第二話 ストーカー
今日は雪が降っている。校庭は真っ白とまではいかないが、白くなっているのがはっきりみて取れる。
あと四日のうちにストーカー被害を抑えなければならない。いつ黒封筒が送られてくるか分からなのだからさっさとテキパキ済ませたい。電力の無駄使いができないこの街でもテレビとパソコンぐらいは普通に使える環境にある。
よってアニメを見ながら修理をすると昨日のように寝不足になることが多い。
「おはよう、今日は寝不足じゃないみたいだね」
「ああ、小南。今日の放課後付き合って欲しいところがあるんだがいいか?」
ギョッとクラスの男女共にこっちを見ている。お前ごときが何してんだよという意思が伝わってくる。
「んー、うん。いいよ!」
予想外というよりも、あちゃーって顔で俺ではなく小南を見ている。そう、小南桜は頼まれたら断れない系の人間だ。
「じゃあ、校門前で待っておいてくれ」
作戦はこうだ。
二人で出かけるのを誘う。出かけて様子を見る。
→生徒か一般人かを見極める。
生徒の場合、毎日続け相手をつる。
一般人の場合、手荒い真似になってでも探し出す。
これを続ければ早くて今日、四日後までには完了できるはずだ。
放課後…
「すまない、少し遅くなった」
教室を出たのは最後、ほとんどの生徒は帰ったはずだった。
「全然いいんだけど、、薫がどうしても付いて行きたいって言って聞かなくて」
仙崎薫は大人しい系の眼鏡女子だ。こいつが付いてくるのは予想外だが他に人がいないだけマシだな。
「ああ、構わない。じゃあ行くか」
「どこへ?」
「少し街のショッピングモールにな」
目的は街の人気スポットの一つ大型ショッピングモールだ。時間は四時半前、時間は間に合いそうだ。
「何を買いに行くの?」
三人で並んで歩いている内に一つわかったことが一つ。クラスメイト達がさっさと帰ったのは一回帰ってからつけるためだったらしい。
「ちょっともうちょっと端によりなさいよ」
隠れる気もなく堂々と付いてきている。
小南と仙崎には無視してくれと頼んだがこれじゃクラスメイトの中にいたら分からないじゃないか。
それからマフラーを選んでもらい、親戚の子の誕生日プレゼントということにした。
確かに親戚の女の子がいるので嘘ではないが、輸送料と天秤にかけている最中だ。
「今日はありがとな」
「うんうん。私も楽しかったよ、薫は結局何がしたかったのか分からなかったけれどね」
仙崎はデパートから出るときに用事があると言ってどこかへ行ってしまった。
「それはよかった。また明日」
「うん。バイバイ」
一日目はさほど意味なかったか。残念だが切り替えてストーブの修理に精を出そう。
そう思って帰ろうとした時、ザッと歩き出す音がした。 今まで人の気配がなかった通りにいかにも不審者感丸出しの男が立っている。
確実にこっちを睨んでいるのは分かるがまだストーカーとは断言できない。
ザッザッザッ。
結局そのまま家の方に歩く事にした。もしついてくるようなら人気の無い路地裏にでも誘い込んで直接聞いてみようと思っている。
これで犯人なら一日で終わらせられる。そうすればラノベの新刊を買うお金も出てくるだろう。
心の中でニヤニヤしていると自宅が近くなってきているのに気づいた。
不審者感丸出しの男は距離を保ちながら確実についてきている。
改めて思った。ストーカーって怖っ!
ザッザッと足音で確実についてきているのが分かるし、何しろいつ何されるか分からない。
家に逃げ込みたいけど逃げ込んだら住所が知られるし、交番に逃げ込んでも大した対応はないだろう。
そろそろ頃合いか。もうここをまっすぐ行って右に曲がれば家があり、ここをすぐに左に曲がれば人通りがほとんどない空き地に出る。
「小南桜のストーカーはお前か?」
空き地に入り正面を向いて問いを投げかける。背丈は百七十五の俺と変わらない。
ザッ!
