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詰まらない理由

 転生者達はどう行動すべきか決めあぐねていた。

 何故ならティリアの姿は見た事も無い装具を纏っていたとしても、背丈や声からしてまだ子供。

 子供を相手に武器を振るい戦闘をしても良いのか、だが、今もなお放たれている魔力から只者では無い事も明白。

「掛かって来ないわけ? それならいい加減、結界を破壊するのを止めてくれない?」

「…………破壊されて、お前が困る事でもあるのか?」

「大ありなのよ。あたしはあんた達と違って、長生きなの。住む世界が崩壊なんてしたら、あたしはどうしたらいいわけ? それにね……」

 ティリアは一呼吸おいてから続ける。

「この世界を、あんた達転生者がいない元のスタープラムの世界を取り戻そうと一人で頑張った馬鹿なヤツがいてね。帰って来た時に世界が崩壊し始めていた、なんて事にさせるわけにはいかないのよ」

 装具により表情は見えないが、ティリアは真剣にその言葉を転生者へ告げた。

 ローズはセリカを復活させる為、世界の理を取り戻す事に対して”個人的な事”だと言っていた。

 命を懸けてまで個人的な事を成し遂げようとする人間なんて、早々いるはずが無い。

 増してや、ローズ自身にメリットの一つも無いと言うのに。

「…………あんた、いったい何の為に生きていたのよ」

「何か言ったか?」

「いえ、こっちの話しよ。気にしないで。それで、どうするの? 止めてくれるの? それならこの場は見逃して上げるけれど」

 転生者の一人が前に出る。

「悪いが、ここに集まった人間全てが、この魔力を望んでいる。だから……お前の姿が子供であろうと、引くわけにはいかないっ!」

「……理由を聞いてもいいかしら?」

「この世界には、今もなお転生者が増え続けている。減る事を知らず、ただ増えるばかり。ハッキリ言って今の供給力では……魔力が足りない。勝手な事を言っている事は理解している……だが、俺達だって望んで転生したわけじゃ無いんだ。それでも、この世界へ来たからには、生きる権利はある」

 その場にいる転生者を一瞥し、ティリアが声を発する。

「ま、確かに、あなた達の中には望んで転生したわけじゃない人間もいるでしょうね。それに、生きる権利がある事も分かる。でも、あたしはこの世界を守らなければならない。だからこそお互いの主張を適える為に……命を懸けて戦う他、無いんでしょうね。話し合いなんて悠長な事を言っている事態じゃ無いんでしょ?」

