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真装化 黒曜

「ねぇ、ローズ。それ、使って大丈夫なの?」

「……」

「まぁ、そうよねぇ。大丈夫、じゃないわよね。だって、あんた、正式な魔王の配下じゃないでしょ? まだ”人間のまま”なんだもん。葬化を使うと……命に関わって来る事知ってるわけ?」

 空中にいた真装神竜は地上へと下り立つ。

「百も承知よ。あなたに気にされる筋合いは無いと思うけれど?」

「それなら遠慮しなくても良いって事?」

「ええ」

「あ、そう。言い訳されたんじゃたまらないし、なら良かったわ」

「次は私から質問をさせて貰うけれど、あなた、名前は? 真装神竜とかバハムートとか、呼び辛くてかなわない」

「あたし、ティリア。真装神竜バハムートのティリア。よろしく」

 しばらくお互いに立ち竦み、沈黙が続く。

 ティリアは余裕から相手の出方を伺い、対するローズはティリアの魔法力から迂闊に手を出せない状況から出方を伺う形になっていた。

 そして何より、アデルとの戦いで体力を消耗して事もある。

 万全の態勢、とはとても言い難く、魔力を糧として能力を上げる黒曜に至っては、ほとんど装具を身に纏っている時間は残されていなかった。

「そっちから来ないなら……行かせて貰うからねっ!」

「?!」

 顔を目掛けて放たれた打撃を素手で受け止める。

「やるじゃない……でも、まだよっ!」

 更に空いている腕を振り抜き、打撃を繰り出すがそれもローズは空いている手で防ぎ切る。

 どちらも両手が塞がった状況の中、ローズは右足を振り上げ攻撃へと転じる。

 ティリアはローズの攻撃を余裕を持ち、半歩下がり避けた。

 蹴り上げた状態から身体を回転し、ローズが着地した瞬間を狙っていたティリアは、ローズの取った行動を読み切れず、間一髪で頭の上で両腕を交差し、回転せず途中から踵落としへと転じたローズの攻撃を何とか防ぎ切り、受け止めた腕を使い力ずくでローズを追いやった。

「……あの体勢から、踵を入れて来るなんて。さすがにヒヤッとした……?!」

 ティリアの会話など構いもせず、ローズが攻撃を仕掛ける。

「ちょっ、人の話しくらいっ、聞きなさいよねっ!」

 その言葉すらも意に介さずして、ローズは連撃を繰り出して行く。

 ただ、ローズが一方的に攻めに転じているように見えていても、そう”見えているだけ”。

 相手の力量が分からない理由があり、様子を見る事を含めてある程度、力を抑えてはいる。

 けれど手を抜いているわけでは無い。

 それなのに全ての攻撃を容易く防ぐティリアの計り知れない力に、ローズは内心焦っていた。

 元よりの魔法力の差、そして消耗した体力。

(何か、何か一つでも私が有利になる打開策が見当たれば……)

