力を合わせて
「ふーん、逃げるつもりは無いってわけ?」
「…………」
「別に逃げたっていいのに。あんた一人だったらシャインバーストの範囲外まで行けるはずよ? それとも世界を救おう、とかそんなヤツ? アハハ、笑える。魔王の配下が世界救済だなんてさ」
「救済なんてするわけが無いでしょう? 魔王を復活させる事が私の目的なのだから」
上空で両腕を大きく広げているティリアの魔法力は留まる事を知らず、今もなお上がり続けている。
ローゼンギルティを使えば倒せる可能性はあるかもしれない。
ただ、可能性があると言うだけで、確実では無く、もしその可能性が外れた場合、ティリアは本当にスタープラムの星がどうなろうとも気にせず、全力でシャインバーストを放つ事だって考えられる。
(今はまだ逃げてもいいとは言っているけれど、狙いは確実に私へ向いている……ならば、あれを耐え、魔法力がある程度下がった状態のティリアへ攻撃を仕掛ければ、限りなくゼロに近い勝機は残されているはず…………)
「大人しく城の中にでも居れば良かったのにっ! のこのこ出て来たあたしの相手をしたあんたは、大馬鹿者よっ!」
「生憎だけれど、あなたが転生者を倒して世界の理を取り戻したとしても、それでは私が納得出来ない。私自身の手で理を取り戻し、セリカを復活させる……それが私の目的。だから突然出て来て人の邪魔をしているようなあなたには、負けるつもりは無いわ…………」
「あぁ、そう……それなら、とっとと死んで天国から、あたしが理を取り戻す様を指を咥えて眺めている事ねっ!」
ティリアが広げていた腕を閉じ、手のひらの付け根を合わせ解放の体勢を取った。
「バイバイ、ローズちゃん! シャイン、バースト……メガフレアーッ!」
「幼い見た目は……あなたも人の事を言えないわよっ!」
迫りくる極大魔法をローズは有りっ丈の魔法力を解放して受け止める。
その計り知れない強大な力によって、足元の地面が罅割れを起こした。
「凄いじゃないっ! まさか受け止めるなんてさっ! でも、そこからどうするつもりなのっ?! 耐えるだけで精一杯に見えるけど?!」
「どう、にも……しない、わ、よっ! ただ……これを…………あなたに跳ね返すってだけっ!」
少しの間であれば、この状況を維持する事がローズには出来た。
だが、言い放った言葉とは違い、ティリアのシャインバーストを跳ね返せるだけの魔法力が残されていないのが事実。
(マズイ…………。想像を遥かに超えて、いるじゃ、ないの…………。跳ね返すなんて大見えを切った、けれど……正直厳しいかもしれない。それに、万が一跳ね返せたとしても……ティリアにはまだ余裕が見て取れる。もっと……彼女の魔法力を使わせない事には今のままじゃ、勝機すら……無い、わね)
耐えるだけで精一杯である事を理解しながらも、ローズはティリアを挑発した。
「思った……程の事じゃないわ。こうして私一人でも耐えられるのだから……あなたのそれは先代よりも遥かに、劣っている証拠よ」
「ばっかじゃないの? あたしはまだ本気じゃないってだけっ!」
「それなら……見せてご覧なさいな。きっとそれでも私は、あなたの攻撃を耐えるっでしょうけれどねっ!」
ローズは無理をしながらも、ティリアの攻撃を押し返して見せた。
さすがのティリアもローズの魔法力に少なからず驚きを隠せず、ローズの言った事はあながち嘘では無いと信じ始めている。
懸念するべきは、ローズが何度も放ったあの言葉。
”経験が不足している”。
それを証明するように、何度も魔法力で劣っているはずのローズがティリア自身を超えた事を見せ付けられた。
もしかしたら、また自分を超える策を持っているのかもしれない。
もしかしたら、まだ魔法力を上げる術を持っているのかもしれない。
シャインバーストを打ち破る事は、絶対に有り得ない。
ティリアの思いは少しずつ揺らぎ始め、遂にはローズの挑発へ乗る事を決意させる。
「いいわっそこまで言うのなら、見せて上げるっ! あたしの本気をねぇっ!」
想定外。
想像以上。
慮外千万。
(甘かった、かもっ。まさか、ここまで魔法力が上がるだなんて、思っても、みなかったっ!)
