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アナザーエデンワールド〜計画された世界で今日を生きる〜  作者: ヒナの子
〜序章〜地球での生活編
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第四話 特殊異能部隊本部

「おはようございます。よく眠れましたか?」


 政府が用意した検査室と言っても別に特別凄いこともない。普通の検査室だ、、一点を除けば。


「よく眠れましたよ。何度来ても慣れないですね、この人達がホムンクルスだなんて」


「そう? ホムンクルスも人間と変わらないわよ。ただ食事と睡眠が必要なくてちょこっと調整が必要なだけの人間よ」


 この施設はこの主任である彼女以外はホムンクルスの従業員が多い。情報漏洩を防ぐ為らしい。


「理解していても納得出来ないこともあるんですよ」


 地下では一ヶ月以内に交換がされている。現代の技術では調整をしっかりとおこなっても一ヶ月が限度らしい。


 人工知能をロボットに搭載すると人間に刃向かった時に対処できなくなる恐れがあるから人間の手がないと生きられず、その上人間と同じ性能を持つもの、ということでホムンクルスだそうだ。


 正直、全員同じ顔なので怖いとしか表現出来ない。


「じゃあそろそろ始めるわ。いつも通りお願いね」


 横の特別な検査室に入り、指輪に力を込める。この部屋は原理はよく知らないし、説明されても分からないが、自己宝具を使用した時に必ず放出されているという未知の物質が生み出す波動を吸収し、計測するらしい。


「お疲れ様。検査結果はまた後でね」


「はい、ではまた」


「失礼しまーす! あれ、あっとえっとんっと……そう思い出した! 天野特佐!」


「すいませんが人違いです。では失礼します」


「いや、合ってるわ。天野特佐、無事十五歳になっちゃったからね」


 やっぱりか、、異能者は軍の中でも地位を得る。ほとんど全員が特佐だ。例に違わず俺も特佐になってしまったと……給料貰えるんじゃね?


「そうだったんですか、流石に未成年なだけあって偽名なんですね」


「一応情報漏洩の対策にもね。稀にニュースとかで名前でちゃって学校が大騒ぎになるとかね」


 異能者は普通に学校にも行く。就職先が軍になっただけだ。それでも任務でパラレルワールドに行かなければならない時は軍の病院に入院するということになるという噂だ。


「そうですか。ではまた後ほど、失礼します」


 次は護身術の講義アンド実習だ。正直に言うとさっきの検査の時に能力を使ったから疲れて寝てしまいそうだ。


「では講義を始める。と言ってももう一年にもなるし、教えることもないな。ということですぐに実習だ!」


 どうやらワンツーマンの講義で寝ることだけは避けれたらしい。真に地獄なのはこれからなのだが…


「どうしたそんなものでは勝てないぞ!」


 なににだよ!って反論したくなるが、毎度の事ながら一本も取れないどころか、希望がない。


「ったく。もう少しやる気を見せんか!」


「作戦を考えてたんですよ。まあ、思いつきませんでしたが」


「お前はいちいち考えすぎなんだよ、単純に相手の攻撃だけに意識をさけ!」


 そんなこと言われてもな、考えちゃうだろうが!左右からの蹴り、ガードが左右に偏ってしまう。


「だから、考えるな!」


「思考するなと?」


「ああ、もっとがむしゃらにこい!」


 護身術を習っただけなのに自分からも攻撃を仕掛けないと勝てない。それならもうがむしゃらにこいと。めんどくさいがこのままなのは癪だ!


「分かりましたよ!」



 三十分後、、


「よし、ここまでだ! 攻めにかける比重を間違えるなよ。シャワー室は奥の扉の向こうだお疲れ様」


 結局一本も取れなかったがまだマシな勝負ができた。

攻めすぎると護身術が間に合わなかったり、守ってばっかりだと攻めるタイミングが無かったり、掴めたことは大きいと思う。こんな訓練毎日してる軍兵には本当に頭が上がらないな。


 シャワー室に入り、ベタついた汗を流す。脳と身体が共に悲鳴をあげているのが実感できる。疲れたなと思いながら体を拭き服を着ている途中でどこかで聞いた声と共にシャワー室の扉が開け放たれる。