「あぁ、その通りだ……都市以外の町や村は、魔力の供給が追い付いていない……一刻を争う」

 ティリアと転生者達の間に長い沈黙が訪れる。

 そして。

「いいのね? 命を懸ける事になっても」

「懸けるさ。未来へ生きる人間達には悪いが、俺達は今を生き抜かなければならない」

「そう」

 ティリアが装具を解除する。

「それはどう言う……意味だ?」

「どうやら根っからの悪党ってわけじゃないみたいだし、ハンデを上げる」

「テメェ、舐めてんのかっ!」

 別の転生者がティリアの行動に声を荒げた。

「絶好の機会だと思えばいいじゃない。悪党では無いとしても、正々堂々なんて正義感に構っていられないわけでしょ?」

「…………そうかよ、それでお前が死んだとしても、それは自分自身のせいだからな。恨みっこ無しだぜ」

「ええ、あたしを……殺せるのならねっ! 来なさいっ! 神龍牙っ!」

 天へ翳したティリアの両手には漆黒の旋棍。

 それを見た転生者達の全てが言葉を発せず、茫然としていた。

「あたしの武器が”トンファー”だなんて、思っても無かったって顔ね。忠告。甘く見ているとあたしに手も足も出せないわよっ」

「く、来るぞぉっ!」

「反応が遅いのよっ!」

 前衛にいた転生者達の後ろ、結界の破壊活動を続けていた転生者達の目の前にティリアは姿を現していた。

 結界の周囲にいた数人の転生者達が、刹那の瞬間にして崩れ落ちる。

「これであたしの目的は果たせたわ」

「な、んて速さだよ…………」

「どうする……? このまま下がるか?」

 転生者達が次の手を考え、話し合いを始めている間、ティリアは何もせずにただ待った。

「ふーん、そう。逃げずに向かって来る、と?」

「言ったはずだ。今を生きる人間達の為に、どうしてもこの魔力が必要なんだ」

「ねぇ、供給が追い付いている都市や街に掛け合わないわけ?」

「当然それは提案したさ」

「で、断られた、と」

「……あぁ」

「全く、人間同士って面倒よね。どうして助け合う事が出来ないわけ? 少なくともスタープラムの世界の住人は、他人が困っている事に対して見て見ぬ振りなんてしないのに」

「…………ここの人間の方がおかしいんだよ。自分達が生きる為に必要な事や物を、簡単に分け与えたりなんてしないのが普通なんだよ」

「それが俺達の元居た世界だ……」

 ティリアと転生者達、それぞれの視線が重なる。

 そして。

 ティリアがトンファーを自在に操り、迎え撃つ体勢を取った瞬間、数人の転生者達が一斉に動く。

 飛び道具と魔法の波状攻撃により、足止めを受けるティリア。

 それに遅れて巨大なアックスを装備した戦士、ソードとシールドを装備したナイト、そして小太刀を持つ忍者の三人が追撃。

「うおおおおおっ! アックスブレイカァァァアアッ!」

 遠心力を掛けた重い一撃をティリアが受ける。

 そのパワーアタックと体格差の相乗効果によって、ティリアの身体が浮き上がった。

 間髪入れる事無く、ナイトの攻撃。

「シールドバッシュッ!」

 大楯による体当たりに大したダメージは無いが、ティリアの身体をさらに宙へ浮かせる為の攻撃。

「連速陣っ!」

 ティリアよりも上空から、忍者職の者による素早い連撃が襲い掛かる。

 その攻撃は目に見えている剣閃よりも、遥かに速い。

 だが、ティリアは器用に全ての攻撃をトンファーで受け、攻撃に移った。

「これで一人っ!」

 完全に捉えた、と思ったのも束の間。

 忍者職の身体へトンファーの打撃がヒットした瞬間、煙を上げ、忍者職の身体が消失する。

「空間転移の術っ!」

「?!」

 出現したのはティリアの背後。

 防ぐ術は無い。

「覚悟っ! 必撃陣!」

 決まった。

 その場にいる転生者全ての者がそう確信した。

「がはぁっ!」

 しかし、忍者職の攻撃は届かない。

 ティリアが身体を縦に回転させた踵による打ち上げ打撃によって防がれてしまう。

「じゃあねっ!」

 まさに光速の打撃。

 捉えたティリアのトンファーが、忍者職の連速陣の速度を遥かに超える。

「…………無、ね……ん」

 ドシャリ、と音を立て地面へと崩れ落ちる。

「くそ……初見であれを見破るとは…………」

「ちっ、大したヤツだぜ……攻防一体のトンファーとあの身の熟し。この人数相手に喧嘩を吹っ掛けた事は伊達じゃぁねぇな」

「あぁ……」

 足元に転がっている忍者職の身体を一瞥してから、ティリアが顔を起こし、転生者達を見据えた。

「正直、あたしはあんた達転生者が大っ嫌い。勝手にやって来て、自分たちの思うように振舞って、挙句、この星を破壊しようとまでしている。少しは遠慮ってものを知らないわけ?」

