。
あの女が、あの家来達が、それに付き従う魔族が。
全てが憎い…魔族を滅ぼす為なら何でもしてやる。
そして父上の願いを…
「ん、ここは?ッ!?」
手には鎖がはめられておりとてもじゃないが外れそうにもない。
「やっと気がついたか人間」
目の前には同世代であろう超美少女が牢屋に入れられていた。
大きな瞳だが、激しい憎悪が溢れ出そうなほど鋭かった。
「こんな所に入れられる人間がいるとはな。一体何をしたんだ?」
「何もしていない。ここはどこだ?」
「なんだ知らないのか、通称『最終監獄』。処刑を免れないほどの大罪人がぶち込まれる所だ」
そういう彼女は何者なのだろうか。
「俺は確かバカでかい奴に吹き飛ばされて」
「そうだ。私がここに入れた」
巨漢が物音たてずに歩いてきた。
「オズウェル!!貴様よくも人類を!」
「何故そんなに怒り狂うことがある?先代の意思に賛同する者が居なかったからお前はそこにいるのだぞ」
「お前らが殺したくせに!よくもそうぬけぬけといられるな!」
溢れ出んばかりの憎悪は完全に溢れだし、その矛先は目の前の男に向いている。
「そういうな、私は次の魔王になる男だぞ。あんな愚行を許すわけに行かないだろう?魔族の恥だ、お前も含めてな」
「貴様!!グッ!こんな物!」
「やめておけそれ以上前には出られない。出たとしてもお前の命は絶たれているぞ」
有栖川に付けられている鎖とは別物の、青白く光る鎖で目の前の美少女は囚われている。
引っ張れば引っ張るほど電流が流れる仕組みだ。
「それにお前の命はもう用済みかもしれんぞ、この小僧のお陰でな」
「なに!?どういうことだ?」
つい口から言葉が出てしまった。巨漢と初めてこっち目があった。
「説明していなかったな、お前は私が連れ去りここにいる。あの忌々しい結界を破壊してもらうためにな」
「なんだと!?あれはそこらの兵器で壊せるものではないはずだ!」
「ああ、小僧の能力は無効化だ。結界も破れるかもしれん」
「まさか、『魔の宝玉』の封印を俺に解かせる気か!」
(魔王の娘が今まで生かされていた理由が無くなれば確実に殺される!そして用済みになった俺も!!)
「そういう事だ、それでは次に会う時には命の覚悟を済ませておけよ、小娘と小僧」
物音たてずその巨漢は闇へと消えて行った。
目の前の美少女は下を向いたままピクリとも動かない。
「おい大丈夫か?」
「すまないな人間。私がしっかりしなかったから」
萎れたほうれん草の様だ。生気が全く感じられない。あの鋭い目力も今となっては消え失せている。
「ああその通りだ。お前が魔王にならないから候補者達は魔王になる為に人類と他種族を滅ぼそうとしている。俺のクラスメイトも戦争に駆り出されているんだぞ!」
あっさり肯定された事に驚き、悲しげに俯いたが、人類を滅ぼそうとしていることには本気で驚き目を見開いて怒りを露わにした。
「そんな事に!?クラスメイトというのは分からないが本当にすまない…」
「そんな事は後回しだ。いくつか聞きたいことがある」
「何でも聞いてくれていい、出来る限り答えよう」
「じゃあ一つ目だ。そんな堅苦しい話し方しか出来ないのか?」
「こ、これでも一国の王の娘としての振る舞いが、あっ、」
「どうでもいいけど普通に話せるんだったらそうしてくれ、息苦しくてしょうがない」
超が確実に付く、小南何かとは比べ物にならないぐらいの美少女があんな口調では息苦しいにもほどがある。
「そう、ね。ごめんなさい。こんな感じかしら?」
少し恥ずかしげにこっちを見てくる美少女には思うことが無いわけでは無いが今はそれどころではない。
「ああ、それで二つ目だがあいつは気づいていないかもしれないが俺の無効化は宝具の可能性が高い。けど本体も確認出来ずに常時能力が出ているんだ」
「それは霊素濃度が薄すぎて充分に行き渡っていなかったのだけだと思う、ます。」
語尾を言い直す所が何とも愛くるしい。
「霊素濃度って?」
「魔法を使う時に空中から取り出すもの、それを使って魔法を行使するのだけど、宝具を扱う者は体内で常に生産出来るそうよ。…貴方もここの霊素濃度で少し過ごせば体内で生産できるようになるはずよ」
宝具が無効化された時に破壊まで至らなければ、ここを脱出出来るはずだ!!
「ありがとう。これで脱出の目処が立った」
「へっ!?脱出なんて不可能よ!ここには『夢幻の松明』があるわ…この道を数メートル進んだだけで囚われるわ!」
「それは宝具だろ?なら大丈夫だ。宝具も無効化の対象だからな」
「そんな宝具聞いたこともないわ!?貴方は一体何者なの?」
「質問はまだだ。最後が一番大事だ。お前は魔王になりたいとまだ思うか?」
「え、なりたいけど私じゃもう…」
現状を見て言っているのかもしれない。人類と戦争をしている国の王が敵国と仲良くしましょうなんて夢物語かもしれないと。
「なりたいなら助けてやる。実際クラスメイト達の仲間になる必要なんてどこにもないからな。俺は俺で帰る」
「帰るって人類の元へ?それならすぐに帰れるじゃない」
「違う。さっきの質問の答えだ、俺は異世界から来た便利屋だ。
客の依頼には答えるさ、勿論報酬は頂くけどな」
「ありがとう、本当にありがとう。私は次の魔王、名前はアズウィルよ。貴方に依頼するわ、私を魔王にして!報酬はなんでもするわ」
「了解だ、報酬は後々考えるとして取り敢えず脱出するぞ、時間がない。奴はその内来るぞ」
「ええ、よろしくね私の勇者様!」
初めて笑顔を見せた彼女はとても美しい花の様だった。
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