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絶対強者

 城内に金属音が途切れる事無く、響き渡る。

「スレッジーバスター!」

「グラビティアックス!」

 左右からの攻撃。

 振り下ろされた大剣を、持っているローゼンギルティで受け止めてから、アックスを左手で受ける。

「ちっ! 俺のカイザーバトルアックスでも斬れねえのかよっ!」

「だが、これでこいつの両手が塞がった! レインっ!」

「まかせろっ! スカイハイブリッツ!!」

 二人が攻撃を始めたと同時に、飛び上がっていたドラゴンナイトの者がローズを目掛けて急降下を仕掛けて来る。

 ナイトと戦士の二人は更に力を加え、ローズを強引に抑え付けた。

「いくらお前が強者だろうと、防ぎようがなければダメージは当たるはずだっ!」

「こうすればいいだけの事よ」

 ローズが両手の力を抜いた事により、力任せに抑え付けていた二人がおおきくバランスを崩してしまう。

 これでドラゴンナイトの攻撃は防御されてしまう、と誰もが思っただろう。

 けれど、ローズの行動は違った。

 急降下を仕掛けて来るドラゴンナイトに向かい、飛び上がる。

「なにぃっ?!」

 完全にタイミングをずらされたドラゴンナイト。

 破れかぶれで放ったランスの攻撃は意図も容易くローゼンギルティで弾かれ、がら空きになった腹部へローズの膝が鋭く入る。

「が、はっ!」

 入った膝を支点にし、身体をくるりと回転させ、くの字に曲がっている背中側から強烈な蹴りを叩き入れた。

 三人の連携した攻撃は回避出来たものの、相手は数十人にも及ぶのだから、ローズへの攻撃は終わらない。

 今、空中に居るローズは、間接武器職の異世界転生達に取っては格好の的。

 一斉に、飛び道具での攻撃がローズへと向けられた。

 弓矢、銃弾、手裏剣、多種多様な間接武器が、四方からローズへ襲い掛かる……が、焦る素振り等全く見せず、そのローズが取った行動は。

「あの武器……自在に形を変えられる、のね……」

 ローゼンギルティを振った直後、刀身が鞭のように変化し、地面へと突き刺さる。

「狙いは、悪く無かったわね」

 伸縮する武器の特性を使い、全ての飛び道具を避け切った。

「油断もいいところだっ!」

 と威勢良く斬りかかったものの、ローズはアッサリと受け流しながら反撃。

「剣と盾、この組み合わせは多少厄介ね」

 盾で防ぎ剣で攻撃。

 とてもオーソドックスだが、攻守のバランスがとても取れている。

 そしてその頭上を飛び越え。

「氷雨八刀っ!」

 小刀を左右の手に一つずつ装備した転生者が、その軽い身のこなしを利用したスキルを発動。

 さすがのローズも速さを活かした二刀の攻撃を、防ぎ切る事は難しかった。

 大振りになる両手持ちが主となる武器であれば、同時に攻撃されたとしても防ぐなり避けるなり、素手で受け止める事は出来る。

 だが、今の状況では、どの手段を取るにしても難しい。

 目の前の相手と間合いを取ったとしても、スキルの攻撃を一刀で防ぎ切れるかどうか、そししてそれを避けられるかどうかも怪しいところだ。

 受けたとしても死ぬ事は無いだろうけれど、それでも、相手は能力値が限界まで達している者。

 ダメージを受けない、なんて事は無いはず。

 かと言って、素手で受け止める事は出来ない。

 あれは大振りの武器が相手だからこそ、出来る事。

 刃が掌に振れる前に掴み切っている、のだから。

「さすがに速度のある小刀相手では、見えないものね」

 見切れない、だからこそ、やろうと思っても出来ない事だ。

「この間合いっ、入るっ!」

 ギギギギギン、金属が連続でぶつかり合う音が響く。

「くそっ、コイツ、どれだけ器用なんだよっ!」

 ローズが最終的に取った行動は、ローゼンギルティの二刀持ち。

「手を休ませるなっ! 攻撃し続けて活路を見い出すぞっ!」