「勝手に来たのは認めるさ。だが、この世界を選んだのは俺達の意思では無い。世界を選ぶ選択なんてものは無かったんだ」

「ふーん、だから仕方が無いってわけ? 何よそれ。仕方が無ければ現地の理を無視してもいい、だなんて事は無いはずよね?」

 何処か友好的なティリアではあったものの、正直な気持ちは、ローズと対峙した時と全く変わっては無い。

 転生者は自分の父と、かろうじて生き長らえた幼いドラゴンの仇でもある。

 増え続ける転生者さえいなければ、真装神龍の名を継ぐ事は無かった。

 幼いドラゴンを目の前で殺害される事も無かった。

 スタープラムの世界を破壊しようとしている事に対して、止めたいと思う気持ちは、正直無いわけでは無い。

 けれど、ティリアに取って、優先されるべき気持ちは転生者への”復讐”。

 戦って負けたのだから、それは、弱者である事が悪かった。

 勝てなかった父と、守れなかった自分の弱さのせいでもある。

「……でもね、あんた達が増え続けさえしなければ……あんた達が、世界の理を破って好き勝手さえしなければ、傷付く事なんて無かったのよ」

「……訳も分からず転生して、この世界の理を気に掛ける事が出来る余裕なんて無かったんだよ」

「それなら最初から転生する選択を選ばなければ良かっただけの事でしょっ! 理由はどうあれあんた達の運命は尽きていたんだから」

「何が言いたい……?」

「…………転生を選ばず、死んでいれば良かったのに」

 冷たく言い放つその言葉に、反論する一人の転生者。

「転生者の中には理不尽に命を落とした者だっているのよっ! それを知ろうともせず、死ねばよかっただなんて……そんなのあんまりだわっ!」

「……それがどうかした? 理不尽な理由があったとしても、あんた達の世界では命を落とせば、誰もが等しく死を迎えるわけでしょ? 死にたくないのは、命ある者であれば……みんな一緒。あたしの父だって…………あんた達に寄ってたかって命を奪われ、死を迎えた。それなのに、あんた達は……自分たちの世界で死んだくせに、それを受け入れず……こうしてのうのうと生きているじゃない」

「そ、それは…………私達が、殺したわけじゃ、無い……」

「ええ、そうね。悪いのはあんた達じゃくて父を殺した転生者達。ならば、敢えてもう一度だけ聞いてあげる。この場から今直ぐ手を引いてくれる?」

「…………」

 無言の否定。

 誰もが口を開く事は無かった。

「ならば、正直に言ってあげる。あたしは転生者、あんた達に”復讐”と言う理不尽な理由を持って…………殺しに掛かるっ!」 

 ティリアが転生者の軍勢に向かい行動を開始しようとした時の事。

「な、によ……これ?! 身体が動かないっ」

「油断したな。忍法、影縫い縛りの術」

「……ちっ! 空間転移の術を重ね掛けしていたってわけね」

 倒れていた忍者職の身体が煙を巻きつつ、消失して行く。

「悪いが、あんたの命はここまでだ」

 数人の転生者が一斉にティリアへ間合いを詰め、各々の武器を振りかざし斬り掛かった。

「アックスブレイカー!」

「グランブレード!」

「連速陣っ!」

 呆気なく勝負は結した、と思われた、が。

「あたしは”容赦はしない”と言ったはずよねっ!」

 ドカン、と大きな音を上げ、ティリアの周囲の地面が隆起し陥没する。

 それはティリアの強大な魔法力があるからこそ、成せる技。

 影縫い縛りの術が無効化され、自由を取り戻したティリアと転生者達の武器が交錯し、周囲へ金属音が鳴り響いた。

「今度こそじゃあねっ、バイバイっ!」

 トンファーの回転と、ティリア自身の身体能力による遠心力を合わせた打撃技。

 一人、二人、三人と順に、そして瞬時にして、上半身が吹き飛び、その場には残った三人の下半身のみが佇んでいる。

「あんまりよ……そ、こまでの事をしなくても」

「覚悟が足りないんじゃないの? あたしは言ったわよね。これは”復讐”だって。それに、引くのであれば見逃すと言う選択しも用意した。それを受け入れずに、殺され方にまで文句を言うなんて、何処まで図々しいのかしら?」