「天野特佐! 訓練後申し訳ないですが。一つ手合わせしていただけませんか?」


「着替え中なのは分かりますよね、佐伯特佐」


「はっ! もしかして怒っていらっしゃいますか?」


 異性が目の前でパンツ一丁なのに何の動揺もせずに話をしていることに多少のイラつきは覚えるが、それよりも寒いから閉めてほしいだけだ。


「怒ってないから扉をとりあえず閉めてください」


「失礼しました」


「で、何の用でしたっけ?」


 訓練服を着ている目の前の女性は、現在唯一同じ年の佐伯(さえき) 花蓮(かれん)特佐である。

昨日からここで講義と実習を繰り返させられているらしい。


「手合わせをしていただきたいのです」


「訓練が終わった今ですか?」


 こんな疲れているんだから帰ってゆっくりしたいんだけど。興味が無いわけではないんだよな。

元々格闘技をやっていたそうで中々に強いらしい。と、ここまで全てお世話になっている黒羽(くろばね) 征也(せいや)中将からの情報なのだ。

黒羽中将はここの訓練官の一人で俺も担当して貰っている。


「明日は休暇なんです。なので天野特佐と手合わせ出来るのは今日だけなんです。お願いします!」


「そうなんですか、分かりました。ですが検査結果をもらいに行かなければならないので少し待っていてください」


「分かりました。今日も三時間訓練したところなので少しだけ休ませていただきます」


「ひとつ聞いてもよろしいですか?」


「なんでしょう?」


「特佐の担当は浦賀中将で合ってましたか?」


「はい、それがどうかしましたか?」


「い、いいえ何でもないです。それでは少し待っていてください」


 浦賀中将と言えば訓練官の中で最恐とされている訓練官だ。なぜ最恐かというと、実習の時にとても厳しく、手加減がないらしい。

 戦闘狂という噂は本当そうだ。



「失礼します。検査結果を取りに来ました」


「ええ、少しそこに腰掛けて頂戴」


 電子映像型ファイルを持っていつも通り難しい顔をしている。


「検査結果はいつも通りといえばいつも通りで、不明な点もいつも通りね」


 映像が空中に映し出される。いつも通り微弱な波動と総合ランクのDというアルファベットがあらわになる。


「能力は世界有数の具象化能力、その中でも一級品のはずなのに、まるで抑え込まれている様に波動が微弱なのよね」


「大したこと出来ないじゃないですか。自分が使えること自体がおかしいんですよ」


「そうねぇ、でも具象化能力は五感全てに作用してると言っても過言ではないのに、この数値はねぇ」


「言っても仕方がないですよ。ああ、一つ聞きたいことがあったんですよ」


「なあに?」


「同じ年齢で同じ階級の人にタメ口使っちゃ行けない場面ってあります?」


「ないわね。黒羽中将と浦賀中将と久保中将もタメ口よ常にね」


 久保中将というのも訓練官の一人だ。三人は同期でとても仲がいいというのはこの施設でも常識になっている。


「そうですね。では人を待たせているので失礼します」


「明日ちゃんと来なさいよ」


「分かってますよ」


 お辞儀を一つして扉を閉める。そしてため息を吐きある提案をすることを決意した。


「ごめん待たせて」


「いえ、急なお願いをしたのはこちらなので」


 同じ年なのに敬語で距離があるのが丸わかりだ。


「一つ提案があるんだけど、お互いタメ口で話さないか?」


「え? いいんですか?」


「そりゃ同じ歳なんだから敬語使う必要なくない?」


「そうですね。じゃあそうさせてもらいます」


 昼飯時までもう少しのこの時間帯、昼飯はホテルに帰る途中で食べるつもりだったがここの食堂で食べる事になりそうだ。


「うん。じゃあルールはどうする?」


「そうですね、シンプルに参ったまででどう?」


「よし、それでいこう」


 五メートルほど離れ向かい合う。程よい緊張感の中、訓練所に静寂が訪れる。


「「お願いします!」」


 戦いがはじまった。両者最初からトップギアだ。左右からの蹴りと突きを組み合わせた見事なコンビネーションからの掴み技の予定だったが、最初の蹴りを放つ前に拳が飛んできた。それを何とか防ぎそこから攻められに攻められた。


 しかし、実習のお陰もあってか反撃に出る方法が頭より身体が理解していたのだろう。体を横にひねり拳を避けながら回し蹴りを放つ、片手で防がれるが……形勢逆転だ!