 その言葉を合図に、異世界転生達が次々入れ替わりつつ、ローズへ攻撃を仕掛ける。

 ”チート”とは言え、能力値は最大、しかもそれぞれがレアリティーの高い武器を所持している状態、であれば、その戦いは開始されたばかりだと言うのに、苛烈なものだった。

「全く……次から次へと、切りが無いわね」

 代わるがわる交代しながら応戦する異世界転生達に、心にも無い悪態をつきながらローズはそれを華麗に避け、鮮やかに流し、時には力任せに武器を破壊する。

 それとは対照的に、心から悪態をつきたいのは異世界転生達の方だ。

 全員が異世界転生者、その上、チート能力が転生時に付与され、敵等いない、と確信していたはずなのに、今、対峙しているたった一人の相手に、誰一人として一撃すら入れられずにいるのだから。

「どうなってるんだよっ! 相手は一人だぞっ?!」

「口を開く暇があるなら、少しでも手数を増やせっ!」

「一撃さえ入ればあんなヤツっ!」

(これだけの人数がいるのだから多少は苦戦すると思っていたのに、余りにも大した事無さ過ぎだわ。まぁ、でも、これまでに私が過ごした日々を思えば当然ね)

「あなた達、本当に全力を出しているの?」

「どう言う意味だっ?」

「そのままの意味。全力がこの程度なのか、と言っているのよ」

「言わせておけばっ!」

「危機感が足りていないのかしら? 自分達が次の一瞬で死ぬと言う危機感が」

 ローズが右手を左から右へ薙ぐ動作をする。

「氷の塊?!」

「いくら何でも俺達を舐め過ぎだぜっ! 氷塊如きじゃダメージすら負わないっ!」

 頭上に巨大な氷塊がいくつも出来上がって行く。

 さすがにローズが作り出した物だとしても、異世界転生達に取っては何て事の無い氷の塊。

 ダメージはほぼ皆無、負傷する者だって出るかどうか。

 それは近接職以外、魔法職の転生者達にだって言える事。

「せいぜい抗って、私に殺されないようにしなさい」

 巨大な氷塊が無数に浮かぶ中心に向けて飛び上がり、二刀のローゼンギルティを高速で数回振り抜くと、その氷塊はローズの身長に近いサイズとなった。

「おいおい、斬り刻んでサイズを縮小してどうするんだよ?!」

「こんなの防ぐまでも無いっ! みんな、氷塊に構わずアイツに攻撃を続けるんだっ! 間接武器の攻撃で地上へ引き摺り下ろしたその瞬間に仕掛けるぞっ!」

「当たらなくてもいいっ、とにかくヤツに隙を作り出す為に放ち続けろーっ!」

 どうせ当たらない、考えを改めた異世界転生達の猛攻が始まる。

 二刀を使い、鮮やかな身のこなしで迫る間接武器を斬り落としてから、氷塊が落下を始めるのと逆方向、ローゼンギルティを伸縮させて天井へ着地。

「忠告よ。しっかり”私”を捉えないと次の瞬間……死ぬから覚悟しておきなさい」

 落ちて行く氷塊へ追い付くように着地点を蹴り、ローズが急降下を始めた。

「来るぞっ!」

 忠告されるまでも無く、誰一人として降下して来るローズを見逃した者は一人もいない。

 ただし、それは氷塊に追い付くまでの間、だけ。

 ローズが落下している氷塊の中心へと入った途端、誰もが”ホンモノ”のローズを見失ってしまった。

「くそっ! これが狙いかっ!」

「どれが本物なんだっ?!」

 氷塊は透明度が強く、その中心へと降り立ったローズの姿を乱反射させ、彼女の姿を幻惑させている。

「焦るなっ! 俺達の姿だって氷塊の中に入っているんだ、向こうから見ても同じ事」

「だと思ったら、大間違いよ」

「うっがぁぁあああっ!」

「まずは一人」

 これはローズ自身が作り出した氷塊。

 その本人が、異世界転生達と同じような効果に陥るはずは無い。

 何処から現れるか見当すら付かず、次々絶命して行く異世界転生達。

 時には見ている方向とは全く逆から、かと思っていれば、氷塊を切り刻み真正面から、そしてまたは、氷塊の外側から攻めて来るローズに、異世界転生達は完全に踊らされていた。

