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極点にて

 南の極点。

 金属音と魔法の明滅が目まぐるしく入れ替わる。

 その中心にいるのは、紅く白い炎を纏った一人の人外たる者、鬼。

 どんな武器も、強力な魔法も、効果の程は果てしなく薄い。

「弱い弱い。転生してチート能力貰ってるんでしょ? それでこの体たらく。どう頑張っても私の勝ち、かな」

 手など一切抜いていない。

 そればかりか必死に殺されまいと、充分力を出し切ってはいる。

 それなのに誰一人として、ダメージになるような傷を一つも与えられず、たった一振りの攻撃で絶命させられて行く者の方が圧倒的に多い。

「あぁ、そうそう。私も転生して来たんだけどね、元々力があったから、あなた達のようにとんでもない力なんてのを、なーんにも授かっていないんだよ。これもやっぱり”人”じゃないから、転生させた人物ってのがいるのかいないのか知らないけど、贔屓して与えなかったのかなって思ってるだけど、ね、どう思う?」

 その問いに答える者は一人もいない。

 答える意思が無いわけでは無く、心身ともに疲弊しきった身体が、言葉すら発する事を拒んでいただけ。

 あまりにも圧倒的な力の差と、極点による極寒の気温が、転生者達の体力を容赦なく奪って行く。

「こんなに大勢いるってのに、片眼しか解放してなくてもまるっきり歯が立たないだなんてね。拍子抜け。”元転生者”だって言うたった一人の女の子の方が、ずっと強かったよ? 私に両眼解放させたんだから」

「な、ん……だと?」

「お、女の子って…………何よ? 子供って事?」

 カナエがぽつりと呟いた転生者達の言葉に答え始める。

「一年くらい前にね、十歳くらいの子。これがまた愛想悪くてさぁ。可愛い顔してるのに、口調もきっついし、私に命令してくるわけ? この極点の安定化を維持しろーってさ。まぁ、セリカに言われている事だったから言われなくても全うするつもりだったんだけど、お子様相手に大人げないかなって思いながらも、人生の先輩として礼儀を教えて上げようと思ったら、これがまたとんでも無く強いのなんのって……。」

 この目の前にいる”化け物”に、強いと知らしめた人間がいる事へ誰もが信じられなかった。

 そして信じられない気持ちがさらに増大する言葉を、カナエが続けて言う。

「私、負けちゃった。剣の扱い、体術、魔法……なんでもこなしてさ、たぶん、セリカといい勝負するんじゃないかなっと、これは無駄話だったね。まぁ、そんなわけだからさ、与えられた力に甘んじてるあなた達では、到底私にすら敵わない。残念だけど、ここで人生終了ねっ」

 可愛らしく大きな瞳をパチリとウィンクするその姿は、普通の女の子の姿。

 だが”鬼”である事に変わりは無い。

 爪、牙、そして角、それらがまさに人外である事を物語る。

「ん? おやぁ? この感じ…………あーぁ、あっち側も終わり、かな」

「いったい……何の事、を言っているんだ?」

「北の極点には、私の妹がいるんだけどね。大人しくて優しくて、他人思いで……鬼、なんて存在とは縁が遠い子なのに」

 北の極点を遠い眼差しで見るカナエの目には、悲しそうであり寂しそうな色を宿す。

「あんた達が無駄に刺激するから……両眼を開いちゃったみたい。今から北の極点は……地獄絵図、になるよ。今のあの子には、人間が”ただの物”にしか認識出来なくなっているから」

 そして、その北の極点。

「ぎゃああぁぁぁぁぁあああっ!」

「さて、あなたはどれくらい耐えられるのでしょうか?」

 転生者の腹部に深く埋まった腕を引くと、その手には、真っ赤に染まる臓物がずるりと握り閉められていた。

「ご存知でしたか? 人間の腸の全長は九メートル程度あり、その三分の二は小腸なんですよ? ほぉら、ご自分で自身の内臓を見た感想はどうです? 滅多に見る事等出来ないのですからもっともっと見えるように…………引き摺り出して差し上げますっ!」