 予定通りに左右からの蹴りと突きを繰り返し、無理に反撃してきた拳を掴み背負い投げを決める。


「ま、参りました。途中の回し蹴りはキレが凄かったよ」


「それはどうも、お昼どうするつもり?」


「うーん、食堂かな」


「一緒だな。じゃあシャワー浴びて行こうか」


「うん。つきあってくれてありがと」


「大したことじゃないし、同い年と組手をする機会なんてないから新鮮で良かったよ」



 がやがやと騒がしい声は一つもせずほとんど人のいない食堂。チラホラと人はいるが大体が黙々と食べている。


「ここが食堂か、思ってたのと違うな」


 ポツリと呟いた横の彼女は周りを見る。

 黙々と食べている人達は大体がこの施設でお叱りを受けに来た人達だ。

 ある男は薬品の入荷が遅れているとか(無茶な量のせい)、

 ある男は設備の点検の不十分とか(異能者が能力を気まぐれに使ったせい)。

 ある女は軍から派遣され予算に異議を申し立てられたりとか(充分すぎるほどの予算のほとんどが異能者が壊した設備の修理代に消えたせい)等など。


 それらが示すのはこの施設がそれだけの権力を持っていて、その権力を容赦なく使うことだけだ。

ここに来るたび可哀相だなと思っている。


「そうか? もう慣れたな。それよりもあのテンションはどうしたんだ? だいぶ低くなってるぞ」


「言わないで、もう限界なんです……」


「午後は何時からなんだ?」


「三時半です、鬼だと思いません?」


 時計の針は二時を指そうという所だ。


「帰れるのは五時か、お疲れ様だな」


「天野特佐、あれ? 本名教えてもらってない」


「教えてやるから先に早く頼め」


「へっ? ホムンクルス!?」


「ここの従業員はほとんどがホムンクルスだろ? 聞かなかったのか?」


「もう! 理解と納得は別物なの!」


 今の言葉に近親感を覚え喜びを感じつつ、安心した有栖川の元に熱々のきつねうどんが運ばれてきた。



「えっ! あの災害のあった都市の高校なの!?」


「別にそんなに驚く事でもないだろ」


「いえいえ、都市伝説になりつつあるのよ? ほとんどの人が入れないし、そもそもあるのって感じで」


「普通にあるんだけどな。そういえば何で異能者になろうと思った。ここに来る理由なんて早々ないぞ」


「そんなにおかしい事なの? 超能力いりませんかって言われたら、欲しいですって答えるのと変わらないよ」


「戦争では大いに利用される。まだ戦争は起きてないけどいつ起こるか分からない。どんな自己宝具か分かったもんじゃない」


「じゃあ何で、貴方は何でここにいるの?」


 箸を置いて真剣な目で聞かれる。目が合うと自然と逸らしたくなるが、見つめ合って逸らした方が負け的な事を不意に思い出し、つい真剣に考える。


 指輪を政府に渡してしまえば何も無かったように日常に戻れただろう。もし仮にそうしていて適性者に選ばれ直した時、異能者にはなろうとしただろうか?


「まあ、成り行きでだな」


 結局、いつもの自分に使う言い訳しか出てこなかった。自分の心の底で何を思っているのかを理解していない。


「まだ名前教えてもらってない、教えて?」


「はいはい、有栖川冬人だ」


平田柚姫(ひらたゆずき)です、これからよろしくね」


 互いに本名を知ったところでそのまま解散した。学校内で会話などほとんどしない彼にとって今日の午前は中々に楽しいものになった。めんどくさい異能者達とも遭遇せず、同期もでき、充実した半日だった。