「待ってろっ、今その邪魔な氷塊を炎の魔法で溶かし切ってやるっ!」

 その言葉を聞いたローズは、クスリと笑みを受がべた。

 ローズに言わせれば「さすが反則者」と言ったところだろう。

 最大クラスの炎属性を使い、一瞬にしてローズの作り出した氷塊を溶解した……してしまった。

 けれど、それもまたローズの考えの内である事を、誰一人として考えが至っていない。

 急激に溶解した氷塊は…………温度差により水蒸気となる。

「しまったぁっ!」

 一人の異世界転生者が気付き、声を上げた時にはもう遅い。

 水蒸気に寄って彼らの視界が……ゼロとなったのだから。

「くすくす、だからあなた達には熟練度が足りないと言ったのよっ!」

 もし彼らが”チート能力”等を手に入れず、経験を積みながら成長し、熟練して来ていれば、こんな事には陥らなかっただろう。

 いや、能力を手にしたとしても努力していれば、こんな事にはならなかった。

 完全に自分たちの失態。

 ローズの言葉が悔しい程に正論と気付く。

 真っ白な水蒸気で視界が遮られた中、次々と断末魔を上げながら絶命して行く転生者達。

 次は自分がヤラレル……視界の効かないこの状況は、心底なる恐怖を与え、更なる混乱を招いた。

 自分が生きる事だけを考え、闇雲に攻撃を繰り出すもののそれがローズに届く事は無く、隣の仲間を切り付けて行く。

 どれ程の時間が経っただろう。

 水蒸気が晴れる頃には……前衛を担う近接職の異世界転生者は、ほぼ存命出来ていなかった。

「どう? 自分で自分の仲間を殺した気分は? 私は……とても気分がいいわ。だって、何もせずとも勝手に死んで行ってくれるのだから」

「くっ……貴、様…………っ。舐めた、事を……っ!」

「それを言うのであれば、言い返してあげる。たった一人を相手に百人近い数で斬りかかって来ているあなた達が、私のした事にどうこう口を出せるとでも?」

 いつの場合でも、いつの世界でも、魔王や魔王の配下達は数人構成で成り立っているパーティを”単独”で相手にして来ている。

 魔の者を討伐するのであれば、誰一人とてその行いが当然で自然な事だから、これ程卑怯な手段を取っている事に気付く事すらせず、意気揚々平然と斬りかかる。

「それならば、そっちだって仲間を連れて応戦すればいいだけの事じゃないっ!」

「その通りだぜ、勝手に一人で相手にしているのはお前の方。言い掛かりを付けるなよっ」

「確かにそう考える事も出来るわね。でもね……」

 ローズは一呼吸置いてから続けた。

「統率者である魔王たる者、仲間を傷付けさせたくないからこそ、一人で戦う事を選んでいるのよ。誰一人として自分の仲間を傷付けさせたくないのであれば、当然の事」

 言い分は色々とあっただろう。

 そんなのは仲間では無い。

 助け合ってこその仲間だ。

 それこそが絆で信頼の証、だと。

 けど……傷付けたく無いからこそ、一人で歯向かうと言うローズの言っている事も、間違ってはいない。

「お前が魔の者であれば、どんなに正論を言ったとしても、それは言葉上だけの事。存在自体を認められないお前に人間を問い質す資格は無いっ」

「自分達がしている事は間違えていない、何もかもが正しい。それを前提として話をする。私は何を言っても、無駄、と言う事かしら?」

「その通りだ。お前達はこの世界に必要とされていない!」

「別にあなた達から必要とされなくてもいいわ。ただ、この世界に取って、私たちは存在しなければいけない。必要な事なのよ」

「世迷言を。人々に恐怖しか与えないお前達の存在は、絶対に認めるわけには行かないっ! お前を必ずここで、倒すっ!」

「今のあなた達の力で私を倒す? どうやって?」

 力の差は明らか。

