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シャインバーストメガフレア

「それじゃあ、せいぜい頑張って死なないように……してねっ!」

 スピードにおいては多少上がっていたにしても、追い切れない事は無かった。

 現にローズは上空から急降下したティリアの蹴り技を、ガードする事に間に合っていたから。

 ただ、ガードをしてもローズの身体ごと強引に吹き飛ばす程、パワーにおいての能力が異常とも言えるくらい増大していた。

 広場を覆っている木々が何本も倒れて行き、ようやく止まる事が出来たその後には、最初から存在したのかと思えるくらいの長い”道”が出来上がる。

「ごめんねー、やり過ぎちゃったみたい」

 随分遠くの位置からティリアの声が聞こえる。

 自分の身体で薙ぎ倒し、上に乗っている木々をどけて立ち上がると、二、三百メートルはティリアとの距離が開いていた。

「…………なんて力なのよ。力の受け止め方を一瞬でも間違えたら、身体がどうなるか分からないじゃない」

 それはリンの放つオーラブローによく似ていた。

 受け止め続ければ強大な力により、防御をしても部分的に身体の機能は殺されてしまう。

 受け切ってしまえば、その時点で大変な事態になってしまう事は明白。

 だからこそローズはティリアの打撃による力を、受け流す方法を取った。

「力を流したのに、まさかこれだけ飛ばされるなんて……想像以上で出鱈目にも程がある」

 ローズ自身も黒曜を使うべきだと考えはしたが、アデル達の戦いで葬化を使った直後の葬化はさすがに身体への負担が大きく、黒曜へなった時の負担は更に大きくなる事を考え思い止まる。

「ほらほらぁ、どうするのー? このままじゃ、あんた、確実に負けちゃうわよ? と言っても、黒曜はどうやらならないようにしているみたいだし、このまま終わっちゃうのかしらねー」

「…………」

「何よ、もっと愛想良く出来ないわけ?」

「……何度も言わせないで。私達は殺し合いをしているのよ、慣れ合いをしに来たわけじゃないわ。火葬華っ!」

 火葬華の炎がティリアを目掛けて放たれる。

 だがティリアは、その炎を片手で受け止めから、ローズへ弾き返した。

「こんなの避けるまでも無いわっ!」

「でしょうね」

 火葬華はあくまでも間合いを近付ける為の手段。

 ティリアの懐に飛び込んだローズが、素早い攻撃を間髪入れずに放ち続ける。

「黒曜を使ったあたしと接近戦をするなんて、あんた、ただのバカなんじゃないのっ?!」

「さぁ、どうかしら。それは私に攻撃を当ててから言うべき台詞だと思うのだけれど?」

 ローズが言うように攻守が逆転する場面が訪れていても、ティリアの攻撃はローズに当たる事が無く、徐々にローズの攻撃する回数が増え始めて来ていた。

 確かにティリアの魔法力は今のローズを超えている。

 ただ、やはり経験の差は埋まる事が無く、ティリアの攻撃は直線的でとても読み易い、だからこそローズに攻撃が届かない事を、ティリアはまだ理解出来ないまま攻撃を繰り出し、そして変わる事無く、ローズに避けられてしまう。

「いくら強くなっても、当たらなければ意味が無いわよね?」

「うるさいっうるさいっ! このおっ!」

 大振りの攻撃は文字通り空を切り、その先の木々を薙ぎ倒して行く。

 そしてそれは同時に大きな隙となり、ローズへ絶好の機会を与える事になった。

 一撃目をもろに受けたティリアが体勢を崩した事を見計らい、更に高速の連撃を放つ。

「桜華っ!」

 蹴り上げられ、上空へと吹き飛ぶティリアへ火葬華の追撃が急襲する。

 防御行動は間に合わない。

 そして更に次の火葬華が何度もティリアの身体へと命中し、上空に大きな黒煙を作り上げていた。

「あぁっもぉっ! 邪魔っ!」

 ティリアが魔法力を解放し、黒煙を払い除ける。

「なんなのよ…………なんでっ、あたしの攻撃が当たらないのよっ! あんたの方が弱いくせいにっどうしてっ!」

「……だから言ったでしょう? あなたには経験が不足している、とね。私の事を、その辺の転生者達と同じように考えているようだけれど、それは間違っているわ」

「何がどう違うって言うのよっ! あんただって転生した時に貰った能力使っているだけじゃないっ!」

「だから間違えていると言っているの。私のこの力は一から習得したもの。努力もせず得た反則紛いの力と同じにしないで貰いたいわね」

「認めないっ! 絶対に認めないっ! 能力の劣っている人間のくせにっ、あたしよりも強いだなんて事……ぜっっったいに認めないっ!」

 急降下して地上に降りて来た直後、ティリアはローズへ向かって間合いを詰める。

 今まで以上に強大な魔法力を纏い、両手両足を使いながら攻撃を繰り出すものの、それは一度だって当たる事が無かった。

「な、んでよっ! あんたっ、さっきはあんなに吹っ飛んで行ったのにっ!」

「受け流すタイミングを変えれば造作も無いわね。まぁでも、万が一そのタイミングを間違えてしまったら、またとんでもなく向こう側へ飛ばされるでしょうけれど」

 ティリアにしてみたらローズが見せる余裕は、更に苛立ちを増加させるものだった。

 けれど、実の所、そのローズに余裕は一切無い。

 何故ならティリアの能力がローズの予想を遥かに超えていたから。

 力を流しているとは言っているものの、瞬間的には受け止めている。

 その瞬間でさえ受け止めた腕に走る衝撃は途方も無い。

(それに……何度か攻撃が当たっているのに、怯む事さえない。このままだといずれ私の腕の感覚が無くなるか、体力が無くなって避け切れなくなるか……どちらにしても、状況は私が不利)