いきなり殴りかかってくる。
立場上、軍事的な護身術は心得ているものの、それでもその男の拳は鋭く感じた。
かろうじて避けたものの次の一手を防ぐ術はない。
「痛って。おい、おっさん何もんだ?」
ザッ!
スピードが分かるならば対処できない攻撃ではない。パンチを二回横にそらし、横腹に肘打ちを入れる。
「君こそ何者だい?」
おっさんではなくお兄さんの声だった事には驚いたが、キレが良くなりスピードも上がる
。
「只の高校生だよ」
さっきの様にスムーズに攻撃が通らなくなった。それに武術的な力はここらが限界だった。
「本当に只の学生かな?」
何かを試すようにスピードを上げてくる、奥の手を使えば勝てるだろうが、出来れば人に見せたくない。
「何もしないならそろそろ決めるよ?」
ストーカー退治から目的が外れてきている。
そもそもこいつの目的はなんだ?本当にストーカーなのか?
「あんた本当に只のストーカーじゃないだろ。ッ!」
頬に拳がかする。一度間合いをとりなおす。
逃げるにしても出口は入ってきたところしかなく、そこはすでに抑えられている。
「僕も初めてなんだよ。手こずらせないでくれ!」
「ッ!蹴りか⁈」
今までは拳しか使ってこなかったせいで、足への警戒が疎かになっていた。
かろうじて防いだが態勢が崩れ、ガラ空きになった横腹に蹴りが入るはずだった。
ガキン‼︎響いたのは金属同士がぶつかる音だった。
「痛て、なんで横腹に金属入れてんだよ」
どうやら爪先に金属を仕込んでいたらしい。
こっちは指輪の能力で鉄板を模倣し、作り出した。
防ぐための役割だけだったのですでに仕事を終え消えている。こんなものぐらいを作るだけでも、作る能力を使うときはかなり疲れる。
「それとも今のがそうなのかな? 今日のところはそれまでにしよう、また会おう。」
「待て! お前は何がしたかったんだ?」
「ちょっとした探し物の任務さ。」
ザッザッザッ。
三センチほど積もった雪が潰れる音が静かな夜に響く。疲れた少年はその場に座り込もうとするのを我慢し、家路に着いた。
彼らの戦闘を見たものは彼らともう一人、少女が少年が家に帰るまでの一部始終を観察していた。
「なんだったんだあいつは。一般人はあんなに強くないぞ」
護身術ではなく格闘技だったと思う。どうもストーカーって感じではなかった。
「飯は、しまった火曜市は今日だったか。
コンビニでも行くか」
食費を浮かす為に火曜市にまとめ買いするのが習慣だが、依頼があるとつい忘れてしまう。
コンビニでカップ麺と卵などの食材を買って店を出た。帰り道、二人組の影が見え、一人は俺と同じぐらい、もう一人は十センチほど小さい。男女だ。こういうのに出くわすと横を通りたくない気持ちが無性に湧き上がってくるのはなんでだろうか。
しかし、そうはならなかった。二人は目の前で別れ、女の方がこっちに歩いてきた。
「有栖川。こんばんわ」
「ああ、それじゃ」
この短い会話になんの意味もなかっただろう。昼間少しだけ一緒にショッピングモールを回った少女と夜道で出会ったそれだけだった。
しかし、後から思うとこの時の出会いを心の底から恨むのだった。
「最近はカップ麺もおいしくなったな」
一人寂しくボロアパートの一室で呟いた。
寒くなったこの季節の温かいカップ麺は至高の食べ物だと感じ、右手でカップ麺を食べ左手でラノベのページをめくっている。
「そろそろするか」
カップ麺を食べ終わり三十分くらい経った夜の十一時前、このまま風呂に入りたい所だがまだやるべき事が一つ残っている。
「六つか、どこの誰に使われるのやら」
独り言を呟きながら送られてきたストーブを部屋に並べていく。ワンLDKのこの部屋にストーブを六台も置くと中々に窮屈だ。
「解析開始」
指輪は普段は見えないようにしている。概念収納という能力らしく体の中に埋まっていく。最初はかなり気持ち悪かったが今ではすっかり慣れている動作だ。