「後何分持つかしらっ! まぁどう足掻いたってあんたの負けっ! さようならっ! キャハハハ!」
ティリアの言う通りだった。
このままだと数分間耐えられるかどうか、そして耐えた先は、負ける。
そう”このまま”では。
(…………死に近付いてしまうけれど、セリカに殺される前に死ぬわけには行かない。ならば、黒曜へ与える魔法力に私自身の生命力を加えて、黒曜を超える。この方法しか、残されていない)
元々葬化の能力は、セリカの配下である事が条件の能力。
かのローズは、セリカの復活を成そうとしてはいるが、正式な配下では無く、勝手に、一方的に配下と名乗っている身。
これまでに何度も葬化をして来た事も含め、自分の生命力を糧とする代わりに葬化を行っていた。
(死ぬわけには行かないけれど、中途半端な生命力ではきっと足りない。数値で見えているわけでは無いから、加減が難しいけれど……まぁ、どうにかなるでしょ……)
意を決して黒曜を超えた先へ。
「マジックガード」
葬化に生命力を与える直前の事だった。
ローズの身体を魔法障壁が包み込む。
「これは……?」
「大気に留まる水の気よ。我が声に感化しその力を示せっ…………タイダルシュトロームっ!」
ローズの身体を避け、ティリアのシャインバーストに激流がぶつかり合う。
「ローズさん……加勢、しますっ」
背後に装具を纏った人物がいた。
けれど、それはローズが知っているリンの装具の色とは異なり、初めて見る翠色の装具。
「…………レン?!」
「もう少しだけ、そのままの姿で頑張って……くださいっ」
「どうしてこの状況の中へわざわざ来たのっ! 今の私では、あなたを守り切れないのよっ!」
「大丈夫、ですっ。だから、もう少しだけ……押さえて下さいっ!」
「大丈夫って、この状況でどうするつもりっ?」
葬化を超える力を使わずにして、耐える事は可能になった。
けれど、二人掛かりの力でさえシャインバーストの魔法力は上回り、気を緩めれば耐える事すら出来なくなってしまう。
(レンには悪いけれど、大丈夫だなんてとても思えない…………そう、じゃない。レンのおかげで耐える事が出来ている?! それなら葬化を超えさえすれば、押し返せるって事?! でも、レンは”そのままの姿で”と言っていた。どう言う事? 言葉を使い間違えた? いえ、それは考えにくい。続けてレンは”押さえろ”と言っているのだから、私へ葬化を超えるな、と言っている……じゃあ、何かまだ他に手があるとでも?)
「仲間が加勢してもどうやら耐えるだけが精いっぱいってところみたいねっ! 残念、もう一人くらいいたら、押し返せたかもしれないけれど……あんた達、まとめて葬って上げるっ!」
「くっ! レンっ! 一瞬だけ一人で頑張って貰えるかしらっ? 葬化を超えればきっといけるからっ!」
「ダ、メ……ですっ! 後少しっ、少しでいいのでっ!」
「もしかしてあたしの魔力消耗を狙ってるっ? それなら一層の事……一気に片付けてあげればいいだけの事っ!」
(この期に及んで魔法力を更に上げたっ?!)
「はぁっ! ふうっ! 少しっ疲れちゃって来た、けど……これでっ、終わりにしてあげるからっ! 弱者は弱者らしく……惨めに殺されてしまえばいいのよっ!」
ティリアの上げた魔法力をシャインバーストへ乗せられたら、本当にここで終わってしまう。
ローズはレンの言葉を無視し、葬化を超える事に決めた。
「悪いわねレンっ! 葬化を超えるわっ!」
「待って、くださいっ!」
「もう待てないわっ! 葬化を解放するっ!」
「ローズさんっ! レンちゃんっ! ほんの少しだけ位置を上に上げてぇぇええっ!」
「リンさんっ!」
「リンっ?!」
「二人ともっお願いっ、位置が悪いのっ! 少しでいいから押し上げてっ!」
レンの更に後ろから装具を纏ったリンが飛び出して来た。
その姿を見たローズは、二人が何を狙っているのかを理解する。
「ローズさんは……無理をしないで、くださいっ! 私が……何とか、しますっ!」
それは葬化を超えるな、と言う事。
ローズが目一杯まで魔法力を上げている事を理解していたレンの、ローズの分まで一人で何とかすると言った意味を含めた言葉。
「少しっくらいなら大丈夫よっ!」
「ダメ、ですっ! 私が……何とかしますからっ! 翠葬化……黒曜っ!」
黒曜の力を使ったレンの魔法力が格段に上がる。
シャインバーストを押し上げる分には、充分足り得る力。
「う、そでしょっ! あたしのシャインバーストを……押し返す、だなんてっ!」
「私だって……セリカ様……魔王の配下っ! 甘く、みないでくださいっ! リンさんっ!」
「ありがとうっレンちゃんっ!」
リンが速度を増し加速をする。
「ローズさんっ、横へ飛んでーっ!」
「?!」
リンの言葉を理解したローズが横へ飛び退く。
その動作を目視したリンは、更に速度を上げ、シャインバーストへ向かい特攻を掛けた。
「レベル3! 全っ開っオーラ……ブロォォォォオオッ!」
「あんたみたいな雑魚モンスターに、あたしのシャインバーストをどうこう出来るわけが無い!」
「最弱モンスターの意地を見せてあげますっ! 吹っっっっ飛べええええっ!」
地面を力いっぱい蹴り上げ、オーラブローを纏った右腕を思い切り振り抜くリン。
「う、そでしょ……あたしの、シャインバーストが押されるなんて…………」
リンのオーラブローがシャインバーストの軌道を強引に変化させる。
「……全力のシャインバーストを…………最弱モンスターに跳ね返され、た……」
「馬鹿ね。あの子のオーラブローは私の黒曜ですら超えるのよ」
「?!」
「遅いわっ!」
ティリアが気付いた時には、その周囲に金属で出来た無数の青い薔薇が取り囲み、全包囲攻撃をティリアへ仕掛ける。
「これで終わりよ」
青い薔薇からの包囲攻撃に気を取られ、ローズの接近を許してしまったティリア。
「しまっ」
「エンドオブハート!」
防ぐことも避ける事も間に合わない間合い。
ローズの連撃がティリアの身体へ、完全に入った。
「そ、んな…………あたし、が負ける……なん、て…………」
「あの子達の力を甘く見たあなた自身のせい。だからあなたには……経験が足りないのよ」