 もしこの場に二人の戦いを見ている者がいたとしても、その激しい攻防について行ける者はいなかっただろう。

 広場の地面は陥没し、隆起し、周囲の木々は無残にも薙ぎ倒され、二人の戦闘の激しさを物語る。

(まさかこんな事になるだなんて思ってもみなかった。アデル達を一瞬で葬っておくべきだったわね)

 経験の差に活路を見い出せたのは束の間。

 馬鹿げた事を思っているかもしれない、そうローズは思いながらも思考の片隅に浮かぶある言葉。

 真装神龍との名が示す通り、その存在は”神”なのかもしれない、と。

(……少し魔法力を上げて掛かるしか無い……セリカに殺されるその日まで、私は負けるわけには行かないのだから)

 ひゅっと風切り音を発した直後、ティリアの視界からローズの姿が消えた。

「えっ?!」

「こっちよっ」

 ローズがティリアの上から身体を回転させ、踵落としを放つ。

 頭の上で腕を交差させながらその攻撃を防ぎ、そして反撃をするが。

「い、いないっ?!」

「だから、あなたには経験が不足していると言っているの」

 声がしたのは、ティリアが上を向いたのとは逆。

 気付いてからではすでに遅い。

 ローズの強烈な打ち上げる打撃を食らい、ティリアは上空へと舞い上がる。

 その身体を追い掛け飛び上がり、体勢の崩れたティリアへ連撃を放ち続けた。

 装具同士がぶつかり合い、金属の音が何度も響き渡って行く。

「くっ、こ、のぉっ!」

「遅いわ」

 反撃に転じようとしたティリアよりも速く、ローズが身体を半回転させ、強烈な蹴り技からティリアを蹴飛ばした。

 それでも”飛べる”能力のあるティリアは空中で留まり、体勢を立て直す。

「っ?!」

 そのティリアの目に飛び込んで来たのは、火葬華の火炎。

「こ、んなのぉっ!」

 防御行動に出て、火葬華を防いだティリア。

「もう一度言うわ。あなたには経験が不足している、とね」

 ドカン。

 火葬華による爆発音と同じくらい、大きな打撃音。

 そして、地面へ激突するティリア。

 火葬華を防いだところで、ティリアのいた更に上空から、ローズが放った攻撃は、先程防がれたばかりの踵落とし。

 着地したローズの眼前には、大きく陥没し、隆起した地面。

(手応えはあった……けれど、効果はそれ程、無さそうね……)

 しばらくして地面から勢いよく飛び出して来たティリアは、そのまま上空へと留まり、眼下のローズを見据える。

「許さない……絶対っ許さないからっ!」

 燃え上がるようにティリアの身体から、魔力が解放された。

 地響きを引き起こす強大な魔力。

「くふっ、くふふふっ…………キャハハハっ! 避けてもいいけど、あんたがこれを避けたらこの辺り一帯どうなっちゃうか……あたしでも分からないからねぇっ!」

「……シャインバーストメガフレア」

「へぇ、これ、知ってるんだ?」

「先代のバハムートが使用する場面を見ているから……」

「あんたが死のうが、ここら辺が吹っ飛んじゃおうが、あたしはどうだっていいけど……せいぜい頑張ってみる事ね。まぁ、無理でしょうけれどっ!」

 先代のバハムートが放った時は、数多くの転生者により防ぐ事が出来た。

 それでもその技は多くの犠牲者を出した、確実なる必殺の攻撃。

 耐えられなければ即終了を意味している事を、ローズはよく理解している。

「さて……どうしたものかしらね…………」

 とは思うものの、残された選択肢はただ一つ。

 火葬華黒曜。

 自らの魔法力を能力の向上へ返還する第二の形態。

 いくらローズが転生者よりも次元の違う高い能力を持っていたとしても、ティリアの放つ大技に耐えられるとは思えなかった。

「それでも、他に方法が無ければ……やるしかないのよね…………。火葬華っ黒曜っ!」

「最後の悪あがきってところかしら? でも、その魔法力じゃとてもじゃないけど、あたしのフレアに耐える事なんて出来ないっ!」

「なんとでもいいなさい。私は……私を倒すべき相手は…………セリカだけなのだからっ、こんなところで選択肢が残されているのにも関わらず、何もしないで倒されるわけには行かないのよっ!」

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