「放しやがれーっ!」

 別の転生者がナナエへと斬り掛かる。

 その手には二刀の刀。

 高速の連撃。

 そしてその行動にナナエの取った行動は。

「が、あ、がふっ!」

「残念。戻せばまだ生物として生存出来たかもしれないと言うのに、あなたのせいでこの方の腸はもう使い物にならなくなりました」

 連撃に合わせ、引き摺り出した転生者の臓物は切り刻まれた。

「本当に弱いですね。これじゃあ……”実験の道具”にすらなりません」

 蒼く白い光を放つその狂気の瞳に戦慄し、恐怖した転生者達が悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 だがここは海に囲まれた極点。

 見渡す限りの銀世界。

 何処に逃げようとも隠れる術は見当たらない。

 そして、戦意を失った転生者達を相手に、手にした両の武器を使い、一撃で仕留める事はせず、じわりじわりと人間の身体を使い”耐久性”を確かめるように追い詰め、殺めて行くナナエの姿は正に”鬼”そのもの。

 ナナエの狂気は転生者達の冷静さを欠いて行く。

 この場にはもう、誰一人として他人を気遣える気持ちを持った人間は存在しない。

 とにかく自分だけはアイツの様に非道な目に遭いたくない、自分さえ助かればそれでいい、思い思いに逃げ出しながら、考えつく先の事は、皆”自分じゃない他のヤツを殺せ”、そのたった一つの思いのみだった。

 再び南の極点。

「後数分もすればあっち側は、バラバラになった人間の身体が散乱する異様な光景になるはずだよ。酷い事してるって思った? でもね、それはナナエが実際に道具として受けた行為なんだよ。あの子はそんな酷い行為を思い付くようなコじゃなかったのに、ぜーんぶ、あんた達人間が実体験として教えてしまった事。非難出来るわけが無いよね?」

「ま、待てよっ……ちょ、直接俺達がしたわけじゃねぇだろっ?! 逆恨みもいいとこじゃねぇかっ! 無関係の俺達に八つ当たりするんじゃ……?!」

 そう言葉を繋げるのが精一杯だった。

 その時に向けられたカナエの視線が、それ以上の言葉を許さなかったから。

「アハハハっ! 笑わせてくれるよねぇっ! あなた達人間はさ、こうしてたまたま出会っただけでも、協力し合っている時は友情ごっこで話を弾ませるくせに、いざ、悪事に巻き込まれそうになれば簡単に、関係無いとか、自分のせいじゃないとか、仲間外れにしてしまう。ご都合主義過ぎて、ちょーウケる」

 カナエの目が物語っている。

 笑える要素等、何一つ無いと言う事を。

「……理不尽な事故に巻き込まれて、命を落とそうとしている事が可哀そうだから。人外の能力を使うリスクだって充分理解していたのに、それでもなお、人間達を救ったナナエ。それなのに……救った人間共から鬼だ化け物だ、怪物だと言われたあの子の気持ちが、あんた達に分かるものかぁっ!!」

 両手の五指を広げて数回空を切る。

 何が起こったのかを理解するまでに、しばらくの間が生じた。

「良かったね、私のいる方に来れてさ。だって、私はナナエと違って”一撃”で葬って上げるだけの慈悲は持ち合わせているから」

 前衛、分かり易く言えば、カナエと距離が近かった者達の身体が、斜めにずれ始め、そして白い大地の上へと赤い血だまりを作り上げながら崩れ落ちて行く。

「どんなに会話をしたとしても、私達は人間と相容れる事なんて出来ないし、しようとも思わない。だた、もし私を力でねじ伏せる事が出来るのであれば、見逃して上げるっ! まぁ、到底無理な話だろうけどねっ!」

 両の極点は間も無く人の死体が幾つも転がる大地へと化す。

 そして残った転生者達の身体は二人の放つ”鬼火”により、あっさりと灰となり、風に流され散って行った。

「…………見た目や生まれついての能力で、化け物扱いされる私達の本当の辛さなんて、あんた達人間には分からいんだよ。結局の所さ、あんた達人間は……他人の事なんて考えちゃいない。心を持っているクセにして、それが尚更の事…………残酷な事なんだから……」

 聞く者等一人もいない世界の中、カナエがぽつりと呟く言葉は、誰一人にも届く事は無かった。

「ねぇ、セリカ、それと……ローズ。あんた達二人が言ってくれた事、私は信じているからね。”差別の無い世界”ってのを、さ」

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