 圧倒的にローズが上。

「アルテマバースト。魔法職が一斉に魔力を全解放する最強の魔法だ」

「それしか無いわよね。個々の能力で勝てないのであれば、あなた達が得意とするパーティプレイしか無いものね。逃げも隠れもしないから、放ってご覧なさいな。その手段が効かなかった時、あなた達がどのような表情をするのか、とても楽しみで仕方が無いわ」

 かろうじて生き残り、そう言った近接職の男に迷いはあった。

 近接職だけでも全体の七割くらい人数がいたと言うのに、それでも、ローズには掠り傷一つ与えられていない。

 残り三割の魔法職が強力して放つアルテマバーストは、本当に効果があるのだろうか。

 もし無かったら、どうすればいい……。

 どうしたら……生き残れる。

 正直な気持ち、身動きを一切しない顔見知りが、そこかしこで絶命している姿を見ても、大した感情は浮かんでは来ない。

 ただただ浮かぶ気持ちは”自分だけは、あんな事にはなりたくない”と思う気持ちのみ。

「どうしたの? 使うの? 使わないの? 止めるのであれば、こちらから動くけれど?」

「その余裕が後悔を招いても知らないからな……」

 ローズの周囲に魔法障壁が展開され、取り囲む。

 アルテマバーストの威力は一人で放ったとしても、その絶大な威力によって周囲は地面ごと大きく抉られる。

 それを防ぐための障壁だが、三十人近い魔法職の魔力を集めて解放するアルテマバーストを障壁が耐えられるのか知る人間は一人もいない。

 こんな事、過去に一度だって試した者はいないのだから。

『アルテマバースト!』

 障壁の中央に佇んでいるローズの目の前に、小さな光が一点に収束を開始する。

 帯状の魔法力が渦を巻きながら集まり、その小さな光がみるみる内に大きく膨らむのを見て、誰もが思う。

 このアルテマバーストであれば、さすがに無傷ではいられないと。

 障壁の中ではアルテマバーストが解放を開始し始めた。

 こちら側には一切その音は聞こえて来ないが、それでも、激しく明滅を繰り返し魔力が炸裂を繰り返す様を見れば、その凄まじき威力に、周囲の者達は言葉を失う程に理解する事が出来た。

 これなら、ローズを倒せる。

 何人かの転生者は同じ事を考えた。

 もしアルテマバーストで倒し切れなったとしても、確実にダメージを負うだろう。

 そこへ付け入る隙が必ずあるはずだ。

 誰よりも先に動きローズを仕留めれば、この世界で英雄となれる。

 周りで絶命している転生者は、選ばれなかっただけの事。

 ローズを倒し、この世界の英雄になるのは自分だ、と。

「みんな、アルテマバーストが終わり障壁が崩れた瞬間、仕掛けるぞ」

「…………さすがに、これで決まったんじゃないか?」

「油断するな……あれだけの強者だぞ。倒し切れたらそれでいいが、もしもの事も考えて仕掛ける準備をして置くのは悪い事じゃないだろ?」

 遠距離武器の転生者達は、それぞれの武器を構え、魔法職の転生者達は、魔法力の回復を持って迎え撃つ態勢を取り始めた。

 アルテマバーストの解放が終わりを迎え始めるのと同時に、障壁が崩れ始め……そして。

 魔法による残留魔力が溢れ出し、その魔力を…………黒い炎が吹き飛ばす。

「くすくす、残念だったわね」

「ば、かな…………」

「無傷だなんて……有り得ないわ……」

「なんだよ、これ……。俺達は全員、悪夢でも見ているのか……」

 ローズの姿を視認した全員が、行動に移る事を忘れた。

 傷一つ負う事の無いローズへ……全ての異世界転生者が思い至る。

 コイツは……”絶対強者”だと。

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