 考えを巡らし、勝つ方法を見出そうとしている中で、ティリアはローズの焦燥を更に上げる行動へと出た。

「あぁっ、しつっこいわねっ!」

「…………くっ、失念していたわ。浮遊されては手も足も出せないじゃない」

「ふんっ、どう? あんた達人間風情には真似出来ないでしょ?」

 しばらく浮遊してるティリアを下から眺めていたローズは、右手をかざして火葬華を放つ。

「うわっ、ちょっとっ! 何するのよっ! 危ないじゃないっ!」

「変な人ね、あなた。今、私と殺し合いをしているのでしょう?」

「そうよっ! それが何っ!」

「…………本当に、殺し合うつもりなの? いまいち相手にするべきなのか、私には計り知れないのだけれど?」

「それはあんたが勝手にそう思っているだけでしょ? あたしはこんな世界、無くそうと思えばいくらだって簡単に無くせるくらいの力を持っているのよ?」

「それなら、どうして破壊しないのかしら?」

「そんなの、簡単に終わったら……詰まらないってだけよっ!」

 ローズの速さに匹敵する動きを見せるティリア。

 瞬時にして上空から地上、そして、ローズの背後へと回り込み魔法を発動する。

 多少その動きに反応が遅れはしたものの、ティリアへと急接近し、魔法を発動しているその腕を払い上げティリアの魔法を無効化する。

 そしてがら空きになったティリアに強烈な三連撃を叩き込む。

「桜華! 彼岸華! 月光華!」

 三撃目の追い打ち攻撃をかろうじて避けたティリアが代わって、ローズへと攻撃を仕掛けた。

「おかえしよっ!」

 乱暴に振り上げた右腕を振り下ろし、ローズの身体を地面へ叩き伏せる。

 さらに地面へと伏したローズ目掛けて、右足を下ろし、強引に踏み付けると、その場の地面が大きく陥没を起こした。

「人間のくせに、あたしを踏み付けようとした仕返しよっ!」

「……それはこっちの台詞。人間を端から見下しているあなたに、やられるものですか」

「くっ、こ、のぉぉぉおおおっ!」

 振り下ろされたその足をローズは腕て受け止めた。

「先代が討伐された事、あのドラゴンの子が殺された事、あなたの悔しさは、分からない事も無いわ。でもね……その悔しさを向ける相手が、違うんじゃ……ないのかしらっ!」

 力ずくでティリアを押し返し体勢を立て直す。

 間髪入れずに火葬華を放ち、ティリアを自分から遠ざけ、間合いを取る事にローズは成功した。

「何も違わない。あんただって元転生者なんだから……あんたを殺したその後に、スタープラムの世界にいる転生者を全て刈り取る」

「それならばどうして分かり合おうとしないの。あなたが望めばその役を全て私が引き受ける」

「そんなの当たり前じゃない。別の世界から来た”人間”を信じろって方がおかしな事なんだから。あたしに殺されたく無いなら、自力でなんとかする事ね。まぁ、葬華の使い過ぎでその身体がもてば、の話しだけど」

「…………」

「ただの人間がそれを使うからそう言う事になるのよ」

「そんな事、重々承知の上での事」

 葬華システム。

 その身に装具を纏い、基本能力を大幅に増幅するスタープラム特有の力。

 ただしそれを使いこなす事が出来るのは”スタープラムの世界の住人だけ”であり、元々違う世界から来た転生者に至っては、そのシステムを完全に使いこなす事は”不可能”となっている。

 使用すれば使用した分だけ、命を削り取られてしまう仕組み。

「普通は転生者に仕える能力じゃないってのに、どうして使えるのかは不思議なのよね」

「私は一度死にかけたところを、セリカによって救われた。それが原因でしょ。気付けばこの能力を使える事が意識として存在していたわ」

「ふーん、半分はスタープラムの住人って認められているって事? でも、後何年生きられるでしょうねっ!」

 地面を強く蹴り、一足飛びでローズへ間合いを詰める。

 両手両足を駆使した力強く速い連続攻撃。

 武器を必要としない近接型の転生者であっても、今のティリアが繰り出す連撃に数分と持つ事は無いだろう。

 粗削りで乱暴な体術であったとしても、能力がそのマイナス要素を打ち消す形で補い、ティリアの不安要素を相殺する事になっていた。

 でも、それは相手が転生者であった場合の話。

 その転生者の能力を超えるローズに取ってみれば、漬け込むべき弱点となる。

「な、んでっ当たらないのよっ!」

「…………」

 転生者達では追い切れない速さで繰り出す攻撃を、全て避け、防御仕切るローズ。

 右手から繰り出す攻撃を下から上へ受け流し、ティリアの身体へ隙を作り出す。

 がら空きになった身体へ殴打による打撃を連続で叩き込み、思い切り力を込めて蹴り上げ、上空へ吹き飛ばした。

「力はあたしの方が上だってのにっなんで……はっ?!」

 目の前に迫った業火の球体に気付いた時には、ティリアの防御行動が間に合う事は無かった。

 轟音と共に大爆発が起こり、黒い爆煙が空に掛かる。

「…………」

 地上でしらばくその爆煙を眺めていると、ティリアが苛立たしそうに地上へと下りて来た。

「納得行かない……納得出来ない…………。なんで、あたしよりも弱いあんたの攻撃が当たって、あたしの攻撃が全く当たらないのよっ!」

「…………」

「無視してないでなんとかいいなさいよっ!」

「…………教えて上げるような義理は無いと思うけれど?」

「なっ?!」

「まぁ、でもいいわ。何をするか分かったものじゃないし、教えてあげる。とても簡単な事よ。あなたは明らかに経験不足。転生者くらいが相手であれば、圧倒的な能力差で問題は無いだろうけれど、相手が私になるとその経験不足が著しく表れている、と言うだけの事よ」

「……何よそれ、そじゃあ、あたしの方が弱いってわけ?」

「別に弱くは無い。何度も言うけれど、経験が足りていないのよ。戦う事に対しての熟練度が何もかも私よりも低いって事」

「…………」

 葬化による装具でティリアの表情は伺えないが、ティリアの抱く苛立ちは増えて行く。

 たかが人間でどうせ格下。

 そう思い遊び程度の終わるだろうと思っていた。

 だが、実際は全くの真逆。

 弱者だと思っていたはずの相手に押されている挙句、自分に足りない事まで指摘を受けた。

 その事がティリアにはどうしようも無いくらい、悔しかった。

「……だったら、あんたの言う圧倒的な能力差で…………捻じ伏せるまでよっ! 真装化っ黒曜っ!!」

 ティリアの魔法力が爆発的に増大する。

「くく、ふふふっ! きゃははっ! もうお遊びはお終い……あんたはここで…………死になさいっ!」

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