 午後は秋葉原などアニオタらしい生活を送った。


 日常生活でも適度にトレーニングはしているが、それでも勿論筋肉痛にはなる訳で、朝からしっかりと太ももが吊った……


「天野特佐、昨日はしっかりと眠れたか?」


「おはようございます久保中将。お陰様でぐっすり眠れました」


「そうかそれは何よりだ。今日の会議は荒れそうだからな」


「何かあったんですか?」


「聞けばわかるさ」


 目の前には扉が一つ、今日の会議の会場だ。今日は二週間に一回の定例会議だ。この施設に携わる全員が出席にするが、それでも多くて二十人だ(任務のある人が来れない為)。


「「失礼します」」


「後は浦賀だけか、あと三分だな」


 席に腰掛け時計を見ると針は九時にさしかかろうとしていた。あと三十秒で、九時。遅刻が許されるほど緩くないが、誰一人として浦賀中将の遅刻を心配する人はいない。


「失礼します」


 残り十秒になると同時に浦賀中将が現れた。

 浦賀名物として語られる『十秒前行動』だ。

 まだ一度も前後三秒を過ぎたことがないらしい。


「では定例会議を始める。先ずは今期の適性者の数だ。例年通り百人と少しだ。既に一人志願者が出ているが、挨拶はまた今度して貰う。そして有栖川冬人君は天野海斗特佐となった一足先に自己紹介を頼む」


「はい。天野海斗十五歳、本日より特殊異能部隊に配属になりました。これからどうぞよろしくお願いします」


 お決まり通りの自己紹介にパチパチパチとお決まり通りの拍手が起こる。


「次に本題である魔術大国の動きについてだ。黒羽中将」


「はっ。ここ二週間で動きがあったのは二カ国、英国と大東亜帝国です」


 中国という国は十年ほど前に過激派異能集団によって滅ぼされ中国周辺の国々と合併し、大東亜帝国となった。


「先ずは英国です。遂に戦争の舞台に英国の異能者が現れました。欧州は英国、仏国、伊国、独国、西国、希臘(ギリシャ)の六カ国になりました」


「異能の能力は?」


「まだ情報は入っていませんが、戦場の様子を見た限りでは身体強化型だと思われます」


 身体強化型は最も多く確認されている能力で、全身から神経や細胞一つまで強化出来る。


「上位か?」


「いえ、上位能力は見られませんでした」


 上位能力。身体強化の持つ最終手段のようなもの。体力を大幅に消費する代わりに人外の能力を手に入れる力。


 全て自己宝具次第だ。


「次に大東亜帝国ですが、日本国内で組織の侵入が活発になってきているようです。犯罪組織との接点が見られました」


「どの組織だ」


「『堕天の熾天使』だと思われます」


「やっぱりか、奴らのアジトはまだ見つからないか」


「ええ、報告は入っておりません。」


『堕天の熾天使』とはこの国最大の犯罪組織だ。


最大の特徴は異能者がいる事だ。勿論自己宝具を持っている。今のところ二人の異能者が確認されている。共に特殊感覚型だ。


 特殊感覚型は五感の内三感覚までに影響する能力。強ければ感覚を奪う事も出来る。


「いいですか?」


「天野特佐発言を許す」


「ありがとうございます。今週の水曜日と木曜日に襲撃にあいました。一人でしたが体術は訓練されたものでした。そして、仕留める寸でのところで逃げられたのですが」


「どうしたんだ逃げられるなんて珍しい」


「特殊感覚型の能力を受けました。背後から声がしたと同時に不可視になられました」


「それは全身か?」


「はい。戦闘していた相手と異能者は別でしたが共に全身が不可視でした」


「そうかご苦労だったな」


「いえ、自分の街のことですから」


 着席し、前を見ると雨宮(あまみや)司令官が難しい顔をしている。雨宮司令官はこの部隊の長で異能者でもある。


「そうか。他に何かあるか?」


「仏国の異能者の数についてだ。三人が志願したらしい」


 発言したのは異能者である楢崎特佐だ。感覚超過型で地球の二分の一の面積の中で敵を感知できる。しかし、相手の容貌を知らなければ探知出来ないため使い勝手の悪い能力として知られている。


「多いな。他にわかったことはないか」


「ないなら今後の方針を伝える」


「異能者達は引き続き任務を続行。黒羽中将、久保中将は『堕天の熾天使』の捜査を。浦賀中将と、唐沢大将は私と共に軍部へ、なにか質問は」


「ではこれで定例会議を終了とする」


 一斉にガタガタと席を立ち会議室を後にする。

 めんどくさい異能者とのお遊びが始まろうとしていた。

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