解析
指輪の能力の一つ。その物の作りが理解でき、自身の知識内の物質と合致するものも判明する。
模倣
もう一つの能力。知識にある物を役割を果たすまで具現化させる能力。物質名の指定もできる。
この二つが指輪の能力だが、解析は体力を使わないが、模倣はごっそりと持っていかれてしまう。ストーブの修理はアナライズで壊れている部分を見つけ、その部分にイマティションで本来の性能を持った部品を付ける。
たったこれだけだが新品同然に仕上げるには中々の時間と体力と根気が必要なのだ。
寝たのは四時、起きたのは六時半。
登校したのが七時半過ぎ。
勿論睡眠不足だが、四台終わらせる事ができた。
「よっ! また眠たそうだな」
いつもよりも暗いイメージがある拓夢が挨拶してくる。
「おはよう。いつもよりテンション低いな」
「そ、そうでもないよ。少し疲れてるけどね」
「そうか、体は大事にしろよ」
「お前には言われたくないな」
そんな事を話す事ができる気力が残っていた事には少し驚いたが、すぐに睡魔が襲ってきた。
「んん? 小南は休みか。みんなも寒くなってきてるから気をつけろよ」
小南が休んでいるのはマズイ。ターゲットがいなくなったら犯人をあぶりだせない。
「冬人、お見舞いについて来てくれないか?」
授業が終わり、さっさと帰ろうと教室を出たら拓夢に捕まった。
「いやだ。行きたきゃ一人で行け。じゃあな」
「ま、待ってくれよ。どうせヒマだろ?」
「失礼な、帰って寝なければならない」
「お前は俺の友達だよな?」
「…まあ」
「俺の気持ち知ってるよな」
「ああ、大声で言ってやってもいいぞ」
「いやそれはやめてくれ。なあ分かるだろ?」
好きな子のお見舞いに行きたい。でも一人は寂しいから一緒に来て欲しい。出来れば全く彼女に興味がない人に。
「二百円で手を打とう」
「乗った!」
即答だった。もう少し値段上げればよかった……
メンドくさ。
ピンポーン
「はーい。あれ? 満堂くんと有栖川くん? どうしたの?」
「いやあの、お見舞いに来たんだ」
「ありがとう!今開けるね」
ガチャ。門の南京錠が外れてドアが自然に開いた。どっからどう見ても豪邸だ。拓夢の家とそんなに変わらないと思う。
「すごい豪邸だな」
「そう?」
こいつに聞いたのが間違いだったと後から思った。
「「お邪魔します」」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ。誰もいないから」
「それでも人の家に立ち入るのは緊張するんだよ。ましても女子の家ともなるとな」
賛同を得るために言ったのに、隣の友達は完全にどこかへ飛んでいっていた。
「拓夢?」
「ああ、そうだね。あっこれ元気になったら食べてくれ」
「わあ〜ありがとう」
「風邪はもう大丈夫なの?」
「うん。朝少しあっただけだから」
「そっかよかった」
「それじゃこれで」
さっさと終わらして帰ろうとしたが、
予想通りとかなんとか
「上がっていってよ。ケーキあるからみんなで食べよう!」
という展開になった。
小南の部屋は二階で俺の部屋とは比べ物にもならなかった。
その後は三人で話して三十分後くらいには帰った。
他愛のない話をしただけで俺が必要な意味がわからないほど我が友はよく喋っていた。
「じゃあ今日はありがと、楽しかったよ」
「ああ、お前もよく頑張ったな」
別れて家に着き、新しい依頼がないか確かめると。
黒に金で文字や柄が描かれた封筒。
政府からお達しが来ていた。
少年は半泣きになりそうなぐらい落ち込み、日時を見て更にテンションが下がり、すぐにストーブの修理に取り組み始めた。
拝啓 有栖川 冬人様
能力診断、護身術講習の義務を命じる。
十二月二十三日金曜日に特殊異能部隊本部まで来られるよう。 日本政府