 ティリアが佇まいを直し、転生者達をぐるりと見渡す。

「あんた達人間はいつだってそうよね。自分達が人の形をしているから、殺され方にまで人道的な事を求めて来る。あたしの父であるバハムート、そして、この世界にたくさんいた魔王軍のモンスター達。見た目が人型では無く、有体に言えば怪物の姿をしているってだけで、誰も気にせずその手にしている武器で殺しに掛かって来る。挙句、素材と称して、死体から部位を剥ぎ取りそれを加工して出来た物を手にして、悦に浸っている…………」

 しばらく口を閉ざしていたティリアの表情が鋭く射貫くものへと変わり。

「笑わせるなっ! あんた達には言葉は通じないでしょうけれどっ、あんた達に殺されてた者達がどれだけ苦しんだと思う?! 分からないでしょうねっ、自分たちの事ばかりしか考えていないのだからっ!」

 転生者達はティリアの言葉に対して、誰一人として反論出来ずに口を紡ぐ。

 モンスターと呼ばれている生物を相手にした時、”可哀そう”だと思う感情を抱く事が無かったから。

 相手にして当然。

 痛め付けて当然。

 殺して当然。

 それが当たり前の感情だった。

 そして、殺したモンスターの一部を刈り取って、レアな素材を手に入れたと喜び自慢した。

「なんなら、あたしがあんた達から身体の一部を剥ぎ取って喜んでいる姿を思い浮かべるといいわ。そしたらきっとこう思うはずよ。”コイツ、絶対に許さない”と」

 数人の転生者が自らの武器を手から離す。

「これが本当に最後の忠告よ。今直ぐ……あたしの前から姿を消せ。でなければ、そこに転がっている死体と同じにする」

「う……う、あああぁぁあぁっ!」

 一人の転生者が声を上げてその場を去ると、次々と転生者が離れて行った。

「で、あんたは逃げないわけ?」

 最後の一人、魔法職の転生者が逃げる事無く、その場に残る。

「……今、ここで……逃げたって、生活のほとんどを自然の魔力によって成しているのよ? そのエネルギー源が無ければ……いずれ、死ぬ事になるわ」

「ま、難しい話は、あたしには分からないけれど、魔法じゃぁエネルギー源にはならないもんね。同じ火であったとしても、魔法で調理なんて出来ないし、水の魔法を飲み水になんて出来ないもんね」

 スタープラムの世界は自然から取れる魔法力を変換して、火を起こしたり水を浄化したりしながら人々の生活に役立ている。

 魔法と自然から取れる魔法力は別物。

「賢明な判断、とは思えないけれどねっ」

「くっは、がっ!」

 一瞬。

 ティリアのその動きを捉える事は出来なかった。

 じわじわと片手で首を掴み、締め上げて行く。

「ばっかじゃないの。正義感出して、一人で立ち向かってさ。自分の力量を弁えないのは、ただのオオバカのする事よねっ」

「う、くっ! はな、し、て……」

「逃げないあんたが悪いのよ?」

 魔法職の者の目から涙が伝い落ちて行く。

 身体は震え、その目には恐怖の色を映し、それでも、持っている武器を離さず力強く握り締めていた。

「あーぁ、興覚め」

「はぁっ! はぁっ、はぁ……」

「詰まんない。もういいわ。さっさとここから立ち去って」

「わ、私は…………」

「今直ぐっこの場を離れろって言ってんのよっ! この魔法力が今直ぐ無くたって、まだ生きていけるし、人間なら知恵を絞って他の手段を考えなさいよっ! それでも分からないってんなら……本当に殺すからね……」

「ご、ごめん、なさい……ありがとう」

 そう言ってから、魔法職の者はティリアの前から足早に去って行った。

「…………ホント、詰まんない」

 それはティリア自身、自分へ向けた言葉。

 復讐だなんて大見え切っておきながら、怯える人間に対して、情が芽生えてしまう。

 その事が面白く無かっただけの事。

 転生者であるのに、この世界の理を取り戻そうとしていたローズの事が思い浮かぶ。

「あんたこそ、スタープラムの世界に必要な存在なのかもね…………」

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